《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【番外】なんちゃって新婚旅行 ~箱編〜 パート3

「じゃあ、案よろしくねっ!」

メアリーさんが堂庭へ渡した行程表はそのまま俺に流れてきた。

堂庭は方向音癡だから俺が道案する方が適切というのは分かるが、さも當然のような素振りをされても困るのである。

「なあ、たまにはお前がガイドしたらどうだ?」

「……遭難するかもしれないけど良いの?」

「前言撤回。今日は俺に付いてこい」

そういえば箱は山々に囲まれた町だった。彼に任せたら本當に遭難しかねない。冗談でも言うべき事じゃなかったな。

「ふふ、頼もしいねぇ」

「お前がポンコツ過ぎなんだよ」

「うるさい! 績ならあたしの方が勝ってるでしょ!」

背中にグーパンチを食らう。でも明らかに力加減をしており痛くは無かった。これぞ、のパンチ。

「まあまあ落ち著こうぜ。怒ってばかりじゃ幸せが逃げるぞ?」

「むぅ、なんか晴流に言われると納得がいかないけど……今日はその通りにさせてもらうわ」

不服そうな顔を浮かべる堂庭だが、これもこれで可げがあるな。

「よし、じゃあ最初は船を見に行くか」

行程表には各観名所への行き方と滯在時間等が丁寧に記されている。

目的地へ向かうバスはまもなく発車するらしいので俺達は早足で停留所まで向かった。

到著した場所は蘆ノ湖あしのこ。そこそこのスケールを持つ湖であるが、どうやら神奈川県最大の規模を誇っているらしい。同県民でありながら目の前の案看板を見るまでは知る由よしもなかったので、覚えていなくても全く問題ないはずだが、一応雑學として頭の片隅に置いておくことにした。

「ねぇ晴流、富士山が綺麗だよ。寫真撮ろ?」

一方、雑學なんて興味無いぜと言わんばかりの堂庭は目前に広がる景について小學生並みのコメント。というかこのセリフ、クリスマスの時にも聞いたような……。

「別に富士山なんて鎌倉からでも綺麗に見られるだろ」

「いやいや、こういうのは雰囲気が大事でしょ?」

「そういうもんかなぁ……」

「ほら、ぐずくずしてないでこっち來て!」

手を握られごと引き寄せられる。左肩に堂庭の頭がぶつかった。

「ちょ、近いって……」

「頭下げてよ、カメラに映らないじゃない」

文句と共にバッグからスマホを取り出す堂庭。どうやら自撮り寫真を撮りたいらしい。

「っと……このくらいか?」

腰を曲げて堂庭の視線に合わせる。しかし微妙な中腰になっている今の勢は非常に辛かった。もういっそのこと膝立ちにした方が楽かもしれない。長差があるカップルって大変なんだな……。

「じゃあいくよ〜。はい、チーズ!」

澄んだの湖と富士山を背景に一枚。

堂庭は屈託の無い笑顔を浮かべていたが、俺は勢が辛いせいで若干引きつった笑顔になってしまった。

「晴流見てあれ! すごい大きい船が來てるよ!」

俺の苦労も知らず、すぐさま次のブツへ目移りする堂庭。年齢にそぐわず、子供のようにはしゃいでいるが、楽しそうにしてるので良しとしよう。

「あれは……海賊船だな」

段々とその姿を大きくしているのは赤塗りの派手な船。海賊船である事に間違いないが、別に麥わら帽子を被った年や白い髭のおっちゃんが乗っている訳では無い。そもそも湖という時點でお察しだと思うが、これは実在の戦艦を模して建造された遊覧船なのである。

「海賊……ってヤバくない? 晴流、どうしよう……」

「いや、これはただの――」

「逃げなくちゃ! この町も襲われちゃうかも!」

わたわたと慌て始める堂庭。どうやらガチの海賊が來たと思っているようだ。事実を教えてあげようと思ったが、面白そうなので暫く様子を見てみることにする。

「乗ってみるか?」

「え、晴流正気なの!? いくらなんでも敵地に乗り込むのは止めた方が良いと思うわ」

「じゃあ寫真でも撮るか。記念になるし」

「だからなんでそんな悠長にしてるの! あたしはまだ死にたくないわよ……」

堂庭の聲は焦りと不安によって徐々に弱くなっていく。そのうち泣きそうな勢いだ。稚園児かよ。

「大丈夫だ、俺が守ってやる。だからお前は先に逃げるんだ」

「え……。あたしだけ逃げるなんて……出來る訳ないじゃない!」

「安心しろ。必ず戻ってくるからさ。しだけ待っていてくれないか?」

「晴流……」

「俺があのチンピラ共をやっつけたら結婚しよう」

――流石に調子に乗り過ぎたかな? 最後なんて誰が聞いても分かる死亡フラグだし。

「うん……分かった。あたし待ってるからね」

しかし堂庭は俺の演技を完全に信じ切っているようだった。いや、素直な子は嫌いじゃないし可いと思うけどさ、ここまで疑いの余地も無いとなると心配になるんだが。架空請求にまんまと引っかかっちゃうタイプだよこれ。

「堂庭……ごめん。まさかお前がそこまで純粋な子だとは思わなかった」

「えっと、どういう事?」

「その……。今のは全部噓だ」

「………………は?」

口をポカンと開けたまま直する堂庭。嫌な予がするが、このままネタバラシを続ける。

「あれは海賊船だけどただの遊覧船だ。乗っている人も皆観客なんだよ」

「じゃあ…………海賊はいないの?」

「もちろんだ。大、湖に海賊がいるわけないだろ」

「…………なんでもっと早く教えてくれなかったの?」

ギロリと睨まれる。まあ、こうなるよな普通は……。

「いや、完璧に信じてるお前を見てたらなんか……面白くてさ」

「…………面白い?」

「ちがっ、その……子供みたいで可いなって思って……」

「ふぅーん」

さあどうなるか。今のセリフ、大抵の子なら「子供みたいって馬鹿にしてるの!?」とガチギレされる案件だが……。

「…………そんな褒め方であたしが喜ぶなんて大間違いなんだからねっ」

堂庭は顔を俯かせながらボソッと呟いた。い見た目に誇りを持っている彼にとって「子供みたい」という罵倒は十分過ぎる褒め言葉なのである。

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