《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【スピンオフ・修善寺の過去】児編「平穏な日々」

私、修善寺しゅうぜんじ雫しずくの家庭環境は恵まれていた。

父は上場企業の代表取締役社長。母は父の書を務めており、私自も將來は會社をけ継ぐように教育には力をれたかった……らしい。

以上の事から金銭的に困窮する事は一切無かった。いわばピラミッドの頂點に位置する富裕層であり、手にれたいは必ず手にる。資本主義社會である以上、札束の暴力で葉わない夢は無いという環境に私は産まれたのだ。

そんな私なのだが、高校二年生となった現在はピラミッドの下層部。白米を食べられる事に幸せをじるような一般庶民未満の立ち位置まで大転落を起こしてしまっているのは周知の事実。

では何故大富豪の娘がマッチ売りのの如く哀れな娘に陥ってしまったのか。私自で直々にお話しようと思う。

――三歳。私立鶴岡學園附屬稚園園。

この頃は宮ヶ谷君はもちろん瑛や桜とも知り合っていなかった。通っていた稚園が違うためだ。

名企業社長の一人娘として気品溢れる子に育つように――というのは建前で本音は父の権力に傷が付かないように封じ込める為だったのだろうけど、私は両親の私のままに早くも名門お嬢様子校の仲間りを果たしていたのだ。

「しずくちゃん。あーそーぼっ!」

「うん!」

それでも三歳という齢よわいである為、セレブの娘が集まっても會話や遊びはごく平凡だったはず。おままごとの金銭的なスケールは庶民とは桁外れだったが。

平和過ぎる日常。そして英才教育と呼ぶべきなのだろうか。私はこの頃から習い事を數多くこなしていた。ピアノにバイオリン、書道にバレエまで手をつけていた。要するに親の意向に逆らわず、すくすくと従順に育っていたのだ。

――五歳になってから數ヶ月後。私にとって最大の出會いが起きる。

「せんせーさよーなら。みなさんさよーならっ!」

「はいさようなら! また明日會いましょうね!」

帰りの挨拶となっているお決まりの文句を園児全員で聲を上げ稚園の一日は終わる。それからは保護者の迎えが來るため教室から園庭を通り抜けて玄関に向かうのだが、この日の私は教室に暫く居殘っていた。探しをしていた為、皆の行に乗り遅れていたのだ。

五分ほど経ってようやく探しが見つかる。既に誰も居なくなった教室を出て、閑散とした園庭を駆け抜けていると視界の隅で何かが気になった。

「おーい!」

誰かを引き止める聲がする。そして聲の方向から推測すると園庭の中にいる人――つまり私に向けられた聲であり、後ろを振り返ると鉄格子の柵の外からこちらを覗いている年がいた。

「こっちに來て!」

知らない大人に付いて行ったら駄目だと両親や先生から教わっていたので私はし戸ったが、相手は自分より三つぐらい年上と思われる男の子。子供に付いて行ってはいけないとは言われて無かったので、私はその場の興味本位だけで彼の近くに駆け寄った。間に柵もあるし萬が一の場合でも大丈夫だと判斷したのだ。

「あなたは……誰なの?」

「キミは楽しいと思う?」

質問には答えてくれなかった。それどころか、謎の質問までけてしまった次第だ。この人……大丈夫なのだろうか。

「えっと……」

「ここに通ってる子ってさ、みんな金持ちなんだよね。でもみーんな楽しそうに笑ってないの。俺たちの方が無量大數倍楽しいと思うぜ!」

言いながら彼は無邪気に笑っていた。初対面の相手、しかも児のの子にとんでもない煽りをしてきた訳だが、當時の私は不快に思うことは一切無く、寧ろ彼の言葉が気になって仕方なかった。

「もっと楽しい、の? お金が無くても楽しいの?」

煽りに対して煽りで返すとは我ながら心するが當時の私は自覚が無かった。世の中の全ては金であり、楽しみや幸せは全部金で測れるのだと思っていたのだ。

「そうだとも。俺たちはキミよりも面白い遊びをたっくさん知ってるんだぜ。例えば……」

年はニコニコ笑いながら地面の土を両手で弄り始めた。私はそんな彼を瞬きする間も惜しんで見つめる。既に興味津々だった。

「何してるの?」

「ここをよく見てろよ……。ほら、アリの巣だ!」

彼が指差す先には大量に蠢うごめく黒い蟻。

「ひゃっ!?」

「はっはっは。どうだ、面白いだろ?」

彼は楽しそうだった。

土を素手でるなんて汚らしいと思ったけど、それ以上に彼が語る未知なる遊びに私は惹かれていた。同世代の仲間は全て富裕層の子だった私にとって庶民の男の子は正に対極の存在。知らない知識を披してくれた事が嬉しくてたまらなかった。

「雫ちゃーん。お迎えが來てるわよー!」

ところが現実に帰らなくてはいけない時が來る。

私を呼ぶ先生の聲が園庭に屆いてきた。今の狀況はあまりよろしくないので早く戻らないといけない。

「ごめん。私そろそろ行かなくちゃ」

「おぅ! じゃあまた會おうぜ! 俺はまた來るからさ!」

「うん!」

私は元気よく返事をしてその場を立ち去った。正直な話、この出會いでじた嬉しさは過去の記憶で一番だと思っている。そして高校生となった今でもそれが塗り替えられる事は無い。

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