《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【スピンオフ・修善寺の過去】児編「いつもと違う日」

彼と出會ってからの毎日は楽しかった。

朝になって起きると私は早く午後にならないかだけを考え、稚園の一日が終わるとすぐに園庭の隅に駆けて行った。父親の車による迎えが來るまでの僅か十數分の間だが、彼と話す一時は私の至福の時間となっていた。

「よう! 今日も楽しくなさそうな顔をしてるなー」

「えぇぇ。私は楽しいよ?」

鉄格子の柵の向こうで彼はいつも待ってくれていた。そして私の顔を見るや否や「楽しくなさそうだな」と必ず笑いながら言うのだった。

「いいや、キミはもっと楽しい顔をするはずだよ。だから俺がもっと面白い事を教えてやるぞ!」

「うんっ! それで今日は何を話してくれるの?」

「そうだな……。じゃあ授業中に居眠りしてもバレない方法を教えよう!」

彼の話は本當に面白かった。調子に乗って川に飛び込んだり、居眠りをして先生に怒られたり、忘れをしたり……。だらしないエピソードが多かったけれど、私にとってはそれが新鮮で得意気に話す彼が格好良いとも思ってしまっていた。

――ある日。

「キミってなんかオーラが無いよね」

「おーら……?」

この日の彼は珍しく悩ましい顔でこちらを見ていた。

「お金持ちっぽさが足りないんだよねー。でも一般人ってじもしないし……微妙なんだよ」

「びみょう……」

自分が凄いセレブで他の人とは違うという意識があっただけに、彼の言葉にはとてもショックをけた。まさかこんなザ・庶民に言われるとは思わなかったし。

「やっぱ第一印象が大切なんだよ。テレビでもやってたぞ。だから……試しに口調を変えてみるのはどうだ?」

「くちょう……?」

五歳の私に対し彼は平気で難しい言葉をマシンガンの如く言い放っていた。いくら教育環境が整っているとはいえ全てを理解する事は出來なかったし、もっと気を遣えよと思うかもしれないけど、彼はきっと私を対等に見てくれていたのだと思う。真実は定かでは無いが私は嬉しかったのだ。

「語尾を変えてみるとか簡単かもな。「のじゃ」とか「じゃのう」ってお姫様なじがしないか?」

「おひめさま……!」

私は衝撃をけた。當時の私にとってお姫様や王子様は絵本に登場する憧れの様な存在。それに自分が一歩近付けるというのなら驚かない訳がない。完全に彼を信用していた素直な私はすぐさま試してみる事にした。

「こんなじに言えばいい……のじゃ?」

「おお! 良い、良いよ! 凄くオーラが出てるよ!」

私はあまり実出來なかったが、彼はとても喜んでいた。慣れない言い方ではあるが彼が喜ぶなら私も嬉しいし、これからも使っていこうと思った。

――こうして私の口調は特徴的なものになったのだ。彼が笑顔になるのなら私は一生変えないつもりだ。

數ヶ月後。

季節は冬に移り変わり、枯れた木々を揺らす風が特に冷たくじたある日。

帰りの挨拶を終え、私はいつもと同じように園庭の隅へ駆けていく。今日はどんな話を聞かせてくれるのだろうとを膨らませながら。

そしていつもと同じ鉄格子の柵がある場所へ辿り著く。しかしこの日はいつもと違っていた。

毎日必ず先に來て私を待ってくれていた彼が居なかったのだ。

「……なんで、なのじゃ?」

私は焦った。し待てば來るかもしれないが、こんな日は一度たりとも無かったのだ。

一分、二分、三分と時が過ぎて行く。しかし彼の姿は現れない。

そして……。

「雫ちゃーん! こっちに來てちょうだい!」

タイムリミット。先生の呼ぶ聲が聞こえたので私は行かなくてはならない。

「また明日……なのじゃ」

誰もいない柵の向こうに一言。

そういえば彼の名前をまだ聞いてなかったなと、ここで初めて気付くのだった。

「雫ちゃん。今日は先生の車で帰ろっか」

「え……?」

先生が発した言葉に驚く。いつも必ず父が運転する車で迎えに來てくれるのに、この日は何故か違うようだった。

「さっきお父さんから電話があってね。調を悪くされたみたいだから迎えに行けないって。いつも元気なお父さんだから心配になるわね……」

「うん……」

父が迎えに來れない程調が悪いというのは初めてだ。

もしかして深刻な病気に襲われてしまったのではないだろうか……。

慣れない車の後部座席に揺られながら、私は考えるのだった。

家の門をくぐり、母屋の口へ向かう。

玄関の左隣にはガレージがあり、いつもはシャッターが開いていて父の車が見える狀態になっているのだが、この日は閉まっていた。

珍しい狀態ではあるが今日起きた一連の出來事が既に珍しかったので私は特に気に留めることなく家の中にった。

「ただいま」

「おかえり雫。今日は悪かったな、迎えに行けなくて」

リビングのソファーに座り寛いでいる父。見た目だと調は特に問題無さそう。

は大丈夫……なの?」

「あぁ、ちょっと頭が痛かったんだが、今はすっかり治ったから安心してくれ」

父はそれから私の頭を優しくでた後「車の様子を見てくる」と言い殘し、部屋から出て行った。

私が心配し過ぎたのだろうか。でもきっとそうだ。今日はいつもと違う出來事だらけだったから過敏になっているんだ。

一人取り殘された部屋で私は私に言い聞かせていた。

冬空が薄暗くなってきた頃。

友人とのランチや遊びを楽しんだ母が帰ってきて夕食の時間となった。

ダイニングテーブルを三人で囲み、中央には家政婦が用意した豪勢な洋食がずらりと並んでいる。

「いただきます」

手を合わせて行儀よく挨拶をする。いつも通りの日常だ。

フォークとナイフを手に取り、雑談をえながら食を進めていく。そして部屋の脇に映し出されていたテレビの畫面をなんとなく見ていた。夕方のニュース番組が放映されていた。

「次のニュースです。本日午後二時頃、橫須賀市の県道で――」

若いのアナウンサーが淡々とした聲で読み上げていたが、突如畫面が切り替えられた。視線をテレビから離すとリモコンを手に持っている父と目が合った。

「雫、稚園は楽しかったか?」

「え、うん。楽しかった……よ?」

いきなり何を言い出すのかと思ったが極めて普通の質問だ。いや、普通過ぎて不自然なくらいだ。

「ふふ、お父さんったら急にどうしたの? 稚園なら楽しいに決まってるじゃない。そうでしょ、雫?」

「うん!」

「あはは、そうか。そうだよな。お父さん変な事聞いちまったな!」

父はそう言って大袈裟に笑った。母も釣られるように笑顔を浮かべている。

やはりいつもと違う。でもこんな日もたまにはあるよねと思えるような……いや、思わなくちゃいけないような気がした。

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