《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【スピンオフ・修善寺の過去】小學生編「失われたシンヨウ」

「修善寺さん、ごきげんよう」

「あぁ、薔薇園ばらみそのさん。ごきげんよう……なのじゃ」

翌日。いつも通り自宅から登校し、教室にるとクラスメイトに聲を掛けられた。特筆すべき點は無いごく普通の挨拶である。

「あら、なんだか晴れない顔をされてますけど……合でも悪いですの?」

「いや、大丈夫じゃ。これくらい平気……」

神的にかなり疲弊していたが、勘づかれないように何とか取り繕う。幸いにも父が逮捕されたニュースはメディアでは一切報道されていない為、気まずい空気になる心配はいらなかった。

それにしても大企業の社長がひき逃げ事件で捕まっているというのに全くスクープにならないのはある意味恐怖だと思う。金のチカラが働いたのだろうけど、事実を知らされない世の中という社會の闇を早くも知ってしまったのだ。

「無理はですのよ。必要であらば私が手を貸して差し上げますわ」

「ありがとう。でもわしは大丈夫じゃ」

作り笑顔を浮かべてやり過ごす。こんな狀況でクラスメイトの善意を素直にけ取れる訳が無い。私を気遣ってくれるなんて申し訳ない気がしたのだ。

しかしそんな甘ったるい日々は長く続かなかった。

放課後。オレンジの日差しが眩しくじる頃。

日直だった私は仕事という名の雑用を職員室で済ませ、誰も居なくなった廊下を一人で歩いていた。

ぱたぱたとスリッパが鳴らす足音を奏でながら學校の外に向かって進む。すると何人かの話し聲が聞こえてきた。

「この聲は……」

聞き覚えのある聲。その方向を見やると、どうやら私のクラスの教室に人が居るようだった。

「お疲れ〜。何してるの?」なんて言いながら気軽にっても良かったのだが、如何せん私の神的な調子は優れない。まずは様子を伺おうと教室の口からそっと中を覗くことにした。

「それにしても本當なのかしらねぇ」

「いやいや、委員長報だからかなり有力じゃない?」

どうやら噂話をしているようだ。教室に居るのはクラスメイトの三人で私に親しくしてくれている子もいる。盜み聞きをするのは気が引けるが、容も気になるのであとしだけ聞いてみることにした。

「でも驚きですわ。まさか修善寺さんのお父様がひき逃げだなんて……」

「だよねー。それにあの人確か社長やってたんでしょ? そしたらもう會社はオワリじゃない」

なんで……?

思わず自分の耳を疑った。でも私は聞き間違いなんてしていない。

最悪だ。

火のないところに煙は立たないという言葉もあるが、まさか極だったはずの事件をクラスメイトが知っていたとは……。

「っていうか前から思ってたんだけどさー」

當の本人が背後で聞いているなんて知る由も無いクラスメイト達は楽しそうな聲で続ける。

「修善寺のあの話し方、ぶっちゃけウザくない?」

「あーわかる。「なのじゃ」とかマジ空気悪くなるからやめてほしいよね」

いつの間にか私の膝はガクガクと震えていた。もう聞きたくない。今すぐ逃げ出したかった。でも足が思うようにかない。

「薔薇ちゃんもそう思うでしょ? ウザいって」

「えっと私は……」

「この際だし本音で言っちゃえば? 修善寺、ムカつくよね?」

「うーん、その……」

回答を迫られているのは私に毎朝挨拶をしてくれていた薔薇園さんだった。彼は気遣いが上手な人だ。誰にでも優しく聲を掛けてくれる。

だからきっと今は一緒に話している二人に気配りをするはずだ。この場にいない私への配慮なんてあるはずがない。つまり予想される答えは……。

「………………はい。ウザいと思ってましたわ」

「だよねー。マジわかるわ」

「もう薔薇ちゃんが言うくらいだから相當だよ、アイツ」

聞いてしまった。

でも分かってる。彼が周囲に合わせようとしただけで本心は違うはず。

だけど――が張り裂けるくらい辛かった。

「犯罪者の子供なんだからさっさと追い出そうよ」

「うわ、それは流石にひどくなーい? なんてね、キャハハ」

「っ……!」

ここでようやく私の足はいた。

勝手に涙が流れてきたけど、そんなの無視してただがむしゃらに走り抜けた。

もう私の味方なんていない。全員が敵になってしまったんだと思った。

次の日。

放課後になり、閑散としたグラウンドを一人で歩いていると、校門近くの壁に寄りかかっている小さい人影を見つけた。

「あれは……」

腰元まで垂らしたツインテール……実に見覚えのあるシルエットだ。お互いが十分認識できる距離まで近づくと、不機嫌そうな目で私を睨んできた。

「遅いわよ。もう待ちくたびれて足がパンパンになっちゃったわ」

「瑛殿、どうしてこんなところに……」

ふくらはぎの辺りをりながら文句まで垂らすその子は、ひょんな事から仲良くなった堂庭瑛だ。しかし彼と今日待ち合わせをした覚えは無いのだが……。

「別になんだって良いでしょ。それにあたしは怒ってるのよ!」

どうやらご立腹の様子。もしかしたら、私が最近落ち込んでいたせいで一緒に遊ぶ回數が減ったことに不満を持っているのかもしれない。

「ごめん、なのじゃ……」

「はぁ!? なんであんたが謝るのよ」

「え、だって最近わしと一緒に遊んでないから怒ってるんじゃ……」

「あのねぇ。見當違いも甚はなはだしいわよ。あんたらしくないじゃない」

のふくれっ面は変わらない。今、彼が何を思っているのかよく分からなかった。

「それに、謝るのはあたしの方だわ」

「え……?」

俯き加減にポツリと呟く瑛。果たして私に謝る事なんてあっただろうか。

「今日のあんたへの態度、散々だったじゃない。どいつもこいつも調子乗って嘲笑ったり無視したりわざとらしく避けたり……。もう全員ぶん毆ってやろうって思ったけど出來なかったから……ごめん」

「そんな……。瑛が悪い訳じゃないから気にしないでほしいのじゃ」

確かに彼の言う通り、今日の私に対するクラスメイトの態度というのは普段と大きく異なっていた。

父親が犯罪者という報はまたたく間に広がり、皆で私を蹴落とそうとしていた。

でもそれは仕方のないことだと思う。だって自分のの回りに危険人がいたら怖いから。人はみんな自分を一番大切に考えるから、わざわざ危ない道を選んで進むはずなんて無いのだし。

「あたしは気にするのよ。文句あるわけ?」

「でも……。私のお父さんは捕まったのじゃよ? 怖がるのも當たり前なのじゃ。瑛だって本當は…………わしと離れたいって思ってるじゃろ?」

「…………ねぇ。あんたそれ本気で言ってるの?」

は今まで聞いたことのないくらい低い聲で反論した。そしてお互いの息が顔に吹き當たるくらいの距離まで近づくとぐらを摑まれた。

「な、何なのじゃ」

「ふざけるんじゃないわよ! あんたはあたしの友達でしょ。もう二度と馬鹿な事は言わないで!」

の目は走っていた。「あたしは本気だぞ。そんな弱気を見せるな」と言葉を発さずとも訴えかけているのが分かった。

「それにあんたが何か悪い事をしたの? 家族がどうとか知らないけど、雫をいじめる理由にはならないじゃない」

ぐらを開放され、瑛も若干落ち著きを取り戻した。確かに私が罪を犯したわけではない。だからといって私が排除されないという事でもないのだ。現実はそう甘くはないのだ。

「お主の気持ちは嬉しい。じゃが、わしがハブられるのは仕方のない事なのじゃ」

「ふーん。でもさ、あんたの口癖を気持ち悪がってた奴もいたでしょ? あれはどうなるのよ」

「それは……」

私の父に関する噂を聞いた途端、クラスメイトの連中は急に私の口癖についても難癖をつけるようになっていた。どうせ蹴落とすなら他人と違う所を餌にして、とことんめ抜いてやろうということなのだろう。

「あたしもあんたの口癖は気にらないわ。確か小一の時、あんたに直接申したこともあったわよね」

「あぁ……そういえばそんな事もあったのう」

クラスで一番のが突然私に聲を掛けてきたと思ったら「言葉遣いがムカつくからやめろ」と言ってきたのだ。瑛らしい素直な態度ではあるが、もうしオブラートに包んでほしかったものである。

「でもね……」

は軽く息を吐いた後、私の目をしっかりと見つめながら続ける。

「あんたの口癖は嫌いだけど、その口癖を止めさせようとする奴は許さないわ。好きな人のために頑張っている事を否定する人間はあたしにとっても敵だから、何があっても許さない」

「瑛……」

私が使っている口癖は憧れだった蒼琉くんの意志なのだ。瑛はそれを理解しており、自分に置き換えて考えてくれている。彼自信も好きな人がいるから私を放っておけない、ということなのだろうか。

「あたしはあんたの友達としてするべき事をするわ。別にあんたを守りたいとかそういう意味じゃないから……勘違いしないでよね!」

「うん、ありがとう。本當に……」

は顔を赤く染めてそっぽを向いてしまったが、私はとても嬉しかった。瑛は私を友・達・と言ってくれた。私の父ではなく私・を見てくれた。それが本當に嬉しくて、気付けば涙がこぼれていた。

「え、ちょっと何泣いてるの!? どこか怪我した? 大丈夫?」

「ふふ、お主は本當に優しいのう」

本気で私を心配してくれている瑛を見ると涙はもう止まらなくなった。

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