《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【スピンオフ・修善寺の過去】中學生編「ヨコスカの休日」

日曜日の正午よりし前。

私は待ち合わせ場所である中央Yデッキ(橫須賀中央駅に隣接するペデストリアンデッキ)に來ていた。

を代表する繁華街でもあるこの場所はいつも多くの人で賑わっている。鶴岡學園から徒歩十五分程度の距離にあるため私達生徒の遊び場でもあるのだが高貴な校風を維持する都合上、寮舎からの不要な外出は認められていない。

もし教師に見つかった場合、反省文を書かされるのが校則として定められているが実際は黙認してくれるケースがほとんど。

そもそも下品な遊び方を知らないお嬢様が繁華街へ繰り出したところで問題を起こす事は考えにくい。ルールで縛り付けて反を買うよりはある程度自由にさせた方が賢明だろうという現在の教師陣の素晴らしい判斷により、我々の生活にかさがプラスされている。

こうして後輩と一緒にスイーツを楽しめるのも大人達の理解が得られたからである。學生の道のりはまだまだ続くが、有難く青春を謳歌したいと思う。

「先輩こんにちは! 結構待っちゃいましたか?」

こちらに手を振りながら駆け足でやって來たのは瑛の妹である桜。私服姿の彼だが、その容姿は絵に描いたように完璧な清楚だ。

純白のワンピースにライトブルーのデニムジャケットを羽織っている。おまけに麥わら帽子まで被っているのだからもう役満である。病弱で主人公想いのヒロインに居そうな風貌だ。

「いや、わしも丁度今來たところじゃ」

「そうだったんですね! 良かった……。先輩を待たせてしまっては申し訳ないですからね」

安心したのか、桜は頬を緩めて微笑む。このようにが素直に顔に出るところは瑛とそっくりだ。

「よし、ならばその喫茶店とやらに行くとするかのう」

「そうですね! では道案は私がしますので。こっちです!」

言いながら彼はくるっと半回転をし、ワンピースの裾がつられてふわりと宙を舞う。

そんな姿を見納めた私は後を追うようにゆっくりと歩き出した。

Yデッキの階段を降り、舗裝された歩道を並んで歩く。相も変わらず人通りは激しく、その中には當然ながらもいれば男もいる。小學生時代のトラウマで男(主に不良)を嫌悪している私はこのような街中を避けるようにしているのだが今日ばかりは仕方無い。可い後輩の為に一がなくては、と思ったものの……。

「結構往來があるものじゃのう……」

気が付けば足がすくみ、桜の背中に隠れてしまう始末。これでは先輩としての立場が臺無しである。

「あ、ごめんなさい。そういえば先輩、人混みが苦手だったんですよね」

終いには後輩に心配をかけるというオチだ。いくら強烈な出來事だったとはいえ、いい加減克服しなくてはいけないな。

「すまないのう。でもわしの事は気にしないで――」

「もし良ければなんですが、その……手、繋ぎませんか?」

「…………え?」

手を繋ぐ……? 一どういう事だ?

「あわわ! いえ、違うんです。別に私がしたいからとかじゃなくてですね、先輩がもっと安心できるような配慮と言いますか、嫌なら強制はしませんので……」

両手を忙しくかしながら早口で説明を重ねる桜。何故か焦っているように見えるが、こんなにも私を心配してくれる気持ちを無下にはできない。

「桜は優しいのう。々恥ずかしいが……繋いでくれないか?」

ゆっくりと左手を差し出す。すると桜の表はみるみるうちに明るい笑顔になった。

「はい、もちろん!」

嬉しそうな聲と共に彼のか弱い手が握られる。思春期な私は恥ずかしくてたまらないが、すくんでいた足は元に戻り、不思議と安心が込み上げてきた。

「參ったのう。これだとわしが桜に甘えているように見えるのじゃ」

「ふふ、私は別に構いませんよ? 寧ろ甘えられたい――」

「さ、桜……?」

途中から己の妄想ワールドに突したのか私の呼ぶ聲にも反応せずニヤケ顔のままだ。流石は姉妹といったところだろうか。瑛と同様、我々には理解し難い思考を持ち合わせているようである。

「今日はいーっぱい楽しみましょうね、先輩!」

「お、おう」

溢れんばかりの笑顔で答える桜を見て々困。だがすれ違う男に関しては全く気にならなくなっていた。

「ここは定番のガトーフレーズか……。いや、モンブランも捨て難いですよねぇ」

り、テーブルのテラス席に座ったと思ったら桜はメニューに釘付けだ。食べたいが多いらしく、どれにしようかと悩んでいる様子。

「どれどれ……」

桜に続いて私もメニューを見やる。

……って何だこれは。容が筆記の英語で書かれているから非常に読みづらいぞ。振り仮名もあるが……ヌガーフリュイデポワ? これは果たしてケーキなのか?

おしゃれを意識したいのは分かるが、もうし日本人に適した表記にしていただきたい。

「先輩はどれにします?」

「あぁそうじゃな。わしは……アイスコーヒーで構わん」

大富豪の生活なんて無縁の私にスイーツの知識は皆無だし、下手によく分からない商品を注文するよりは在り來りな飲み味しさを味わう方が賢明だろう。そもそもケーキの値段が高く、奢ってもらえるとしても恐れ多い。

「え……。ケーキ、食べないんですか?」

「いや、でも値段が……」

「値段? ……すみません、どこに書いてありますか?」

「右端の方にあるのじゃが……ってお主に言っても意味無いと思うがのう」

価格については目立つように表記されていないが、決して見えない訳では無い。しかし金額を一切気にせず、食べたいを選ぶだけのお嬢様には視界にすららないのだろう。

私の通う鶴岡學園はセレブの娘達だけ。本來であれば落ちこぼれの私は存在してはいけない場所なのである。

「あ、こんなところに書いてあったんですね。でも先輩は気にしなくて良いですよ。もしよければ……私と同じケーキにします?」

「あぁ。桜がそう言うのなら、言葉に甘えるとしようかのう」

私の父が逮捕され、借金に追われた生活を送っている事を桜は知っている。瑛から話を聞いていたらしいが、私に直接尋ねられた事は一度も無い。

更に彼なりに気を遣ってくれているのか、私が傷つかないように配慮もしてくれている。「私と同じケーキに」というのも桜の優しさだろう。折角の好意なのだから、ここは素直にれることにする。

「すみません! 注文なんですけど、フランボワーズのアーモンド添えとカプチーノのセットを二つください」

「かしこまりました。サイズはいかが致しますか?」

「あ、えっと……グランデでお願いします!」

「はい、グランデのセットを二つですね。々お待ちくださいませ」

私には理解できない日本語を連ねた桜は「そういえばこの前服を買いまして……」と早くも次の話題へ移ろうとする。

しかし彼の放った謎の単語が気になっていた私はすぐさまメニューに目を向けた。

「フランボワーズ、グランデ…………って二、二千四百円!?」

二つ頼んだらほぼ樋口さんと同額ではないか。此奴、とんでもないを注文したぞ……。

「先輩? どうかされましたか?」

「い、いや何でもない。こっちの問題じゃ」

セレブの金銭覚は理解不能だな、と元セレブの私は思うのだった。

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※次話は12月29日(土)までに投稿する予定です。

また、番外編として高3になった晴流と瑛のクリスマスデートの話を投稿予定です。

12月24日にお披目できたらと思います。よろしくお願いします。

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