《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【スピンオフ・修善寺の過去】中學生編「蘇る記憶」

「あ、すみません……」

肩に男が當たり、私は咄嗟に謝る。しかし私に非は無いと思う。

私は余所見なんてしてないし、彼等とすれ違えるようにスペースを空けていた。それなのに當たってしまった。いや、當てられたと言った方が正確かもしれない。

「お、これはこれは」

高校生か大學生くらいだろうか。二人組の男は立ち止まり、私の頭から足先までを舐め回すように見てきた。嫌な予がする……。

「君可いね〜。どこの學校?」

不気味な笑みを浮かべながら詰め寄ってくる男。私は恐怖のあまり聲が出なかった。

「この制服……。先輩、この子は鶴岡のお嬢様ですよ! こんな所で會うなんてラッキーっすね」

「うぉマジかよ!? やべぇテンション上がってきたんだけど」

ヘラヘラと笑い合う二人。

経済的な事により、まともな私服を持っていない私は休日も制服で出掛けているのだが、今回はそれが裏目に出てしまった。彼等の會話から推測するとやはり悪い予しかしない。

「ねぇどう? 俺らとちょっと遊ばない?」

「君が知らないような遊びも教えてあげるからさ、いいだろ?」

まずい……。そして怖い……。

借金取りが押し掛けてきたあの時のトラウマが蘇り、私のはガクガクと震えていた。逃げる事もできないし、聲も出せない……。

「ちょっと! 私達これから用事があるので貴方達とは遊べません!」

怯える私の前に桜が両手を広げて立ってくれた。後輩に守られるのはけないけど、今だけは頼らせてほしいと思う。

「お、君もお友達かい?」

「うわ可いなぁ〜。モデルとかやってるの?」

「うぐっ……や、やってないです!」

男達の標的が桜に移ってしまった。このままでは桜のが危ない。一どうすれば……。

々遊ぼうぜ? 俺が全部奢ってやるからよ」

「うへへ、先輩に逆らったら怖いぞ?」

桜も押され気味だ。もう私達に手立ては無いのか……と思ったその時。

「おいお前ら、何してるんだ?」

背後から力強い聲。

振り向くとスーツ姿の若い男が男達を睨んでいた。

「あん? 誰だテメェ」

「通りすがりの一般人だ。あんたら育ちの良い中學生にナンパとか大した度してるじゃないか」

「おい馬鹿にしてるのか?」

聲を張り上げる二人組に対し、スーツの男は私達に離れろと合図するように片手で制す。

「とんでもない。俺は君達が心配で聲を掛けたんだよ」

「何が言いたいんだお前」

「この子は鶴岡學園中等部の制服を著ている。つまり俺や君達のような一般人とは違う令嬢なんだよ。もしそんな子を無理矢理連れ去った挙句訴えられたりしたら……後は分かるよな?」

淡々と言葉を連ねてガラの悪い男を追い詰めていく男。何故見知らぬ私達を守ってくれたのか分からないけど助かった……。

「ぐっ……別に俺らはただっただけだっての」

「この子達怖がってたように見えたけど? 因みに訴えられたら數百萬円ぐらいの賠償が君達にいくんじゃないかな? 逃げるなら今のうちだと思うぞ」

「チッ、面倒くせぇ奴」

気に食わないような顔で捨て臺詞を言い放った男はそのまま立ち去った。一時はどうなるかと思ったけれど、本當に助かったな……。

「君達……大丈夫だったかい?」

「はい、ありがとうございます!」

まだ揺が収まらない私の代わりに桜がお禮を言ってくれた。するとスーツの男はにこやかな笑顔を浮かべながら手を挙げて――

「じゃあ俺はこれで。悪い輩には気を付けるんだぞ」

早くもその場から離れようとする男。しかし私は聞きたい事があった。

「あの、待ってください!」

張と揺を封じ込めて聲を振り絞る。すると彼は歩き出そうとした足を止め、こちらに向き直った。

「お禮は別に要らないよ」

「そうじゃなくて、その……」

彼を見ているとどこか懐かしいような覚になる。見ず知らずの人なのに顔も見覚えがあり親近すら湧いてくる。だから聞いておきたい事があるのだ。

「名前を聞かせてくれませんか?」

「え、名前? 俺は別に名乗る程の者じゃないよ」

「そこを何とか……」

首を橫に振って謙遜する男に懇願するも彼は笑顔で斷ってしまう。

基本的に男というが苦手な私なのに、彼に対しては怖じせず話せている。我ながら不思議だ。

「本當に気にしないで大丈夫だから。俺が勝手に割り込んだだけだし」

「違うんです。私はただ貴方の名前を知りたいだけなんです。だから……」

「うーん、そこまで言うなら……」

すると彼は背広のポケットの辺りに手を突っ込み、小さなケースを取り出して更にその中から一枚の紙切れを手に取った。

「はい、これは俺の名刺。連絡先も書いてあるけど、お禮の電話なんてしなくて平気だからね」

「あ、ありがとうございます!」

私が名刺をけ取ると彼は「気をつけてね」と言ってすぐに立ち去ってしまった。もうし話してみたかったけれど、名前を知る事ができたので今は満足だ。

「先輩、大膽ですね! 私も見習わないと……」

「いやいや、今回はわしの気まぐれじゃ」

自分でも不思議に思えてしまうくらいの特別なのだ。この気まぐれはもう二度と起こらないかもしれない。

視線を桜から手元の名刺に移す。さて、彼の名前は――

『未來証券株式會社 システム運用課 姫塚ひめづか智琉さとる』

に稲妻が走るような衝撃。姫塚って……噓でしょ。

「先輩、どうかしましたか?」

「い、いや、何でもないのじゃ」

実際は何でもなくないのだが。だってこの名前と見覚えのある風貌は……間違いない。

私が期にかに會って私を楽しませてくれた今は亡き人……姫塚蒼琉あいるくんの親族のはずだ。苗字は同じで名前も似ているし、彼が既に社會人である事を踏まえると蒼琉くんの兄である可能が高い。

こんな奇跡的な偶然があるのだろうか。彼が蒼琉くんと関係していると決まった訳ではないけれど私は確信していた。斷言しても良いくらいだ。

「それにしてもあの人、制服だけで鶴岡の中等部を見分けるなんて凄いですよね。見た目は高等部とそっくりなのに……」

確かに彼は私が中等部の生徒だと言い切っていた。背の低い私が高校生に見えるはずがないだろうと言ってしまえばそこまでなのだが、瞬時に中學生と斷言するには難しい判斷材料だろう。

今思えば疑問だが、そんな些細な事はもはやどうでもいい。蒼琉くんの兄(推測)に出會えたのが嬉しくてたまらないのだ。

「じゃあ次は……どこへ行くんじゃったっけ?」

「洋服屋さんですよ! ほら、早く行きましょ?」

「あぁ、すまないのう」

揺と衝撃と激が押し寄せて本來の目的を忘れてしまっていたな。

若干不貞腐れたような表の桜を隣にして再び駅方向へ歩き出す。

さて、今日は久々にお灑落な私服を買ってみようかな、なんて。

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中學生編は以上です。

※次話は1/27(日)投稿予定です。

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