《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【番外】平凡男子でもチョコレートは貰えるのか 前編
バレンタインデーということでちょっとした番外エピソードを失禮します……。
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「ねぇ――ゃん。いい――起き――。聞こえて――――」
平日の何の変哲もない朝。
俺は珍しく妹の舞奈海まなみに叩き起されていた。
「……ったく朝から騒々しいな」
「あ、やっと起きた! もう私遅刻しちゃうんだけど!」
知らんがな。俺はまだ數分寢られる余裕があるし、舞奈海こいつに起こされる義理はないのだが。
「何の用だ? おねしょでもしちゃったのか?」
「そ・ん・な・訳・無・い・でしょ! この馬鹿っ!」
「むぐぐ……」
ぎゅーっと頬をつねられる。まあ舞奈海も小三だし、もうそんな年頃では無いか……というか地味に痛いんだけど。
「これを渡しにきたの! 昨日頑張って作ったんだから、ちゃんと食べてよね!」
「…………んあ?」
両手に収まるくらいの小さな箱。ラッピングされておりリボンまで付いているが……これどう見ても俺へのプレゼントだよな?
「どうした急に。まさか……賄賂か!?」
「お兄ちゃんそれ本気で言ってるの? チョコよチョコ。今日はバレンタインでしょ?」
「…………あぁそっか!」
やべぇすっかり忘れてた。俺には縁のないイベントだから気に留めていなかったが……。
「もうっ! お兄ちゃんだってその……こ、人がいるんだから気にしなくちゃ駄目でしょ」
「面目ない……」
「あと今年の私のチョコは傑作だから。瑛りんなんかには絶対負けないんだからねっ!」
舞奈海は不機嫌そうな表で俺にチョコを押し付けるように渡し、そのまま立ち去ってしまった。
「…………変な奴」
舞奈海は毎年俺にチョコをくれるが今年はなんと言うか必死さが垣間見えた気がする。
理由は分からないけど傑作というのなら期待しよう。
味は確かに味しかった。生チョコのような仕上がりで甘みも絶妙だ。舞奈海は將來良いお嫁さんになりそうだな。
◆
學校までの寒い道のりを一人で歩いていると後ろから聲を掛けられた。
「みーやがーや! こんな所で會うとは奇遇だな」
「あぁ、平沼ひらぬまか」
俺の數ない親友である平沼は今日もテンションが高いようだ。
「で、早速だけど宮ヶ谷。目標は何個だ?」
「は? 何の話だよ」
「おいおい恍とぼけちゃってこの〜。何個って言ったらチョコしかねぇだろ?」
「なるほど、そういう事ね」
ったく、今日はただ子からチョコを貰える日だけだっていうのに、どいつもこいつも意識し過ぎなんじゃないか? まあ悪いとは思わないけど。
「因みに俺は川さんから貰えれば幸せ過ぎて死ねる覚悟だ。「お前はチョコの泥がお似合いだ」って言われながら革靴で踏んでくれないかな……」
「それ貰えてねぇだろ。ってかお前の特殊癖は相変わらずだな。気持ち悪い」
「まあまあそんなゴミを見るような目で見るなって。俺は今でも川さんが好きなんだからさ」
「はいはい、なら勝手に告って玉砕してどうぞ」
どうせこいつはフラれてもそれが快になるのだから思う存分告白すればいいと思う。
「おやぁ余裕の表ですね宮ヶ谷さん。それならば本日の戦果にもさぞ自信があるのでしょうねぇ!」
「……それはどうかな。既に一個貰ってるけど」
あとは確定枠が一つあるくらいか。でも他は期待できないよな。こんな平凡男にチョコを渡したい子なんている訳ないし。
「ぐっ、ブラコン妹はノーカンだぞ宮ヶ谷! くそぅ、悔しいぃぃぃ!」
「悔しがるなって。実の妹から貰ったって何も嬉しくねぇぞ?」
「……お前に一つ忠告してやる。幸せは無くなってから気付くもんだぜ」
「あ? いきなり何だよ」
「意味が分からなければそれでいい。俺はポジティブな男だからな。今は前を見るだけさ」
勝手にキザな発言をした平沼は俺より一歩前に出る。
気付けば教室の前まで來ていた。さて、今日はどんな一日になるのやら。
◆
「おはよう、宮ヶ谷君!」
教室にるや否やクラスメイトの都筑つづき紗彌加さやかに聲を掛けられた。
「あぁ、おはよう」
「ふふ、早速だけどこれけ取ってもらえるかな?」
ハツラツとした笑顔を浮かべる都筑の手にはラッピングされた小箱が一つ。まさか俺に……?
「貰っちゃって……いいのか?」
「もちろん! あ、でも私が渡したら浮気みたいになるのかな……。宮ヶ谷君には妻がいるわけだし」
「だから夫婦じゃねぇっての。それに義理なら貰っても問題無いだろ」
「え……? あぁ、うんそうだね。義理なら大丈夫だよね」
都筑は何故か慌てた様子だったが俺は気にせずに義理チョコをけ取った。
「サンキューな。ホワイトデーにしっかり返すから」
「全然気にしないでいいよ! それと宮ヶ谷君には他にもあってね……」
カバンの中に手を突っ込んで、都筑はそこから二つの箱を取り出した。
「はいこれ。本村先輩と大黒先輩からのチョコだよ。先輩ったら「宮ヶ谷君を部室に呼べ」っていつも言っててうるさいんだよね」
「あはは、悪いな。近いうちに行くよ」
新聞部の先輩達は修善寺さんの騒でお世話になったが、あれ以來會っていないんだよな。今度お返しのクッキーを持って顔を出しに行くとしよう。
「おい宮ヶ谷もう三つも貰ってるのかよ!?」
「フッ、まぁな」
「くそう、こんな冴えない野郎に……。ところで紗彌加ちゃん? 俺はまだチョコを一個も貰ってないんだけど?」
早くも子に集たかろうとする平沼。こいつにプライドなんてものは一切無いようだ。どんだけチョコがしいんだよ。
「大丈夫よ平沼君。クラスの男子には全員分買ってあるから」
「おぉマジか!? 都筑様、貴方は神か!?」
義理だと分かっているはずなのに何故そこまで喜ぶのか。
跪いて謝の意を示す平沼を前にして、ガサゴソとカバンの中を漁る都筑だったが、突如その手が止まった。
「あれ、おかしいな……。平沼君の分だけ無いや」
「……え?」
「ぶふっ」
まさかの展開に俺は思わず吹き出してしまった。落ち込むなよ平沼。お前ならきっと立ち上がれるはずだ。
「ごめんね。今度買ってきてあげるから……」
「ぬおぉぉぉぉぉ! 神は俺を見捨てたというのかぁぁぁ!」
「おい平沼、リアクションが大袈裟過ぎだ。たった一つ貰えなかったくらいでそんな嘆くなよ」
「……あ? た・っ・た・一つだと? 宮ヶ谷……。俺はお前を戦友だと思っていたが、どうやら違うみたいだな」
やべぇ、地雷踏んじまったか? 理不盡にも怒りの矛先は俺に向いてしまったようだ。
「まあ落ち著けって。俺は用事があるから……またな!」
「おいコラ待て宮ヶ谷ァ!」
ダッシュで逃げるも平沼は負けじと追ってくる。
ったく、朝から疲れるバレンタインだな。
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