《ロリっ娘子高生の癖は直せるのか》【番外】平凡男子でもチョコレートは貰えるのか 中編

一限目が終わってからの休み時間。

俺は自席から堂庭の姿を眺めていた。

「はい、どーぞ」

「わぁ! ありがと!」

はクラスの子同士でチョコを換しているようだった。所謂友チョコって奴か。

まあ、それはいいのだが……。

「俺にはくれないのかな……」

堂庭は毎年欠かさず俺にチョコを渡してくれた。今までは単なる馴染みの縁としてけ取っていたけれど、それは俺の勘違いだったと気付かされる。彼はずっと想い本命を贈り続けていたのだと。

だから今年こそは。人として正真正銘の本命チョコを堂庭は作ってきてくれているはずだ。俺の為に作っていると想像するだけでしくなってしまうし、形としてのしい。いつ俺に聲を掛けてくれるかな……。

そわそわとその時を待っていると俺の名前を呼ぶ聲が聞こえた。しかし聲の主は堂庭ではない。お姫様のような口調が印象的な修善寺しゅうぜんじさんだ。

「宮ヶ谷殿、ごきげんよう。はてさて、今日はバレンタインデーじゃな」

「そうだな……ってまさか修善寺さんもチョコを!?」

「左様。クラスに馴染む為には必要だと思ってのう。じゃが高価なは買えないからこれで我慢してくれるか?」

言いながら手渡してくれたのは一粒のチ○ルチョコだった。

「おぉ! ありがとう!」

「安ですまないのう」

「いやいや、値段なんて関係ないって。サンキュー!」

義理チョコとはいえ子からプレゼントされるのは嬉しいものだな。これで累計五個だし今年のバレンタインは調子が良いぞ。

「ほっほ。お主はそうやって淑を落としていくのじゃな」

「ん……? 何の話だ?」

「こちらの都合じゃ。ではわしはこれにて失禮」

修善寺さんはそのまま立ち去ろうとしたが踏み止まって再度向き直った。

「言い忘れるところだった。……宮ヶ谷殿。晝休みに育館裏に行ってくれないか? 桜がお主に用があるのじゃそうだ」

「了解…………って育館裏!?」

なんだその人気ひとけの無い場所に呼び出すシチュエーションは。しかも相手は桜ちゃんって……。

「……くれぐれも過ちを犯さぬようにな?」

「ちょっと修善寺さん!? 一どういう意味でそれを――」

「ほっほ。言葉通りじゃ。それじゃあの」

くすくすと笑いながらパーマの髪を揺らし自席へ戻っていく修善寺さん。

はいつも突拍子もないことを言い出すが、その発言は驚くぐらいに正確なのだ。一見ミステリアスな雰囲気に包まれているけれど、実際は責任の強い正直者なんだよな。

それから數時間後、晝休み開始のチャイムが鳴ると同時に俺は育館裏へと向かった。

「良かった……。來てくれたんですね」

「そりゃあ頼まれたら斷る訳にはいかないだろ」

桜ちゃんは俺より早く著いており屈託のない笑みで出迎えてくれた。相変わらず純粋で可らしいな。

「でもわざわざすみません。こんな場所にお兄さんを呼び出しちゃって……」

「いや、俺は大丈夫なんだけど……。桜ちゃんの方こそどうしてここに?」

そびえ立つコンクリートの壁により、晝間にも関わらず薄暗くて靜かな場所。そこに人の妹と二人きりでいる――

よくよく考えたらこの狀況すげぇヤバくねぇか!? いや、よくよく考えなくてもヤバいのは分かるけど、もし堂庭に見られたら……。絶対に勘違いされるな……。

「その……私恥ずかしくて……。誰かに見られるのは嫌だったから……」

「それってまさか……」

ゴクリと生唾を飲む。おいおいどうするんだ? まだ心の準備ができてないぞ俺……じゃなくて! 斷らなくちゃいけないだろ!

「はい! これ、作ってきたんです!」

「…………え?」

顔を真っ赤にした桜ちゃんが差し出したのはリボンでラッピングされた小袋だった。あぁ、なるほど。そういうことか……。

「因みに……本命ですからね?」

「え…………えぇ!?」

待て。ようやく呼び出した目的が分かったのに今度は何だ? 桜ちゃんが俺に本命チョコだと!?

「そんなに驚かないでください。私がお兄さんを好きな気持ちは今でも変わらないですから」

「でも……」

「分かってます。お兄さんはお姉ちゃんを幸せにしてください。だから……このチョコもけ取らないで……いいです……」

桜ちゃんは葉わぬ願いだと分かっていながらも俺に想いを伝えに來てくれたのか。そこまで俺を好きでいてくれてたなんて……。

でも俺には大切にすべき人がいるのだ。もちろん気持ちは嬉しいけれど、それをけ取ることはできない。

とはいえ折角俺のために作ってくれたチョコを無下にはできないよな。桜ちゃんも辛そうな表をしているし俺はどうすれば……。

「用は済みましたし私はこれで……」

「待って!」

方法は間違っているかもしれない。人がいるの癖に不誠実だと思われるかもしれない。

だが……苦しんだままの桜ちゃんを放っておくことはできなかった。

「そのチョコ……食べてもいいか?」

「え……? でもこれ本命ですよ。お姉ちゃんに怒られちゃいますよ?」

「そうだな。桜ちゃんの気持ちはけ取れない。だけど……食べるだけならいいだろ? 桜ちゃんの手作りチョコ、食べてみたいし」

「お兄さん…………私を殺す気ですか?」

「えぇ!?」

あれ、俺なんか酷いこと言ったか!? でも桜ちゃんの顔は一転して笑顔になっているし……もう訳が分からないな。

「ではどうぞ。これはお兄さんのために作ったた・だ・の・チョコです。ご賞味ください」

「おぅ。ありがたく貰うよ」

小袋から綺麗に形されたチョコレートの粒を取り出して口に頬張る。優しくてまろやかな甘みが広がった。

味いなぁ。料理やお菓子作りができる人ってやっぱ憧れちゃうな」

「ありがとうございます。これだからお兄さんは…………諦めきれないんですよ」

「ん、何か言ったか?」

「いえ、何でもありません」

頬を赤らめながら笑みを浮かべる桜ちゃんに不覚にも揺してしまった。いけないいけない……。

ともあれ、俺の判斷が正しかったのかは分からないが桜ちゃんが喜んでくれて良かった。

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