《とある腐子が乙ゲームの當て馬役に転生してしまった話》絶絶命なようです
♢ ♢ ♢
 
 
「…っ…」
 
教會の中は、悲慘な有様だった。教會の中央にある大きなステンドグラスが割れ、所々破片が飛び散っている。ステンドグラスの細かな破片が、未だ舞い落ちている。その中央に、私の探し人が、ゆらりと立っていた。“ダーク!”と名前を呼んで、心配で駆け寄ろうと一歩歩みを進めれば
 
「…來ないで!!!!!」
 
と拒絶されるがの如く言われた。両手で、頭を抱え込み、まるで何かに怯えているよう。
 
「……ダーク……」
 
思わず立ち止まってしまう。
 
「化けめ!!」
 
ダークの目の前に立っている厳格そうな男が、眉間に皺を寄せ吐き捨てるように言うと、ダークは、力が抜けたように地面に座り込んだ。
 
「マーク様が、お前のせいで、どれほど心を痛められていると思っている?」
「…………」
「なのに、マーク様は、いつまで経ってもお前を罰しない」
「…………」
「だから、思ったのだ。さしもの、マーク様も、実の子に、罰を與えるのは流石に酷なのだと。だから、俺が與えているんだ」
「…………」
「なのに、なぜ、魔法で跳ね返す?そんなに命が惜しいのか?」
「…………」
「自分の存在が罪だというのがまだわからないのか?」
 
くつくつと、何がおかしいのか、ダークの目の前の彼はおかしそうに笑い出す。さげすむよう表。なんて、酷いの。
 
「おかしいこといわないで!!!」
 
余りのいいように、私は、耐え切れず、教會で聲を張り上げた。
 
「……アリア」
 
か細い聲で私の名前を呼ぶダーク。瞳が大きく見開かれる。まるで、信じられないものでも見ているかのように。
 
「部外者は黙っていてくれないか?それに、何を勘違いしているのか、わからないが、これの名前は、ダークじゃない」
 
まるで、ダークをを扱うようにいう男。
 
「ダーク……じゃない?」
 
どういうこと?思わずオウム返しに繰り返せば、
 
「止めて!」
 
ダークが切羽詰まった聲を出す。
 
「キミも聞いたことあるはずだ」
 
ダークの制止も空しく、彼は皮るように言った。
 
「これの名は……ルーク・ウォーカー」
 
“悪魔の子だ”しんとした教會。彼の聲が教會の中に、響き渡った。
 
♢ ♢ ♢
 
 
「……ルーク・ウォーカー?」
 
ルーク?ルーク・ウォーカーって、あの!?
『Magic Engage』の攻略対象の!?道理で形なわけだわ。確かに、漆黒の髪に、深紅の瞳。確かに、言われれば、ゲームのパッケージに載ってあるルーク・ウォーカーの面影はある……。
ダークは、ルーク?つまり、ダーク=ルーク・ウォーカー?
けれど、ゲームのルーク・ウォーカーは、もっと自信満々で、ただならぬ香を出していたはずだ。なくとも、今のように怯えているダークとは、似ても似つかない。
 
そんなことを思い、ダークを見れば、こわばった表をしていた。まるで、知られたくないことを知られたかのように。
 
「……ダーク…」
 
そのあまりの痛々しさに、どう聲をかけるべきかわからず、彼の名前を呼べば
 
「何をしている!?」
 
と鋭い聲が教會の中に響き渡る。
 
「誰だ!?」
「……ハース様!!」
 
ダークの前に立つ人と聲が重なった。後ろを振り返れば、扉のところにハース・ルイスが立っていた。
 
「私の名前は、ハース・ルイス。この騒ぎはなんだ!?」
 
いつも溫和な丁寧口調の彼が、威厳たっぷりに言い放った。
 
「…騎士団団長の子息でございましたか。失禮しました。こんなところで、お會いできるとは思いませんでした」
 
ダークの前を化け呼ばわりしていた彼は、ハース・ルイスの方を向き、跪く。
 
「私の名は、マーク・ウォーカー様に師事しておりますレイリーと申します。此度は、マーク様に代わり、悪魔の子に罰を與えようとしていたのでございます」
「悪魔の子?」
「はい。貴方様もお聞きしたことがありませんか?魔力の化け、悪魔の子と言われているルーク・ウォーカーの名を」
「………」
 
黙りこくるハース・ルイス。逆で細かい表がわからない。
 
「悪魔の子?そんなの、くだらない!!!」
 
もう我慢ができない。
 
「アリ…ア……?」
 
私は、一歩踏み出して、弱々しく私の名を呼ぶ彼に近づく。
 
「力があることがなんなの?」
「……アリア、來ちゃダメだ」
 
拒絶する彼も。
 
「あまりある力は暴走する可能がある」
「暴走なんてしていないでしょ?」
「今は、していなくても、いずれ、誰かを傷つけるかもしれない力だ。今のうちから摘み取っていた方がいいだろう」
「そんなのただのあなたの戯言じゃないの!!」
 
馬鹿げた可能だけを言うレイリーも。
 
 
……本當にくだらない!
 
 
「現に、あなたは傷ついていないじゃない!!」
 
 
ダークの前に立ち、庇うように立てば
 
「うるさい!!!」
「……っ……」
 
 
何かが顔の傍をかすめ、思わず目を閉じた。
 
「アリア!!!」
 
切羽詰まったダークの聲で、まぶたを開けば、まず目にったのは、亜麻。
それが自分の髪だと理解するまでに時間はかからなかった。
地面から視線をあげ、レイリーを見れば、何かを握っていた。鉛に輝くものを。
 
「……えっ?」
 
本の短剣だ。剣で貫かれたところの髪が、ばさりと落ちたのだ。背筋がひやりとした。
 
「悪魔の子を庇うということは、お前も同罪だ」
 
短剣と地面に落ちた私の髪を見て、どこか勝ち誇ったようにいうレイリー。
 
「……罪を裁くのに、私も、お手伝いいたしましょう」
 
そこに、靜かな聲が教會にやけに響き渡った。聲のした方を見れば、扉から離れゆっくりとした足取りで、ハース・ルイスがこちらに歩いてきていた。
そして、腰に帯びた剣を右手で抜き、左手を翳すと途端に剣がまばゆくりだす。
 
「……ハー…ス…様?」
 
金に輝く前髪の奧、空の瞳が怪しくる。まるで、獲を狩る獅子のごとく。今まで見たこともないその瞳は、どこか怪しげなを放ち、本気だということを語っている。なぜだか、すごく苛立っているようだ。
 
「こいつらは、罪人です」
「えぇ、ここで、罪深いことがありました」
「力添えいただけるとは心強い。ハース様のお力で、こいつらを裁いてください」
「私が、直に、ここにいる罪人を斷罪いたしましょう」
 
そういうや否や、ハース・ルイスは、剣の切っ先を下へ向け、構えた。
 
「……ハー…ス…様……」
 
あぁ、ここでも、バットエンドがあったのか。
どこで選択をミスってしまったのか。
 
「アリア!!僕はもういい、逃げて!!!」
 
ダークは、切羽詰まった聲を上げる。
 
「アリアといったか?そこを退けば、お前だけは助けてやるぞ」
 
そういって、レイリーは、鼻で笑った。
 
ここで、ダークの前から退けば、ひとまずは、死というバットエンドを回避できるかもしれない。
 
けれど、私は……。
 
「逃げないわ!」
 
ここで逃げたら、きっと明日の私が後悔する。
間違ったことを間違っているのに、それを正しいということなんてできない。
 
私が、そう言い切れば
 
「……やはり、アリア、あなたはそういう人ですね……」
 
ハース・ルイスは、そういうや否や、私たちへ向けて駆け出した。私は、覚悟を決めて、瞳を閉じた。
 
「アリア!!!!!」
 
ダークの絶する聲を聴きながら。
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