に転生した俺の保護者が神な件。》35話 魔王なのに……

いつの間にか魔王様に擔がれて、どこかへ連れていかれているところだった。

「ま、魔王様! どこに行くんですか?」

「おぉ! 起きたか! 今から君を鍛えてやろうと思ってな!」

魔王様に鍛えてもらえる。そう思ったシンシアは、意外と魔王でも優しいんだなと安心した。

しかし、さっき自分のった魔王様の力は凄かった。人間1人を簡単に……。

「あの、魔王様」

「どうした?」

「あまり人間は……殺さない方が良いのでは……?」

「なんで〜? だって人間は僕の友達達を襲おうとしてたんだよ?」

あの狼が友達……か。人を食い殺す狼なんて生まれて初めて見た。しかしあの狼の群れを従える魔王はそれ以上に凄いのだろう。

「魔王様なら、渉だけで人間と和解できるのではないでしょうか」

「ダメ。危険な人間は殺すのが一番だって言われてるもん」

言われてる……? 一誰に? 魔王にも更に上がいるのだろうか。

気になった俺は聞いてみた。

「誰に言われてるんですか?」

「誰に……? え? あっ……」

すると魔王様は、言っちゃった。というような顔で口を抑えた。

まさか魔王が別の者の命令に従ってる。なんて事を知った俺が殺されたりしないだろうな。

「すみません。聞かなかった事にします」

「うん。君は気が利くねぇ」

魔王はニコッと笑った。キラリとる八重歯がとてもキュートだ。

そういえば、俺はこのまま魔王様に鍛えてもらうんだったか。という事は今はどこに向かっているんだろうか。

「この城って訓練施設みたいな場所があるんですか?」

「ないよ」

「じゃあ走り回れるグラウンドとか」

「ないよ」

凄く嫌な予がしてきた。

今からどこで何をされるのか。それも恐ろしい強さを持っているらしき魔王に。

「す、すみません……ちょっとおトイレに……」

「どうせこの後沢山らすだろうし、気にしてても仕方ないよ」

それを聞いた瞬間、俺は死を覚悟した。

◆◇◆◇◆

連れてこられたのは、頭が三つある獣。まるで巨大なケルベロスのような見た目をした生が寢ている部屋だ。

「それじゃあ生き延びて」

「えっ?」

すぐに後ろを振り返ると、魔王は唯一の出り口を閉めて消えてしまった。

「ちょっ、ちょっと!!」

──ガチャッ、ガチャ

「開かない……噓だろ…………」

背後から、グルルルと低い唸り聲が聞こえる。

恐る恐る振り向くと、予想通り三つの頭を持つ獣が俺を見て涎を垂らしていた。

「ひっ……」

「ガウッッ!!」

「ひぃっ!!」

鋭い爪がシンシアを狙って橫へと切りつけられる。それに反応したシンシアは、尿が出ると同時にしゃがんでギリギリ避ける事ができた。

……なんてらしやすいんだ……。ってそんな場合じゃない。俺はこのままじゃ死ぬ!

「クソッ、どうしたら!」

必死に生き延びる方法を探す。

獣は立ち上がっていつでも攻撃できるように様子を伺っている。この部屋は四角形で、獣の攻撃から逃れられる場所は存在しない。

壁にも何か仕掛けが施されている訳でもない。

「外に……も出れない。うぅっ……」

恐ろしい獣に睨まれる恐怖で、涙が出てきた。このになってから々と弱くなっている気がする。

「っ、そ、そうだ。落ち著け……一旦深呼吸だ」

に手を當てて深呼吸をする事でゾーンにる事ができる。一度ゾーンにればかなりの反神経を持つことができるだろう。

神経で獣の攻撃を避けたりは……できそうにない。

と、その時。獣が三つの口を大きく開き、鋭い牙か俺の方へ迫ってきた。なんとかゾーンでゆっくりに見えるものの、対処法がない。

「いや……魔法がある。魔王が認める程の魔力……一か八か!!」

右手を前に突き出し、巨大なバリアをイメージしてぶ。

「はぁぁぁぁぁあっっっ!!!!」

すると、目の前に巨大な明の壁が現れた。そして獣の顔はその壁に弾かれて、更に目つきを鋭くさせた。

「た……助かった……らしたけど……」

しかし、もうこれ以上れるは何も無い。それに魔法もイメージ通り発する事ができたし、後はこれを続けて防ぎ続けば!

「來るっ!」

獣の口の一つが開いたのを確認し、すぐに右手を前に突き出す。

「んっ……?」

獣の口をよく見ると、何か赤黒いがチラチラと見える。それに鼻のから暑そうな炎が吹き出ているし……これまさか炎を吹き出してくる?

「それは流石に……」

先程のバリアは前方向に作り出すことしかできなかった。つまり、炎を吐かれると全方向から迫ってくる訳で……それはつまり……。

「もう無理だ……」

そして獣の口から、凄い勢いで炎が吐き出された。

「死んだ──」

──────

────

──

──

────

──────

「う……ん……? 生きて……る?」

「シンシアちゃんは恐怖に弱いみたいね。大丈夫?」

「っ!」

クラリスさんが俺を心配そうに見つめていた。

なんと、クラリスさんが俺を守ってくれたみたいだ。

し冷靜になれば防ぐ手段は沢山あるわよ」

「た、助けてくれてありがとうございます……」

「それに魔王様のペットもシンシアちゃんを殺すつもりはないみたいね」

「えっ?」

獣の方を見ると、口の中に魔法陣が見えた。

「あれは幻影魔法。つまり偽の炎を見せてたのよ」

「は、ははは……なんだ……」

「魔王様は鍛える為の適切なレベルを理解していないのよ。怖かったでしょ? ほら、魔王様に怒ってやらないとまた同じ事するわよ」

「え……?」

◆◇◆◇◆

「魔王様! いきなりあの訓練をさせるのはシンシアちゃんには早すぎます! 恐怖でけないんですよ!?」

「はい……」

「ショック死してたらどうするんですか!?」

「ごめんなさい……」

「次からはシンシアちゃんのレベルに合わせて鍛えてあげるように! 危険な事をさせて放置してれば強くなる、っていうのは魔王様だけです!」

「はい……」

魔王様がクラリスさんに怒られてる。

あの魔王様の尾は床にペタンと付いて、思いっきり泣いている。魔王なのに……。

「ほら、シンシアちゃんに謝ってください」

「ぐすんっ……怖い事させて……ごめん……」

「い、いいですよ。泣かないでください」

「僕……魔王なのに……魔王なのに……」

魔王は自分の地位を確かめながら、玉座に育座りして顔を隠してしまった。しかし、周りのメイド達は気にせず掃除を続けている。どうやらこの様子はいつもの事らしい。

「あの、俺も魔王様の期待に答えられなかった。というのもありますし、何か俺にできる事があればなんでもしますよ」

める為にそういうと、魔王は今まで泣いていたのが噓のように顔を上げてニヤッと笑った。

「じゃあ君の部屋にれてよ。僕今まで歳下の子と友達らしいことした事ないから一度してみたかったんだ!」

それを聞いた俺は、なんとなく魔王の今までの人生を想像して勝手に同していた。

きっと、魔王も皆と同じように友達作ってんなことして遊びたかったんだろうな。同じ歳の子がいないから寂しい思いして、1人で森に行っては遊んでたんだろう。獣達を友達なんて呼んじゃって……。

「今日から僕とシンシア友達ね!」

「はいっ!!」

魔王とメイドの関係でありながら友達。なんて素晴らしい事なのだろう。

こっちの世界の事何も知らないから、これが失禮に當たるのかは知らない。しかし、距離がまったのは良い事だ。

◆◇◆◇◆

仲良く歩いていくシンシアと魔王様の背中を見ながら、私は嬉しく思っている。

シンシアちゃんはこっちにきてから最初の頃は張していたりしたけど、段々と慣れてきて心を開いてくれた。

魔王様も歳の近いお友達を作りになられて、久しぶりに嬉しそうな笑顔が見れた。

……神サラ、貴がこの2人の友を邪魔しようとするのなら。私は命をかけて返り討ちにしてみせましょう。

來るならいつでも來なさい。シンシアちゃんに対するどこまでも貪を私にじさせて。

謁見の間に殘ったクラリスは、不敵な笑みを浮かべて消えていった。

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