「ここらへんで発音がしたんだけどな〜」

「よく分かりますね」

発音がした場所までやってきたシンシアとイヴは、周囲に何かがないか周りをキョロキョロと見渡した。

「でも何かが発したような形跡は無いですよ」

「う〜ん……あっ、近くに何かいる」

「えっ？」

咄嗟に自分の魔力を薄く周囲に広げて、その範囲にいる生を探す魔力探知をした。するとここからし離れた場所にそれなりの速さで逃げていく生きの を探知した。

「ここに生きがいるのは初めてだよ」

「何なんでしょう……追いかけてみますか？」

「追いかけよう！」

2人は魔力で強化をし、木々の上を渡って飛びながら逃げていく生きを追いかけていった。

このまま追いかければあっという間にその生きの姿を見ることができるだろう。

常に魔力探知を発しながら追いかけ続け、ついにその生きの後ろ姿を確認する事ができた。

「人？」

「だね。それに髪も長い」

「……っぽいですね。何かから逃げている、というよりただ走っているだけのようです」

さっきの発音との関連は分からないものの、あの人が何者か、どこに向かって走っているのか知る必要がある。なんせここはイヴの部屋の中だ。

「話しかけてくる！」

「あっ！ まだ尾行をっ……行っちゃった……」

イヴはあっという間に前を走るの元まで追いつき、話しかけた。

シンシアは遠くからその様子を眺めているのだが、何を話しているのか分からない。

「っ！」

突然のが頭を抑えて苦しみ始めた。

シンシアはすぐに二人の元までいって、イヴが何をしたか確かめる。

「イヴ様！ 何したんですか！」

「ぼ、僕は何もしてないよ。突然苦しみ始めたんだ」

の方を見ると、何かに怯えている様子はない。混というか、疑問というか。そんなじのモノに苦しんでいるようで、ブツブツと何かを呟いている。不気味だ。

「あ、あの……」

に話しかけると、ゆっくりとこちらを見上げて目が合った。

「アナタハ……ダレ……？ ドウシテココニ……？」

「えっと…………俺はシンシアです。ここは魔王イヴ様の部屋で、遊んでいたら貴を見つけて──」

「ワタシハ……ワタシハ……？」

突然肩を摑んできて、意味不明な事を言い始めた。それがあまりにも不気味過ぎて、一歩後退りした。

「えぇっと〜……その……貴は……何故ここにいるのか分からないです。発音がして……たまたま貴を見つけたので」

すると、そのはしだけシンシアから離れて下を向いた。どうやら冷靜を取り戻したようだ。

「……そう……私……死んだと思ったの……でも生きてる……ここがどこか分からないけど……家族を探してる……」

その言葉は先程までのカタコトではなく、噓を言ってるとは思えない。ただそれがどういう事なのか理解ができない。

「この人混してるみたいだし、ちょっと落ち著いてから話そうよ」

「そ、そうですね。ちょっとこっ……」

ちょっと怖い。そう言おうとしてしまったが、それはこのに対し失禮だと思い口にするのをやめた。

シンシアとイヴはそのを、近場の休める木影に移させて休ませる事にした。

◆◇◆◇◆

「來たわよ、クラリス」

「來たわね、エドウィーナ」

二人の魔は、この城に近づいてくる１人のに目を向けていた。

そのは二人の魔を視認すると、魔力を解放して威嚇した。

「シンシアを返せ」

その言葉はなど篭っておらず、まるで機械のようだ。

「サラ、貴にはガッカリしたわ。どうして悪魔なんかに手を貸したの？」

クラリスは素直な疑問を投げかける。しかし、サラはそれにけ答えることはなかった。

ただ無言で殺意をクラリスに向けている。今にも襲いかかってきそうな程の殺意は、クラリスでも一歩引いてしまう程だ。

「今の貴にはシンシアちゃんを會わせることはできないわ。悪魔なんかと──」

「うるさいっっ!!!」

サラは初めてを顕にし、それに驚いたクラリスとエドウィーナに襲いかかった。それは一瞬の隙をついた強力な一撃。

「「っ！」」

クラリスとエドウィーナはその攻撃をまともにけた。かと思われたが、二人のには何重にも重ねられた結界がられていた。

「2人だけで楽しもうなんてズルい！」

「そいつの中の悪魔を食えばいいんだな」

嫉妬の魔、そして暴食の魔がやってきたのだ。その2人はクラリス達の橫に立つと、嫉妬の魔がサラのきを謎の力で封じた。

「悪魔だけを殺すのよ。サラは無傷で返すんだから」

「クラリスは優しいんだよ……まあ仕方ねぇか」

◆◇◆◇◆

しばらく木影で休ませると、は落ち著いたようでシンシアとイヴに説明を始めた。

「家族を探してるの……多分、もういないんだけど……」

「そうだね。ここにはこの3人以外誰もいないよ」

そのは悲しそうな表をして、下を向いた。

「私は以前、小さな村でお父さんと一緒にお店を経営していたんです」

「ここに來た原因って分かりますか？」

「……どうしても忘れられないんです……突然村にオークの群れが攻めてきてっ……」

そのはを震わせて、自分のを抱き寄せた。恐怖のだ。

「家族は殺されて……村のの子達は連れ去られて……死ぬまで子供を産まされたんです……」

「っ……死ぬまで……」

俺も思わず背筋がゾクッとしてきた。

「それで私、死んだと思ったんです。でも気づいたらここにいて……アレは夢なの……？ なんで誰も助けてくれなかったの……？」

「お、落ち著いてください……」

また興してきたを落ち著かせて、シンシアは深呼吸をした。

聞くだけでも辛い話。それを実際に経験した人が目の前にいる事が、かなり神的に來るものがある。

「まあ簡単な事だね。オークの住処にいるメス達がハンターの手で殺されたから、なんとか繁させる為に人を襲ったって事。ここにきた理由は分からないけど人間のせいだよ」

「イヴ様……それは最もなんですけど、しは気遣いというのをですね……」

苦しんでいるがいるのに、それを更に追い詰めるような事を言うのは流石魔王といったところか。

「っ……シンシア、何か來る」

「えっ？」

その時だった。突然空に巨大な亀裂が走り、空間が割れた。

「なっ、何っ！？」

「シンシアちゃん！！」

なんと、そこから現れたのは神サラだった。

「サラ！？」

「ん？ 知り合い？」

イヴは知らないだろう。しかし何故サラがここに……？

「サラ、どうしてここに？」

「助けに來たよ」

サラはそういうと、地面に降りてシンシアの元へ近づいてきた。

「誰なのか知らないけどさ、僕の部屋を壊してっ──」

「っ！？ イヴ様っっ！！」

イヴがサラに一歩近づいた。ほんの一瞬シンシアが瞬きをした瞬間には、サラの手がイヴの腹を貫いていた。

「うぶっ……がっっ………っ…」

イヴは口からを吐き、腹からを流し痙攣している。それを見たも、恐怖で頭を抑えていた。

「サラ！ なんでっ……！」

「助けに來たよ」

サラは笑顔でそう言ったが、そこにがなかった。

◆◇◆◇◆

「くそっ…………あんな……」

「魔王様……すみま……せん…………」

城の庭では、だらけになり倒れた4人の魔が今にも力盡きそうな程弱っていた。

魔王軍幹部が4人でかかっても手も足もでなかった。神の力を奪った悪魔は、今ならあっという間に世界を支配できる程の力を手にしたのだ。