《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》7-045.廻の指
ヒロとソラリスは小屋の外に出た。ドアノブが付いていない玄関扉の開け方が分からず戸ったが、ソラリスが力任せに開けるまでもなく、し押しただけですんなりと開いた。杜の気をたっぷりを含んだ空気をらかい風が運んでいく。心地いい。ヒロは両手の甲を目の前にかして金と銀の指を見つめた。
「おい、ヒロ、もしかしたら、あの爺ぃに擔がれたんじゃねぇのか?」
ソラリスが口を開く。
「ん?」
「あの爺じじぃ、リムに話があるとかいって、結局、お前とリムを引き離してるじゃないか。この隙にリムを自分のものにしようとか、何か魂膽があるんじゃないのか。その指だって怪しいもんだ」
ソラリスの口振りはモルディアスへの不信で満ちていた。モルディアスに追い抜かれた一瞬に金貨のった袋を丸ごと抜き取られたのだ。返して貰ったはいいが、その目的はヒロとリムを此処に連れてくるためだ。要するに出ダシにされたのだ。頭にくるのも無理はない。あるいは、金貨袋を盜まれたことが盜賊としてのプライドを傷つけたのかもしれない。
「直ぐに分かるさ。ソラリス。リムのことも、この指のことも」
ヒロは左右の人差し指で、互に反対側の指に填めた指をでた。これを付けただけで魔法が使えるようになる。俄には信じられなかったが、目の前で見せるというのだ。ヒロは逸る気持ちを抑えた。
やがて、モルディアスがリムと連れだって外に出てきた。
「ヒロ様~」
リムがヒロに駆け寄るとがばっと抱きついた。その目はまだ潤んでいる。
「大丈夫か。何もされなかったか?」
「はい。大丈夫です。何も有りませんでした」
ヒロは本當に何もなかったのかと心配になったが、この場はリムの言うことを信じることにした。
「……リム」
「はい」
「リムは俺が魔法を使うのを見たくないと言っていたね。これから試してみることになったんだけど、魔法が発したら、君に魔法を見せてしまうことになる。だからしばらく小屋で待っていてくれないか」
リムはローブの袖で自分の目元を拭ってからコクリと頷いた。
日のがまぶしかったのか三角帽子の鐔つばの位置を整えているモルディアスにヒロは斷りをいれた。
「モルディアス。済まないがリムに小屋の中で待って貰っててもいいかな。俺が魔法を使うのを見せたくないんだ」
モルディアスは一瞬おや、という表を見せたが、おもむろに手を出して指をパチンと弾いた。それを合図に小屋の扉が自・・で開いた。
ヒロはリムが小屋にるのを見屆けてからモルディアスに訊ねた。
「で、俺はどうすればいいんだ?」
モルディアスはヒロの質問に答えず、右手を上げると呪文を唱えた。と、庭の隅の土が盛り上がったかと思うと、いくつもの大巖が顔を出し、そのまま天に向かって積み上がっていく。やがてそれらは巨大な人型となった。石人形ゴーレムだ。その頭は周囲の木々を見下ろすほどの高さにある。ざっと見て二十メートルは下らないだろう。質量に至っては想像もつかない。石人形ゴーレムは、のそりと首を擡げるとゆっくりとヒロに向かって歩き出した。石人形ゴーレムが一歩踏み出す度に、テーブル大ほどもある足形が地面を抉っていく。
「こやつを的に魔法を使うがよい」
「使うったって、どうやって?」
「すでにお主の周りにマナが満ちておる。心の中で像イメージを浮かべるだけでよい。お主の錬屬で最も強いのは炎じゃ。手の先から炎が出る姿を思い浮かべよ」
「魔法を使うときって、呪文とか何かあるんだろう、なんて言えばいいんだ?」
「お主には必要ない。言われた通りにせい」
ヒロは言われたとおりにしてみる。炎のイメージか。ヒロは右手を前にばし、冒険者ギルドでロンボクが実演してみせた、炎粒フレイ・ウムをイメージした。
――ボゥ。
ヒロの手の平の先に炎の玉が現れた。最初はゴルフボールくらいの大きさだったのが、どんどん大きくなる。一秒と経たずに炎球はバスケットボールくらいのサイズになった。
「炎球それを石人形ゴーレムにぶつけよ!」
ヒロはどうやればこの炎の球をゴーレムにぶつけられるのか分からなかったが、咄嗟に野球のボールを投げるイメージで、一度腕を引いてから振り抜く。
――ドガァァァァアン。
超高速で放たれた炎球はまっすぐに飛んで石人形に命中した。派手な音を立てて、石人形のどてっ腹にが空いた。腹から砕け落ちた巖が地面に深く突き刺さる。適當に投げただけなのに。石人形ゴーレムの材質が何かは分からかったが、地面に突き刺さった巖がそれなりの強度と質量があることを示していた。
腹にを開けられた石人形ゴーレムはきが鈍ったものの、止まった訳ではなかった。ズシン、ズシンと足音を立ててヒロに近づいてくる。
 モルディアスはソラリスの隣で胡坐を掻いて欠をしている。
 ちょっと魔法を見るだけじゃなかったのか。ゲームだったらまだチュートリアルモードの筈だ。石人形ゴーレムはきを止めて、コーチが赫赫然々と説明している所だ。だがカクカクいているのは石人形ゴーレムの方で、きを止めたのはモルディアスの方だ。
迫る石人形ゴーレムを前にして、ヒロはの危険をじた。
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