《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》8-059.シャローム商會へようこそ

「お待たせしました。シャローム商會へようこそ」

目の前で接客を終えた、緑の帽子に鷲鼻の小男が、カウンターの向こうからヒロとリムに挨拶をした。ここはウオバルの紫の路ブレウ・ウィアに軒を構えるシャローム商會だ。

ヒロは、明日、エマの街へのクエストのついでに、カダッタの道屋で、冒険者用の裝備を設しつらえることを考えたのだが、手持ちの金ではし心細い。ヒロは資金確保の為、シャローム商會ここに足を運んだ。

ソラリスは、金貨十數枚程度でなんとか揃えられそうなことを言っていたが、萬が一ということもある。手持ちの金貨の枚數も考え、承諾を取ってリムの古金貨を王國正金貨に換金することにした。シャローム商會はこの界隈でも知られているらしく、道行く人に聞くと直ぐに教えてくれた。既に日が傾き、店仕舞いの時刻が迫っていることもあってか、ヒロ達が今日の最後の客のようだ。

「シャロームに會いに來たんだが、居るかな」

ヒロが店を見渡しながら小男に尋ねる。シャローム商會は紫の路ブレウ・ウィアに軒を構える他の建と同じく四階建ての建で、一階部分が來客の付窓口になっていた。フロアは冒険者ギルドのそれとは違って広くはない。寧ろ小さいほうだ。フロアは、正面のカウンターで丁度二等分されていて、意外に従業員用のスペースが取ってある。

そのスペースには壁際に沿って機が並べられ、きちんと並んだ小箱の中に羊皮紙の書類が整理されていた。その橫には、冒険者ギルドでも使われていた蝋板ワックスタブレットが何枚か積まれていた。

従業員は小男以外にもう一人、その壁際の機を前にして、分厚い書籍を片手に蝋板ワックスタブレットに若い店員が何やら書き付けている。

こじんまりとした店の壁は黒檀のような調の細長い板が並べられ、床も同じく木目の揃った焦げ茶の板が敷き詰められている。掃除は行き屆いており、埃一つ落ちていない。日本人のヒロが土足でるのを躊躇した程だ。來客スペースには、重厚な調のテーブルと椅子が數腳用意され、高級を演出している。この裝のおで、軽くあしらわれているじはしない。

フロアの脇に二階へと上がる階段があり、來客スペースから上れるようになっている。おそらく大事な商談などを行う別室が用意してあるのだろうとヒロは思った。

「シャロームは急な用で外出しております。失禮ですが、どちら様でしょうか。本日のお約束アポイントは、終了していると存じておりますが。こちらに名前をいただけますか」

小男は腰を低くして、手帳サイズの蝋板ワックス・タブレットと鉄筆を差し出した。その所作は自然で板についており、不快を微塵も與えない。

「あぁ、済まない。俺はヒロ、こちらはリム。數日前、アラニスの酒場でシャロームと契約した者だ。契約に従って品を換金しに來たのだが、け付けて貰えるかな」

ヒロは蝋板ワックス・タブレットへの署名をリムに委ねると、ズックからシャロームとの契約書と金貨のった袋を取り出すとカウンターに置いた。

小男は失禮、といって契約書を確認する。しばらく契約書を呼んでから申し訳なさそうにヒロに答えた。

「ヒロ様、申し訳ございません。この契約書の署名は間違いなくシャロームのもので座います。ですが、これ程の金額の決済となりますと、全てシャローム本人が行うことになっております。手前共では取り扱い出來かねますので、後日シャローム本人とお取りわしいただきとう存じます」

「そうか。シャロームは、今日はもう戻ってこないのかい」

「さぁ、急な用件だと申しておりましたから。存じかねます」

「いつなら、會えるのかな」

ヒロの問いに小男は、事務スペースの橫の壁に掛けてある大きな蝋掲示板ワックスボードをしばし睨んだ後、更に申し訳なさそうに答えた。

「申し訳座いません。生憎、此処數日は商談が立て込んでおり、シャロームがこちらに居ることは殆ど座いません。七日の後であれば多お時間の都合を付けられるかと存じます」

「そうか。忙しいんだな。では、シャロームが戻ってきたら、ヒロが尋ねてきたと伝えて貰えないか。七日後にまた寄らせて貰うよ」

「かしこまりました。間違いなくシャロームに伝えます」

「よろしく頼む」

ヒロは、リムに署名して貰った蝋板ワックス・タブレットを付の小男に渡すと、シャローム商會を後にした。

◇◇◇

ヒロ達がシャローム商會を出て、日が完全に落ちた頃、シャロームが商會に戻ってきた。

「お帰りなさいまし。旦那様」

「お帰りなさいませ」

主人の帰宅に、緑の小男と事務の若い娘が立ち上がり、揃って挨拶をする。

「ただいま。シープラ、パール。私が居ない間、何か変わったことはありませんでしたか?」

シャロームが挨拶を返す。商會に戻ると、不在の間に何もなかったかと確認するのはシャロームの習慣だ。この日もシャロームはいつものように小男と娘に尋ねた。

「はい。特に変わったことは座いません。ただ、先程、ヒロと申す者が旦那様を訪ねて參りました。金貨を換金したいと申しておりまして、旦那様の署名りの契約書を持っておりました」

小男の答えにシャロームは、おっ、という顔をした。

「ほう。ヒロさんですか。偶然は重なるものですね」

「やはり旦那様のお知り合いで……」

「知り合いといってもつい最近のことですよ、シープラ」

「左様で座いましたか」

「彼はなんと言っていました?」

「自分が訪ねてきたことを旦那様に伝えてくれるようにとだけ言ってお帰りになりました」

「彼が何処にいるか聞きましたか?」

「いえ。旦那様はしばらく商談で不在が続くので、七日の後であれば都合を付けられる日もあると伝えましたら、七日後にまた此処に來ると申しておりました」

シャロームは頭に被っている紫のベレー帽に手をやり整えた。そして、シープラという小男の後ろで控えていた娘に聲を掛けた。

「パール。七日後に彼ヒロと會えるよう、私のスケジュールをし調整して下さい。あと蝋手板タブレットを……」

シャロームは、パールから二枚の蝋板を蝶番で繋いだ、手帳サイズの蝋手板ワックス・ハンドタブレットをけ取ると、元から鉄筆を取り出して、何やら書き付けた。

「パール、明日これを例のあの人に屆けてください。その場で読んでいただいて、返事も貰って來てください。明日であれば、いつもの所に居る筈です」

「畏まりました」

娘は、シャロームがパタンと閉じた二つ折りの蝋手板ワックス・ハンドタブレットを恭しくけ取ると、軽く頭を下げた。

「さてと、面白くなりそうですね」

鉄筆を上著のポケットに収めたシャロームの呟きは、シープラにもパールにも屆くことはなかった。

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