《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》8-060.今度ばかりはお前達でも手こずるかもしれんな

ウオバルの街に夜の帳が下り、闇に包まれる。

の路はそのを失い、家々に燈りが次々と點っていく。

それとれ代わるように、天空に姿を現した蓮月が広大な天の川を背景に、その花弁で太して、虹の輝きを地に投げかけ始めた。幻想的な景だ。

ウオバルの中央に位置する小高い丘に聳えるシルエット。ウオバル領主であるウォーデン卿の居城だ。そこから小さな燈のが等間隔で真っ直ぐに並んでいるのが見える。緑の路リディ・ウィアを示す燈りは、虹の広場まで続いていた。

ウォーデン城へと導く緑の路リディ・ウィアには、聖職者や騎士の住居、そして公共施設が立ち並んでいる。位のある者しか居住が許されない路だ。その一角に四階建ての豪奢な建があった。

は路にピタリと面してはおらず、十數歩程度セットバックされ、その間には芝生が敷き詰められている。路に面した部分には門が設けられていた。執事風の老人が、一旦門を開け誰かを招きいれたかと思うと、再び門を固く閉ざした。

の角には、ランプが吊るされ、煌々と明かりを燈していた。その奧に、小さな石造りの部屋があった。

一つきりの窓は小さく、蝋引きされた白い紙で覆われている。ランプのが侵を試みるが、蝋紙を過した頃には、その勢いを失っていた。室を漂うが弱々しく辺りを照らす。かろうじて部屋の様子が分かる程度だ。

中央に丸テーブルが一つ。四面の壁には天井まで屆く作り付けの本棚があり、その全てに、豪奢な裝丁の書がぎっしりと収まっている。中には、古代文字が刻まれた石板のようなものまである。これらを揃えるのに、一どれだけの時間と労力と資金を費やしたのだろうか想像もつかない。

そのテーブルの奧で長持ちに腰掛ける一人の男がいた。神が著るような純白のローブには、金の刺繍が施され、両肩の鎖骨の本辺りから真っ直ぐ下にびている。この薄暗い部屋の主にしては、その姿はやや不釣り合いに見える。

男の年は四十後半、いや五十代に差し掛かっているだろうか。一見どこにでもいそうな中年男だったが、指にはいくつもの寶石がり、その財力の一端を誇示していた。オールバックにした髪は後頭部で束ねられ、ポニーテールのようにそのまま後ろに垂れ下がっていた。しかし、男の淺黒い顔の中で爛々とる眼が異様な雰囲気を醸しだしていた。

男が々苛立たしそうに、テーブルをトントンと指で叩いた。すると、それが合図であったかのようにマホガニー調の重い扉がギィと軋んだ音を立てて開いた。

開け放たれた扉の向こうに三人の男が姿を現した。一人は黒ずんだ銀の甲冑にを包み、もう一人は漆黒のマントに三角帽。最後の一人は小柄な団子鼻。冒険者風の三人の男達は、慣れた足取りで部屋に足を踏みれた。

「隨分と久し振りだな」

三人のリーダーと思しき銀の甲冑の男が口を開く。

「相変わらず辛気臭ぇところだぜ。俺達を呼び出すなんざぁ、それなりの仕事なんだろうな」

甲冑の男が悪態をつく。部屋の主とは古くからの知り合いのようだ。

「……貴様のその口の悪さも変わってないな。誰にでも頼める仕事なら、わざわざお前達を呼ぶ事はしない」

テーブルの男が応える。その嗄れた聲は男の年齢を更に一回り上に見せた。

「はっ、言って呉れるぜ。で、今度は何だ? つまらねぇと思ったら、今すぐその腕へし折ってやるぜ」

甲冑の男は凄んで見せたが、テーブルの男は全くずる様子を見せない。やがてテーブルの男はし斜に構えた顔で甲冑の男を指さした。

「……、今度ばかりはお前達でも手こずるかもしれんな」

「?」

「……黒の不可ブラック・アンタッチャブルだ」

甲冑の男の眉がぴくりとき、黒マントの男が自分の三角帽の鐔に手をやった。団子鼻の男の口元が醜く歪む。

テーブルの男は、三人の反応を確認してから続ける。

「奴が今回のターゲットだ。だが、討伐ではない。生かしたまま捕らえてくるのだ。裏にな」

「あん?」

「私が追っているを、奴が握っていることが分かった。まだ推測の段階だがな。それを確かめたい」

「黒の不可ブラック・アンタッチャブルか。はっ、上等じゃねぇか。まさか無傷でとは言わねぇだろうな」

「勿論だ。喋れる程度に生きていればいい。だが絶対に殺してはならん」

「あぁ。誰に向かってものを言ってんだ。不可アンタッチャブルなんざぁ引きずり回して來てやらぁ」

「大層な自信だが、黒の不可ブラック・アンタッチャブルが伊達や酔狂でそう呼ばれている訳ではないことぐらいお前達も知っているだろう」

「関係ぇねぇな。これまで奴にやられたヘナチョコ共と一緒にしないで貰おうか。奴は一人、こっちは三人だ。それともサシでやれってかぁ」

「そうは言わん。そんなリスクを犯す必要は更々ない。捕らえて此処に連れてくるだけでいい」

テーブルの男の答えに、甲冑の男が満足そうに頷くと、挑発的な目を向けた。

「だがよ、半端な報・酬・じゃぁ出來ねえな。其れなりに弾んで貰わねぇとよ」

銀の甲冑の男がを乗り出す。男の背のロングソードの柄が鈍くる。テーブルの男はゆっくりと口を開いた。

「……王國正金貨五百枚を用意した」

王國正金貨百枚もあれば、小降りの家なら一軒立つ。それが五百枚とは。

しかし甲冑男の答えは意外なものだった。

「そんなもんじゃ話にならねぇな。例のものだ。分かっているだろう」

「……分かった。出そう。だがあ・れ・は使い手を選ぶ。いいんだな」

「余計なお世話だ」

甲冑男が目を細め鼻を鳴らす。テーブルの男はじろぎもしない。それ以上は何もないと態度で示していた。

「……ふん。しゃあねぇな。お前とのつき合いだ、けてやるぜ。まずは金貨五百枚のうち前金で半分貰おうか。殘りの半分と例のブツは功報酬にしといてやる」

甲冑男はテーブルを暴に叩くと、テーブルの男を睨みつけた。その反論を許さない態度は、最早恫喝に近かった。

「……よかろう。前金は後で屆けさせる。段取りもその時に説明する。それでいいな」

テーブルの男は臆することなく、返事をする。契約渉は終わった。三人の男は、足音高く部屋を出て行った。

(下衆が…)

テーブルの男が汚いものでも見るかのような目線を扉の向こうに向ける。

「黒の不可ブラック・アンタッチャブルと、どちらが上か。とくと見せて貰おうか」

テーブルの男は靜かに呟いた。

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