《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》10-070.お願いばかりで申し訳ないんだが、二人に頼みがある

 ――ウオバル酒場。

 ヒロ、ソラリス、リムの三人は、初めてウオバルに來た日の夜にった酒場に再び來ていた。

「ご注文は?」

おかっぱ頭の給仕の娘が尋ねる。

「エール。ストロング二つにマイルド一つ」

ソラリスの注文に、畏まりましたと娘が廚房にっていく。直ぐに三つのエールが屆けられた。ソラリスがエールの杯を掲げる。

「ヒロの冒険者デビューに」

「ヒロ様の頑張りに」

ソラリスとリムの口上にし気恥ずかしさをじながらもヒロが応じる。

「リムとソラリスの助けに」

乾杯の掛け聲とともに、カチンと杯と杯が軽く音を鳴らす。赤褐のエールが泡を立てた。

「ヒロ、これでお前も冒険者だ。ギルドのクエストをけて金を稼げばランクがあがる。ランクが上がれば、高報酬のクエストを紹介して貰える。C1くらいの中級冒険者になれれば、それだけで食っていけるようになるさ」

エールを一気に飲み干したソラリスの聲は弾んでいた。

れれば、そうなんだろうけど……」

ヒロの呟きを余所よそにソラリスはお代わりを注文する。

「で、明日もクエストかい?」

ソラリスの問いにヒロは靜かに首を振った。

「いや、明日は休息に充てる。リムを休ませたいし、俺もここ二、三日歩き通しで疲労が溜まってる。くにしてもこの辺りウオバルを散策するくらいにするさ」

ヒロはエールの杯を口に近づける。強い芳香が鼻を擽くすぐった。

「それで、これからのことなんだが……」

エールをぐびりと飲んだヒロは靜かに杯を置いた。果実のように甘くて苦い酒だ。リムとソラリスがヒロを見つめていた。

「ソラリス、リム。お願いばかりで申し訳ないんだが、二人に頼みがある」

ヒロはゆっくりと切り出した。

「仕事の世話かい? それは前に聞いたよ」

「いや」

ソラリスの言葉にそうじゃないとヒロは、エールに目線を落とす。茶褐からぶくぶくと白い泡が弾けていた。

「しばらくは、仕事が見つかるまでは冒険者として金を稼ぐしかないと思ってる。だけど、今回のクエストで、今の俺には足りないことだらけだということも分かった。それは、剣と読み書きだ」

ソラリスは口にしていたエールを飲み込んだ。ゴクリとが鳴った。

「元々俺は剣なんて使えない。魔法はモルディアスの爺さんに習うにしてもだ。剣のほうはさっぱりなことには変わりない。今日の小悪鬼ゴブリンの襲撃だって、魔法でを守っただけで、小悪鬼やつらを撃退したわけじゃない。いつも魔法が使えるかどうかも分からないし、魔法が使えないときだってあると思う。そんなときでも、最低限を守れるだけの剣のスキルがしい。また、読み書きもそうだ。カダッタの所で鎖帷子を買った時に思ったが、契約書を書く機會が意外と多いことに驚いた。何時までもリムに頼るわけにはいかないし、署名はもちろん、契約書の中を読めるようになっておきたい」

ヒロはそこまで言って、一気にエールをあおる。

「ソラリス、俺に剣を教えてくれないか。そしてリム。君には読み書きを教えてしい」

「あたいの剣は野良剣法だぜ。本格的に習うのならそれなりの騎士に教わるか大學に行くのが一番だよ。それでもいいのかい?」

「前も話したと思うが、今の俺には大學に行ける伝手つても、騎士の知り合いもいないんだ。それに、正式でなくとも、使える剣であれば構わない。ソラリス、君は剣の腕を見込まれて、んなパーティからわれているんだろう。それで十分さ」

ヒロは、昨日カダッタから言われたことを引き合いに出した。ソラリスはを乗り出してヒロに顔を近づけるとニヤリとする。

「隨分、あたいを買ってくれてるね。いいよ。ヒロ。野良でよけりゃな」

「すまない。助かるよ」

ヒロは次いでリムに向き直る。ヒロが口を開くより早くリムは答えた。

「お任せください。近頃の事はあまり分かりませんけど、読み書き程度であれば」

「ありがとう。リム」

ヒロは殘ったエールを飲み干すと、追加の一杯を注文した。ソラリスも同じく追加し、リムはパンをオーダーした。

◇◇◇

「おい、聞いたか。メイデンがやられたぞ」

「スティール・メイデンがか? まさか」

「魔王にでも遭ったのか。冗談も休み休みに言え」

隣のテーブルが隨分喧しい。

「どうしたんだい?」

ソラリスがそのテーブルに聲を掛ける。

「お、ソラリスか。久々だな」

口髭に顎髭、要するに髭もじゃの中年男が顔を向ける。

「なんだ。ブリクスか」

「何だとはご挨拶だな」

ブリクスという髭もじゃ男は、ソラリスの隣に席を移した。ソラリスの知り合いのようだ。

「聞いたかよ。ソラリス。スティール・メイデンが再起不能になっちまったんだってよ」

「なんだそりゃ。あたいらは今日の夕方にスティール・メイデンあいつらに會ったんだ。ぴんぴんしてたぜ」

「俺も詳しいことは分かんねぇんだけどよ。やられたのは丁度その頃らしい。一部始終を見たのがいてよ。今、ギルドに報告に行ってるんだが、終わったら此処に來ることになってる。そいつを待ってんだ」

そうこうしているに、その噂の待ち人がやってきた。

「おう。ダムド。待ってたぜ。こっちだこっち」

いち早く気づいたブリクスが件くだんの人を呼んだ。ブリクスが開いたテーブルから椅子をかっさらい、自分の隣に置く。待ち人は興した面持ちで席につく。あっと言う間に、ヒロ達のテーブルの周りは人だかりとなった。

「皆、気が早いな。こいつは俺の舎弟でダムドってんだ。裏の工房で働いてる。今日師匠の使いでエマから帰るとこだったんだけどよ。犬山カニスガラに差し掛かったとこで出會でくわしたってわけだ」

髭もじゃに紹介されたのは年の頃十五、六くらいの年だった。日に當たったことのなさそうな白い顔は、興して赤みを帯びている。

「ダムド、お前、スティール・メイデンがやられる所を見たんだろ。聞かせてくれや」

「ブリクス兄あにさん。僕がさっき見たのは……」

髭もじゃブリクスに促され、ダムド年は息堰切って話し始めた。

 

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