《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》10-075.ウオバル図書館

「図書館はここでいいのかな」

順番が來たヒロは開口一番尋ねた。

「はい、そうです」

カウンター越しに付の娘が答える。ショートカットに揃えた黒髪に白い。大きな瞳が知的なを湛えている。白いシャツは正面のボタンで止めるタイプで、この世界ではあまり見かけない服裝だ。どちらかといえばヒロの元の世界でいうカッターシャツに似ている。襟は無かったが。

「読み書きを勉強したい。ぜんぜん読むことも書くこともできないんだが、いい本はないかな」

「ウオバル大學図書館は初めてですか?」

「うん」

「本日は午前だけの開館ですがよろしいですか?」

「手頃な本が見つかりさえすればいい。それで十分だ」

「そうですか、では」

娘は手元のベルを摘んで、チリンチリンと二度鳴らした。直ぐにカウンターの奧から人が出てきて、ヒロの隣に來た。十歳くらいの年だ。

「彼に案させましょう。セイン、お願いね」

娘は年に聲をかけた。

「僕の名はセイン。図書館を案するよ、ええと……」

年の言葉をヒロが継いだ。

「俺の名はカカミ・ヒロ。ヒロでいい」

「じゃあ、ヒロ、こっちへおいで」

ヒロはセイン年の後に続いた。

図書館の建るとそこは大きなホールだった。吹き抜けの高い天井は青空を描いた壁畫となっていた。左右には金の裝飾が施された螺旋階段があり二階、三階へと続いている。四階へ行く階段は見あたらなかったが、四階部分には大きな窓がいくつも設けられていて、十分なってくる。窓の下半分は明で、上半分には鮮やかなステンドグラスがはめ込まれていた。ステンドグラスを通過した外は、七に変化して大理石の床を彩っている。

三階から下の周囲の壁にはびっしりと書架が並べられていた。ホールから見える部分でこの規模だ。一どれほど蔵書があるのかちょっと見當もつかない。

「ヒロ、ウオバルの図書館は初めてかい?」

セインが振り向いた。

「ああ、正直驚いたよ。ここまで揃えてるなんて」

「でしょ。ウォーデン卿りょうしゅさまが兎に角、本が好きなんだ。世界中の本を集める積もりだって街ウオバル中の評判だよ」

セインは両手を広げて見せる。その顔はどこか誇らしげだ。

「セイン、君は図書館ここで案の仕事をしているのかい?」

「うん。僕も本が大好きなんだ。田舎の村から出てきたんだけど、本が読みたくてうろうろしてたら、ここの館長が拾ってくれたんだ。手伝いしながらいくらでも本が読めるし、いうことなしさ」

「へぇ。セインは何歳いくつなんだい?」

「十一歳。ここにきてもう四年になるよ」

「親さんもウオバルここに住んでいるのかい?」

「ううん。住んでるとこは、ウオバルの近くのバンガルって村だけど、毎朝、父ちゃんが虹の広場ここで店をやってるんだ。僕は図書館こっちに住み込みだけど、今の季節なら三日に一回は會ってるから平気だよ」

セインは目をキラキラさせて答えると、ヒロに質問を返した。

「ヒロ、ヒロは何処から來たの」

「俺かい。遠い東の國さ」

「なんて國?」

ヒロの咄嗟の、ある意味で定番の答えにセインは躊躇無く突っ込んでくる。好奇心旺盛な子だ。

「……、ニホンっていうんだが、知らないよな」

「聞いたことないよ。大陸にそんな國あったかな~」

「大陸から離れた島國だからね。知らなくても無理ないさ」

「じゃあさ、海を渡ってきたの。本で読んだことはあるけど、見たことないんだ。教えてよ」

ヒロは、心冷や汗を掻きながら、海について説明した。ヒロの記憶にある海は、フェリーで瀬戸海を行き來した程度の穏やかなものだ。大洋の荒波を越えた経験がある訳じゃない。セインくらいの歳の子は、聞いたことは直ぐに覚えて吸収してしまう。この歳で図書館の案を任されるくらいだ。きっと覚えもいいだろう。ここは大陸であり、周りに海があることはソラリスから聞いていたが、元の世界の海と同じである保証はない。一通り説明しながらヒロは、余り喋らないほうがいいなと思った。

ヒロの説明をじっと聞いていたセインは、握り拳を作って人差し指の腹をに當て、何かを思い出すかのようにじっと考えていたが、直ぐに瞳をヒロに向けた。

「ヒロが渡ったのは、バルバルの海かな。うん。大陸の東の海って書いてあった。その向こうに島があるとは書いてなかったけど。淺瀬の穏やかな海で、魚が一杯穫れるんだって」

「う、うん。セインは勉強家だね。セインは大きくなったら何になるんだい?」

危ない。これ以上迂闊に喋ると矛盾が出てくるかもしれない。ヒロは話題を逸らした。

「ありがとう。僕は將來、此処の大學で勉強して學者になるんだ」

「そうか。今から勉強すればきっとれるさ」

「うん」

セインはヒロをホールの奧へと案した。

「ヒロ、君が良ければ図書館の中を一通り案するし、お目當ての本が早く読みたいならそこに案するよ。どっちにする?」

「そうだな。一通り案をお願いできるかな」

「分かった。任せて」

セインはヒロを先導して建の奧へと導く。ヒロはセインの背中を見ながら、もしリムを連れてきていたらどうなっていただろうかと想像する。セインはリムと同じくらいの歳だ。仲良くなるだろうか。いや、リムがいのは見かけだけで、実年齢はずっと上の筈だ。確かにリムの屈託のなさはい子供のようだ。しかし時折見せる大人びた表や言葉は十年や二十年で培えるものではないように思える。

「ヒロ、こっちだよ」

セインの聲に、ヒロは余り実りあるとは言い難い、自分の思考を打ち切った。

ホールの奧には開け放たれた扉があり、その先は廊下になっていた。廊下の両脇はいくつかの小部屋に仕切られている。

「こっちの部屋には歴史の本、こっちは地理だね」

ヒロは、セインが指さした小部屋に顔を向けた。部屋には當然ながら書架が並べられていたが、間隔はゆったりと取ってある。書架は天井まで屆く高さがあったが、脇に木で出來た腳立と、背もたれのない座面が丸い椅子が置いてあった。いくつかの椅子には人が座って熱心に本を読み込んでいた。

右側をさしたセインの指が反対側を向く。

「こっち側は剣の本。魔の本はないけどね」

「なぜないんだ。ここの大學は魔も教えているんだろう?」

「後で教えてあげるよ」

セインは奧へ奧へとっていく。廊下の突き當たりにきて、セインが足を止める。その目の前に、紋章のついた銀の扉があった。こちらの扉は閉まっていた。

「この扉ここから先は、止。れるのは大學の學生と教だけ。魔法の本の殆どはこの中なんだ。魔法はちゃんと使い方を學ばないと危険だからね。普通の人は読むことはできないんだ」

「なるほどね」

當たり前に魔法が存在しているかのように見えるこの世界でも、やはり魔法は特別なのだ。ヒロの心に微かな迷いが生まれた。ヒロは魔法使いのモルディアスが呉れた指で、苦もなく魔法が使えるようになった。だからといって、こんなに簡単に使ってよいのだろうか。今のヒロの魔法は自己流だ。無論、モルディアスに魔法を習う積もりではいるが、彼は魔法の正・し・い・使い方を教えてくれるのだろうか。

確か、この都市ウオバルでは、魔法使いは黃の路フラー・ウィアに住んでいる筈だ。ソラリスはそう言っていた。だがモルディアスの住処はウオバルから外れた森の中だ。あんなところに住んでいるところから察するに、実はモグリの魔法使いなのではなかろうか。そんな考えさえ頭を過よぎる。

「次は二階だよ。付いてきて」

セインは元來た廊下を戻る。ヒロは頭かぶりを振ってセインに続いた。

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