《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》11-078.ヒロさんに言伝がありました

――冒険者ギルド。

ヒロは図書館からの帰りに冒険者ギルドに立ち寄った。ソラリスと晝過ぎに待ち合わせをすることになっていたからだ。ギルドのフロアを一通り見渡す。ソラリスの姿はなかったが、ヒロは直ぐに會えるとも思ってはいなかった。

この世界には時刻という概念が存在しない。否、一日を何等分かに區切って目安とし、互いの行の基準にするという慣習がないといったほうがより正確だろう。この世界の一日は太きを基準とし、日が昇るとき、中天にあるとき、が沈むときという合に大雑把に晝を三等分している。

朝といえば日の出から正午までの間、晝は正午から日沒まで、夕は日沒し前から薄暮が完全に消えるまでといった合だ。ヒロはこの世界に來てから、周囲の話す容やでその事を摑んではいたが、このペースにはまだ慣れない。

図書館を出たときは、太は丁度、頭の真上にあったから、この世界の基準では今から晝・の扱いだ。

ソラリスの言った待ち合わせの時間は晝過ぎ。つまり、最大日沒まで待つことになる。ソラリスは、ヒロが図書館に行っている間に仕事の口利きをしておくと言っていたが、どれくらい掛かるかまでは言わなかった。

ソラリスは期待するなと言った。普通に考えればそれも當然のことだ。何処の馬の骨とも分からない者をいきなり雇ってくれるところなどそうそうある筈もない。自分一人で探すのなら尚更だ。それだけに、ウオバルこの町でも顔が広いと思われるソラリスが自分の代わりに仕事を探してくれるだけでも有り難いとヒロは思っていた。

(……そういえば、冒険者も仕事のうちだよな)

ふと獨りごちる。

そもそも、冒険者登録できたのだって、ソラリスが勧めてくれたからだ。無論、ソラリス自がヒロを冒険者にしたがっていたこともあるのだろうが、冒険者とてこの世界では立派な職業だ。その意味ではヒロは既に仕事を見つけているともいえる。

(仕事がない、なんて文句を言ったらばちが當たるな)

ヒロはクスリとした。やりたい職種でなくとも、とりあえず手をつけられる仕・事・があるだけ有り難いことなのだ。たとえ報酬がなくとも、得られる手段があるとないとでは大違いだ。ヒロは、この間の手紙を屆けるといった簡単なクエストがないか聞いてみようと、真っ直ぐに付に向かった。

「こんにちは、ヒロさん。今日はお一人ですか」

付のラルルがいつもの人懐こい笑顔を見せる。

「待ち合わせさ。待ってる間にこの間のようなクエストがないかと思ってね。掲示板から探せればいいんだけど、字が読めないんだ。何かいいのはないかな」

「あ、そうなんですか。この間というと、配達のクエストですね」

「うん」

「え~と。あったかな~、ちょっと待ってて下さいね」

ラルルは掲示板の前にいき、ずらりと掛かっている蝋板ワックス・タブレットを丹念にみる。やがてラルルは一息大きく息をついてからカウンターに戻ると、後ろに積んである蝋板ワックス・タブレットの山を一つ一つチェックし始めた。山の間には丸めて紐で縛った羊皮紙も何本かあったのだが、それも広げて中を確認している。

「ごめんなさい。ヒロさん、今はないですね。モンスター討伐ならいくつかありますけどどうします?」

ヒロに向き直ったラルルは申し訳なさそうな顔をした。そこまで真剣に調べてくれるとは思っていなかった。ヒロの方が逆に恐してしまった。

「いや。止めとくよ。其処までのランクがあるわけでもないし、パーティに參加もしていないからね。調べてくれてありがとう」

禮をいってカウンターから離れようとしたヒロをラルルが呼び止める。

「あ、ヒロさん。大事な事をいうのを忘れてました。ヒロさんに言伝ことづてがありますよ」

「え?」

「シャローム商會からです」

ラルルは手のひらサイズの小さな蝋板ワックス・タブレットを取り出すと、その中を読み始めた。

――七日後の日沒前、八蓮月の十日にお會いしましょう。シャローム・マーロウ。

「戴いたのは一昨日なので、今日からだと五日後ですね。ヒロさん。シャロームさんとお知り合いだったんですか?」

ラルルは吃驚したような顔をしている。

「ちょっとした縁でね」

シャローム商會を訪ねたときには一言も言わなかったのに、なぜ自分が冒険者だと知っているのだろう。ヒロは不思議に思いながらも、ラルルに尋ねる。

「彼はそんなに有名なのかい?」

「はい。目下売り出し中の商人ですよ」

ヒロはラルルからシャローム商會の説明を聞いた。商會そのものは古くからあったのだが、十年前にシャロームが先代の後を継いでからは、ただの一商會であったシャローム商會を急長させたのだという。今ではウオバル周辺だけでなく、近隣の城塞都市とも活発に取引を行っているのだそうだ。

「へぇ。実は數日前にシャローム商會に行ったんだ。売り出し中という割には、建はこじんまりしていたけどな」

「そこがシャロームさんが他とは違うところなんですよ。裝をし変えるくらいで、建て替えはしないんだそうです。先代から継いだ建だからって」

「そうなんだ」

一代の大商人か。やはりシャロームは只者ではないようだ。

「ラルル、伝言ありがとう。今日はここで待ち合わせしたいんだけど、いいかな」

「はい。何もありませんけど、どうぞごゆっくり」

ヒロはラルルに禮を言うと、空いたテーブルを見つけ、椅子に腰掛ける。フロアはいつものように他の冒険者で賑わっていたのだが、その賑わいの大半はある一つの話題で占められていた。

「おい聞いたか」

「あぁ。あいつらがやられるとはなぁ」

「ミカキーノもこれで終わりかな」

隣のテーブルから冒険者達の噂聲が聞こえてくる。スティール・メイデンが黒の不可ブラックアンタッチャブルにやられた件だ。やはり噂になっていたか。昨日の酒場もこの話題で持ちきりだった。増してや冒険者ギルドで話題にならないわけがない。それ程この界隈の冒険者達にとって衝撃的な事件だったということだ。

「ヒロさん」

ぼんやりと噂話に耳を傾けていたヒロに聲を掛ける者がいた。

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