《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》12-087.ウオバル公式闘技場

翌朝。ヒロとソラリス、そしてリムの三人はある建を訪れた。

――ウオバル公式闘技場。

ウオバルの領主であるウォーデン卿の発案で設けられた闘技場である。普段は大學に通う學生の剣練習に使われているのだが、空いている時間は一般にも開放される。剣だけでなく、魔法の練習や試技も可能だ。冒険者も自分の練習や、パーティに新しい仲間を加えるとき、その実力を計るために使われることも多い。公式闘技場ここには、大學の剣や魔法教もよく足を運んでいて、一般冒険者でも、実力のある者は大學の學生としてスカウトされることもあるという。

公式闘技場は、円形のコロシアムだ。中央は砂を敷き詰めた闘技場で、その周りに観客席がある。外観はローマのコロシアムにも似ているが、建に魔法結界が施されており、魔法を使っても外には影響を及ぼさないようになっている。

付でそう説明されたヒロは、使用料の銀貨一枚を支払うと、別室で準備を始めた。公式闘技場ここで貸し出ししている防の中から皮の鎧を選んでにつける。裝著の仕方が分からないところはソラリスが手伝ってくれた。

「ソラリス。防は要らないのか?」

「何言ってんだ。既に裝著してるさ」

ソラリスはマントをいでリムに渡した。ノースリーブにショートパンツの軽裝だ。どこにそんな防がと訝るヒロに、ソラリスはぐいと自分の襟元を引っ張ってみせる。チャリと微かな金屬音と白銀の布メイルが顔を覗かせた。

――真銀鎖帷子ミスリル・チェーンメイル

ヒロとリムがカダッタの道屋で注文した鎖帷子と同じものをソラリスは著ていた。ヒロは前にもソラリスに見せて貰ったことを思い出した。

「そうか。そうだったな。剣はこれでいいのか?」

ヒロは、部屋の隅に置いてある傘立てのような長細い箱に無造作につっこまれている木剣の一つを抜いてソラリスに見せた。

「どれでも好きにしな。どれも大して違わねぇさ」

そういうソラリスは、木剣ではなく、ただの棒切れを握っていた。何かの木の枝を切って作ったとしか思えない只の棒だ。

「ソラリス? そんなので……」

「さっきも言ったろ。何だっていいんだよ。さ、いくよ、ヒロ」

こんな事で反論しても仕方ない。ヒロはしだけ首を竦めて、闘技場に向かうソラリスに続いた。

「ヒロ様、頑張ってください」

そんなヒロの背中をリムのき通った聲が後押しする。振り向いたヒロは何も言わずに微笑んだ。

◇◇◇

――ドン。

棒切れが鈍い音を立てて、皮の鎧を抉る。

「がはっ!」

肺胞に蓄えた空気を一つ殘らず吐き出したかのようなき聲を上げたヒロを、舞い上がった砂煙が覆う。

「げほっ、げほっ」

片膝をついたヒロの口が空気を求めた。

「あ~。どうする? この辺にしとくか。大分かったからよ」

ソラリスが右手の棒切れを肩に擔いで、やれやれという顔をする。

「……もう、……いい、のか?」

肩で息をしながら、ヒロが答えた。疲労困憊だ。剣練習を始めて一時間も立ってない。休みを何度もれたのにこの有様だ。こんなに疲労するものなのか。エマに行って日帰りで戻ってくるほうが余程よっぽど楽だ。ヒロにはボクシングや格闘技の試合が一ラウンド三分かそこらである理由が分かった気がした。

ソラリスの剣練習は実戦そのものだった。ヒロは剣の持ち方から始まって、足捌きや構えを教えてくれるものだと思っていたのだが、そんな予想は見事に裏切られた。ソラリスはヒロに好きなように攻めてきていいとだけ伝え、いきなり試合形式での練習を始めた。

何をしてもいいと聞いて、ヒロはよしとばかり意気込んで掛かった。無論、ヒロには剣の心得はない。高校時代に育の授業で剣道をやったくらいだ。だが、フリーで何をしてもいいのなら一太刀くらいなら浴びせられるのではないかと思っていた。それは大きな思い違いだった。

始めてしばらくの間、ソラリスは、ヒロの木剣による攻撃を、手にした棒切れでけた。反撃も何もしない。ただけていただけだ。だが、それからソラリスの対応は徐々に変化していく。ヒロが打ち込もうとした剎那、ソラリスの棒がヒロの木剣の切っ先をしだけ逸らす。剣は流れ、ソラリスにかわされてしまう。続いてソラリスは足を使い始めた。ヒロが剣を振り被るのに併せて、僅かに切っ先の軸線からたいを外す。そのきは必要最小限で、素人にはいたことさえ分からない。ヒロの剣は全く當たらなくなった。

ヒロはありとあらゆる試みをした。上からも下からも打ち込んだ。チャンバラの如く、を回転させてからの奇襲もやってみた。だがどれもこれも失敗に終わった。

一言で言えば、実力差が有りすぎた。

ヒロは、その場に座り込んだ。確かにこの辺りにして置いた方がよさそうだ。

「ヒロ、今のお前じゃ剣は止めたほうがいいな。本は木剣そいつのように軽くないからよ。そんなに振り回しちゃすぐに疲れちまう」

「やっぱり、素人じゃ、話にならないんだな。済まない、ソラリス。こんな下手糞につきあわせてしまって。俺には剣は荷が重そうだ」

そんなヒロに、ソラリスは嫌な顔一つせず答える。

「ヒロ、だが魔法使いでも剣につけたいという考えは悪くないぜ。ウオバルここの大學でも、最近は、魔法使いでった奴にも基礎的な剣くらいは教えるらしいからな」

「でも、こんなド素人じゃどう仕様もないんじゃないのか?」

「へっ。昨日も言ったろ。お前に合った技を探すって」

ソラリスが不敵な笑みを浮かべた。

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