《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》12-088.頑張れよ、へっぽこ剣士

「有るのか、そんなのが」

ようやく呼吸を整えたヒロが木剣を杖代わりにして立ち上がる。

「そうさな。お前にはこれがいいかもな」

ソラリスは棒切れを左手に持ち腰溜めに構える。手で持つところの柄つかの部分だけ前に出し、殘りはの後方だ。刀でいえば左腰に差した狀態に當たる。

「よく見とけよ」

ソラリスは、ぐっと腰を落として極度に低い勢を取った。

――ふっ。

ソラリスが小さく息を吐いた次の瞬間だった。右足を大きく踏み出して前傾姿勢を取り、右手で棒・の・柄・をったかと思うと、一気に斜め右上に跳ね上げる。地面の砂が太刀筋を追って舞い上がり、棒の先端が空気を切り裂いた。

ドゴーーーーーーーン。

一拍遅れて強烈な衝撃音がコロシアムに響き渡り、辺りの空気が震える。その余りの衝撃にヒロは首を竦め、リムは両手で耳を塞いでしゃがみ込んだ。

ソラリスの太刀筋は左下から右上へと、丁度、逆袈裟懸けの軌道をなぞったのだが、その剣速は凄まじく、遠目で辛うじてそれと分かるくらいだ。至近距離ではまず目に留める事は出來ないだろう。実戦でこの剣を振るわれたら、相手はおそらく何が起こったのかも分からないまま、真っ二つになっているに違いない。

ソラリスはしばらくそのままの勢でいたが、ゆっくりと起きあがり、手にした棒切れをヒロに見せた。

棒に殘っていた樹皮はめくれあがり、ボロボロにささくれ立っていた。先端から煙が上がり、焦げた臭いを漂わせている。熱によるものだ。あの裂音からして、先端の剣速はおそらく音速を超えていただろう。信じられない疾さだ。

「この技は『抜き』というんだ。抜いたら瞬時に相手を斬る『抜即斬ぬきそくざん』って奴さ。ヒロ、お前の剣は確かに素人だ。予備作が大きい上に、視線が先にいて、打ち込むところがバレてしまってる。はっきり言って実戦には使えないね」

ソラリスはそこまで言って、一息れた。

「だけど、それは剣を構えたらの話だよ。剣を構えると打たなくちゃっていう気持ちが先にでることがあるけど、それじゃ駄目なんだ。そんな気持ちが隙を作っちまう」

ソラリスはヒロの視線をしっかりとけ止めてから続けた。

「だったら構えなければいい。魔法使いが剣の使い手だなんて思わねぇしな。増してや構えも取らないなら尚更だ」

「理屈は分かったが、俺に出來るのか、こんな凄い技が」

「なに、威力なんて要らない。牽制できる程度でいいのさ。不意打ちなんだからよ。きは簡単。低く構えて片手で摺り上げるだけさ」

そういってソラリスは軽く素振りをして見せた。棒がヒュンと軽い音を立てた。

ヒロが真似をして木剣を振った。ソラリスはもっと低く、一息で、とアドバイスしながら、しばらくヒロの剣を指南した。

百本程振った頃だろうか。ガランゴロンとコロシアムにベルが響きわたった。うん、と辺りを見渡すヒロにソラリスが告げる。

「時間だ、ヒロ。今日は此処までさ」

ソラリスが目を上げ、剣授業の終わりを告げた。

「お疲れ様です。ヒロ様」

びっしょりと汗を掻いたヒロに、リムがタオルを差し出した。ヒロは有難うとけ取ったが、ちょっとした違和を覚えた。タオルは薄手の布を二つ折りにして、長辺がい合わされていた。いわば細長い巾著袋だ。リムによると、中に手をれて汗を拭くらしい。

ヒロは、防を外してから、言われるままに汗を拭いたが、どうもしっくりこない。これもこの世界の流儀なのだろう。仕方ない。

ともあれ、剣の訓練は無事に終わった。疲労はしているが、何処かを怪我した訳ではない。ヒロは汗を拭きながらソラリスに禮をいう。

「これからもよろしく頼むよ」

「頑張れよ、へっぽこ剣士」

ソラリスが笑った。ヒロとリムも釣られて笑顔を見せる。三人は借りた防と剣を片づけに、別室に戻っていった。

と、闘技場を見下ろす観客席の柱の影から、引き上げるヒロ達の後姿を見つめる二人の青年がいた。一人は、ウオバル大學の剣士服にを包み、もう一人は魔導士服だ。

「へぇ。一般にもまだあんなのがいるんだね」

長髪の剣士服の青年が心したような聲を上げた。切れ長の目は鋭く、周囲を圧倒する気を発している。それは、すれ違いざまに一刀両斷される雰囲気とでも言えようか。彼と対峙した者の大半は、正視できずに目線を反らすに違いない。

「みたいだね。でもランディ。君の敵じゃないさ」

問いかけられた小柄な魔導服が答える。さを殘す顔立ちに大きな瞳がブルーに輝いている。黒に近い灰の髪。青年というより年といったほうが相応しいが、剣士の男との話し振りを聞く限りではそう歳は離れているわけではないのだろう。

剣士服の青年が無言でいると、魔導服の青・年・は言葉を続けた。

「君ランディの剣に唯一対抗できるのは、バルド・ズィーラン流くらいだよ」

「『ブリザード』のことかい」

「うん。今年の新生でってきた娘だ。アストレル家の次だってね。もう評判になってるよ」

「メルクリス。あっちの青年おとこは?」

「さぁ、弟子にでもするんじゃない? でもあの様子だとものにはなりそうもないね」

二人の青年は、ヒロ達が闘技場を後にするのを見屆けると、くるりと背を向けた。

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