《ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】》12-092.ヒロ様、大丈夫ですか?

「釣炎球ダゥ・フレイ・マー」

――ドグァ。

先程までモルディアスが指さしていた地面から炎が上がる。土塊と小石が天に吹き上がり、人の背丈程の宙をさまよった後、バラバラと落ちていった。

「これは?」

「釣炎球ダゥ・フレイ・マーを地面の下で発させてから、地上に引き上げただけじゃ。空気がないと火は點かぬが、地の下にマナを通してはいけないという法はないの。ちょっとした足止めには使えるかの」

驚くヒロにモルディアスは、片目を瞑って次があると告げた。

「また、こういう使い方もある」

モルディアスは、しゃがみ込んで足下の土を掬い握り込んだ。しばらくそうした後、立ち上がって手を開く。昨日の雨でった土は小さな塊となっていた。指の痕がくっきりと殘っていた。

モルディアスは、その土の塊を足下に転がした。

「炎粒フレイ・ウム」

囁くほどの小さな聲でモルディアスが呪文を唱えると、その土の塊がボンッと破裂して、小さな炎の塊となった。

「?!」

驚いてモルディアスを見やったヒロに、モルディアスは平然と説明する。

「握った土にマナを纏わり付かせただけじゃ。そして後からそのマナに炎粒フレイ・ウムを発させたのじゃよ。予めマナをつけておるから、好きな時に発させられるし、釣炎球ダゥ・フレイ・マーのように指さしてマナを屆かせる必要もないの」

――凄い。

ヒロは舌を巻いた。モルディアスの魔法にではなく、たった一つの魔法の応用の広さにだ。同じ魔法をし見せ方を変えるだけで、まるで別のような効果を発揮する。ヒロは魔法の奧深さに圧倒された。

「全ては同じ魔法じゃ。じゃが工夫次第で一つの魔法が千にも萬にも化けるの。今の若い魔法使いものは、そういう頭を使わぬがの。しばらく自由に練習してみるがよい」

ヒロは、目の前で見せられたモルディアスの魔法を一つ一つ試してみた。當然モルディアスのようにはいかない。「炎線斬フレイム・アッシュ」は二メートルにも満たないし、釣炎球ダゥ・フレイ・マーは、先端に炎を殘せず完全に消えてしまうか、炎線斬フレイム・アッシュとなって火線全てに點火するかのどちらかだった。釣炎球ダゥ・フレイ・マーの地下點火版は、地上に出しても燃え上がらず、土にマナをまとわりつかせての炎粒フレイ・ウムは、ぽんっと微かな音を立てただけだった。

「ふむ。今日はここまでじゃ。ヒロよ。今見せた魔法が使えるようになったら、またここに來るがよい。一つの魔法でも極めることが肝心じゃ」

巖に腰掛けて、ヒロの魔法をずっと見守っていたモルディアスがにこやかな表で立ち上がる。辺りに夕闇が迫っていた。集中していて気づかなかったが、數時間は練習していたらしい。

「ヒロ様、大丈夫ですか?」

ぺたりその場に座り込んだヒロに、リムが心配そうな表を見せて駆け寄る。

「大丈夫、問題ないよ。だけどちょっとが乾いたな。何かあるかい?」

「はい、ただいま」

リムが茶を淹れに急いで小屋に戻る。彼リムの小さな背中が扉の向こうに消えるのを見屆けると、ヒロはモルディアスに聲を掛けた。

「モルディアス、この國の魔法使いは皆こんな練習をしているのかい?」

「ほっほっほっ、もっとゆっくりじゃ。初級魔法一つをにつけるのに一ヶ月ひとつきは掛かるでの。沢山教えたところで一度には無理じゃ」

「さっき、何個も教えてくれたじゃないか」

「先程のとて一つの魔法とその応用に過ぎぬ。基本は一つしか教えておらぬよ」

「そうか」

「お主は飲み込みが早いので、応用を見せておいた。次に來るのはいつか楽しみじゃの」

モルディアスはなんだか嬉しそうだ。

「さっきの応用技をにつけるのに普通はどれくらい掛かるんだ?」

「人それぞれじゃよ。一日で出來る者もおれば、十年掛かっても出來ぬ者もおる。じゃが、そもそも応用することを思いつかなければ、いつまで経っても始らぬ。何事も工夫じゃて」

そんなに個人差があるのか。ヒロは自分はどちらなのかと考えたが、ふと、承認クエストの道中で小悪鬼ゴブリンに襲われたとき、魔法でバリアを張ったことを思い出した。行きに練習をしていたとはいえ、バリアをあっさりと張ることができた。バリアと炎魔法は違うのかもしれないが、ヒロは、自分が飲・み・込・み・が・早・い・方・にチップを乗せることにした。

「ヒロ様。お茶です」

お盆を持って戻ってきたリムがお茶を差し出す。白い陶の碗に薄緑のが注がれていた。お茶をけ取ったヒロは思わず鼻を近づけた。僅かに乾いた草の香りに甘い匂いが混じっていた。この間の香ばしい茶とは明らかに違っていた。

「あ、ヒロ様。緑の葉を煎ったお茶です。カユタ団子蟲のお茶じゃありませんから、ご心配なく」

リムはにこりと微笑んだ。この間、モルディアスに振る舞って貰ったお茶の一件からちゃんと配慮してくれたのだ。団子蟲茶でなければ大丈夫だ。リムの言葉にほっとした表を見せたヒロは、碗の端にをそっと押し當てて熱さを確かめた後、一気に薄緑のを口に流し込んだ。

――ブフォ。

盛大に吹いた。激しくせき込む。甘い、甘すぎる。何がっているんだ。

「リ、リム、何をれたんだ?」

大丈夫ですかと背中をトントン叩くリムにヒロは思わず尋ねた。責める積もりは頭ないが、普通にお茶を淹れて此処まで甘くなるとは思えなかった。いや異世界のお茶だからなのか。ヒロは半ば涙目になっていた。

「え、あ、あの、蜂です。特級のがあったので、たっぷりれときました。お茶に蜂は普通ですよね」

リムは當然とばかり答えた。そういえば、この世界ではワインが激甘だったことといい、胡椒をれることといい、味が両極端だったことを忘れていた。次からはお茶は自分で淹れよう。ヒロは心に誓った。

「い、いや。俺の國では、お茶には何もれないんだ。すまん。次からは何を足したのか教えてくれ」

しゅんとしょげているリムにそういったヒロだったが、甘みもあるならあるで悪くはない。疲れたに糖は助けになる。ヒロは、しずつ確かめるように、甘・茶・を啜り、結局最後まで飲み干した。

「モルディアス。ありがとう。今教えて貰った魔法を練習しておくよ。何時になるとは言えないが」

「ほっ、ほっ、楽しみにしておるでの」

上機嫌のモルディアスに禮をいったヒロは、リムとソラリスに戻ろうと告げた。

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