《【書籍化決定】前世で両親にされなかった俺、転生先で溺されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~》第百六十九話 彼の者たち
殘りはリューゼとバスレー先生、それと學院長先生の相手のみ。ティグレ先生が倒した相手の狀態を確認している中、リューゼの雄たけびが森に響く。
「フレイムソード! 傷口を焼いたら再生はできねぇみたいだな! ジャック、手伝え」
「お、おう!」
「わ、わたしも!」
「クーデリカ達は下がってろ、こいつは俺達がやる……!」
先ほど上半を吹き飛ばしたクーデリカも參戦しようとしたがリューゼに止められる。あいつは兄さんを殺そうとしたブラオを知っているため『人を殺す』ということには敏なのだ。多分、クーデリカに今、ここで殺させることはないと思ったのだろう。
クーデリカが引っ込むのを見た後、俺も見たことが無い新しい魔法剣【フレイムソード】で畳みかけるリューゼ。
挾みこむようにいているジャックと共同でオーガを翻弄する。ジャックの攻撃は通っていはいないが、死角にりながらうまく邪魔をしている。
「ガアアアアアア!?」
「狙い通り! そりゃあ!」
傷口が焼けるとそこからブスブスとの焦げる匂いがし、ぶじゅっという音がする。再生ができていないわけではないが、俺のファイヤーボールの面の攻撃は表面を傷つけるのに対して、リューゼの剣は線。切斷面を焼いて再生を邪魔しているようだ。
「へへ、ラース相手に初披しようとした魔法剣だけあるな」
「ったく、驚かせようと思ったのによ! バスレー先生、どうだ!?」
「ゴロズ! ゴロズウウウ!」
「うわ、怒りやがったぜ!?」
「任せろ!」
剛腕を振り回し、ジャックに向かう。しかしリューゼが大剣を盾にし、それを防ぐ。リューゼの常套手段で、ここから相手を押し返すのだが――
「ぐぐぐ……さ、さすがに力がつえぇ……!」
「くそ、刺したらどうだ! ぐへ!?」
「グアアアアアオ!」
「ジャック君!?」
リューゼとみ合いになっているオーガの太ももを剣で突き刺すも、空いた手で吹き飛ばされジャックは木の葉のように空を舞う。ルシエールがぶと、ふわりと大きな手がジャックをけ止める。
<大丈夫か?>
「お、おう、悪いサージュ!」
<気にするな。我が火球で燃やし盡くしてやろうか>
「やめとけ、森が火事になっちまう。大丈夫だ、後はバスレー先生がやってくれる……はずだ……」
し自信なさげに肩を竦めるが、バスレー先生はいつものお茶らけたノリではない雰囲気をまとい、指をゴキゴキさせながら口を開く。
「學院長、こいつ始末しますよ?」
「任せる。誰かひとり殘せばよいだろう。<ファイアランス>!」
その言葉に笑って頷き、何やらぶつぶつと観察するバスレー先生。
「ふーん……弱點らしいものはないんですねえ……さすがはオーガ、ってところですか。まあ、それでもわたしの【致命傷】にはあまり意味が無いんですが、ね――」
目を細めてタッと踏み込んだバスレー先生は地面に落ちていたダガーを拾い、真っすぐ、迷わずにオーガの首を狙った。
「はああああああ!」
瞬間、リューゼが気合をれてオーガを押し返しにかかる。それに怒りを覚えたのか、オーガは再び押し返そうとするが、
「ギャウ! ……ガ!?」
「その末な首、もらいましたよ」
バスレー先生のダガーがオーガの首を両斷する方が早かった。
リューゼがバックステップでその場を離れると、オーガは首から噴水のようにを噴き出ながら膝から崩れ落ちた。
「ふう、すみませんねえリューゼ君、集中しないとここまでのことができないもんでー」
「普段はお茶らけていないとずっと集中することになって心がやべえことになるって言ってたしな。……にしても一撃でこいつの首を撥ねたのか……」
「ま、このダガーのおかげもありますがね。ルシエラちゃんのダガーでしょこれ? 後は強力すぎるスキルはデメリットもあるってことですね。戦闘に使うとこう無敵っぽくなるんですが……神様は上手いことやってま……痛っ……」
「おいおい、無理するなよ先生」
バスレー先生は変な汗をかきながら目を押さえて蹲ると、リューゼが肩を貸してルシエール達のところへ戻る。確かにあんなのを連続で使われたらの山ができ、大臣よりも暗殺者の方が向いているに違いない。
俺はマキナの治療を終えたので、抱っこしてみんなの下へ歩き出す。殘りひとり。學院長先生は様々な魔法を叩き込み、再生が追いついていないようだ。
そこへティグレ先生が學院長先生に聲をかける。
「學院長! こっちは確実に死んだぜ、後はそいつだけだ」
「承知した。ならば、そろそろ終わりにしよう。古代魔法で切り裂く<ホロウブレイド>」
「アガアアアアア!?」
學院長先生が手を手刀の形にして縦に振ると、突然腕が吹き飛んでいく。暗いから見えにくいが名前からして真空の刃が飛んでいったのだろうと予想される。……いオーガの腕を吹き飛ばせる魔法……覚えておこう。
そのまま橫に手を振り、膝を斬ると、オーガは前のめりに倒れ吠える。自分から手足をつけるという発想は無いのか、じたばたとその場でもがくだけであった。
「ガアア……!」
「腕と足は俺が持っておくぜ。というか……元に戻ると思うか?」
「……」
學院長がティグレ先生の言葉に反応せず、もがくオーガを見る。正直、戻るとは思えないためどうするか考えあぐねているというところか。
「サージュ君、こいつを摑まえて連れて帰ることはできるか?」
<容易いことだ。しかし、言葉すら忘れ、魔になってしまった人間を戻す方法はあるのか?>
「……手が無いわけではない。王都に行けば――」
「いや、それは困るんだよね」
學院長先生が何か方法があると口にした瞬間、どこからか俺達の中の誰かとは違う聲が聞こえてきた。
「!? ……誰だ!」
俺が周囲を見ながらぶと、その直後、腕をもがれたオーガの頭に鋭く重そうな槍が突き刺さった。
「アガ……グ……」
「し、死んだ、のか?」
「そうだね。悪いけど、人を拐するような極悪人は死んだ方が世の為だろう?」
リューゼが冷や汗をかき、呆然とした顔でそう言うと、どこからか愉快だと言ったじの聲が聞こえてくる。
「どこにいる出てきやがれ! てめえが黒幕か!」
「出ていくわけないだろう? いやはや、流石にオーガ相手に手加減はしないだろうと思っていたけど、まさか生かしたまま捕らえようとするとはね。ははははは! ああ、死を調べようとしても無駄だよ。一定時間を過ぎるとね……」
何者かがくっくと笑うと、頭を槍で串刺しにされたオーガのがしゅうしゅうと音を立てて溶け始め骨だけになった。
「証拠隠滅だと……!? もしかしてこの拐犯は――」
「捨て駒さ。當然だろ? このまま生きていてもロクなことをしないだろうし、良かったじゃないか」
「依頼したのはお前だろうに……!」
人が人をおもちゃにする……俺が怒りをにじませてぶと、
「まあね! でもまあ、目的は達したから……今回はここまでにしよう」
「くそ……どこだ!?」
ティグレ先生が聲のする方へ行き、俺と學院長先生がレビテーションで空から見るも、気配すら無かった。
「からずっと見ていたのか……?」
「何だったんだ? 目的ってルシエールの拐じゃなかったのか……?」
骨だけになった四人の拐犯を見ながら、俺達は後味の悪い結末に気持ち悪さをじるのだった。
◆ ◇ ◆
「ラース君は良かったのかい?」
「ああ、前の時にも思ったけど、ラース君は怒りで一瞬だけ力を発させることが出來るみたいだね。【用貧乏】のスキルでドラゴニックブレイズを鍛えているなら、あれくらいは威力があるのも頷ける」
フードを被った男は楽しそうにそう言い、が口を尖らせる。
「私としては関わってしくないですがね」
「そう言わないでくれよ。ようやく僕を殺せそうな人間が現れたんだ、彼に神を憑依させれば僕の願いは確実なものになる! そのためには神を宿せるだけの力を持ってもらわないとね? 【用貧乏】……あの時は失敗したけど……今度こそは……。はは……あははははははは!」
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