《脇役転生の筈だった》12
そして、次の日。
私は早めに登校した。
理由は3人にクッキーを渡すためだ。
音はまだいいとしても天也と奏橙に渡すのが大変になってしまうのだ。
あの2人が令嬢達に人気な理由は私にはやはり理解出來ないのだが……。
教室にると天也が初めに気づいた。
「おはよう、咲夜。
いつもより早くないか?」
「そうだね…。
よくあの悠人先輩が許したよね…」
「おはようございます、咲夜」
奏橙の兄へのイメージどうなってるんだ……。
……シスコンだろうね、分かってるとも。
「おはようございます。
今日はお渡ししたいものがあったのでし早めに來たんです」
そう言って私は鞄の中からクッキーの包みを3つ取り出した。
「この前はご迷をお掛けしたのでお詫びに作って來たんです。
良かったら食べてください」
天也と音は驚いたようだったが奏橙は何故かニコニコしていた。
それぞれ渡していくと奏橙がこんな事を訪ねてきた。
「これ、咲夜の手作り?」
「えぇ、そうですわ。
あ……もしかして手作りのものは駄目でしたか?」
「あ、そういうわけじゃないんだ。
ありがとう、後で食べさせてもらうよ」
焦ったぁ……。
天也や奏橙には手作りのものとかあげた事なかったんだよなぁ…。
誕生日には大抵お店のお菓子でいいにしちゃうし。
だから潔癖癥とかだったらどうしようって焦ったぁ……。
「咲夜の…手作りか…」
……何故か天也が嬉しそうだった。
良くわからないけど…手作りのものの方が良かったのか?
なら誕生日のプレゼントとか手作りのお菓子の方がいいかな?
「天也……嬉しいのは分かるけどしは隠したらどう?」
……奏橙が苦笑しながら天也をからかうように口にすると天也は慌てて私に弁解した。
「い、いや!
違う、違うぞ!?
そ、そうだ!
ただ、手作りの方が作った奴の気持ちが篭ってるみたいでいいってだけだからな!
勘違いするなよ!?」
その慌てように思わず笑ってしまうのは仕方ないと思う。
私が笑っているのを天也は困ったように、だがどこか嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ…天也がそんな事を言うだなんて珍しくてつい笑ってしまいましたわ。
ですが喜んでくださったようで良かったです」
「っ~!!
まぁ、咲夜から手作りのものを渡されるなんて初めてだったからな…」
そんな事を言う天也の顔は心なしか赤くなっているような気がした。
その様子にふふっと笑うと何も言わずにそっとしておいた。
そして、いつものように晝食の時間、先輩達と食事を共にする。
「咲夜さん、クッキーありがとうございます。
味しく頂かせていただきますね」
「海野さん、僕にまでありがとう。
悠人が『僕の可い天使が作った涼太には勿ないものだけど…』なんて渡してきた時にはびっくりしたけど……」
兄よ……。
もうし渡し方があっただろうに……。
それと私は天使じゃない。
「あ、僕もそれ言われた。
僕の時は家寶にしろ、とも言ってたなぁ…。
遅くなったけど、咲夜ちゃんありがとう」
……兄に頼んだのがいけなかったのだろうか?
家寶にしろとかさすがにおかしすぎはしないか!?
というか、家寶にしたら腐る!
材料が勿ないじゃないか!!
「咲夜、クッキー味かった。
サンキューな」
鬼龍院先輩はもう食べたの!?
早くない!?
っていうか、學校で食べちゃ駄目じゃないの!?
「咲夜、これからお菓子をあげる人はちゃんと選ばなきゃ駄目だよ?
如月さんはともかく…涼太や燈彌、先輩、そこの害ちゅ……天野と神宮には勿なさすぎるからね」
兄よ…今さらっと天也と奏橙を害蟲と言いかけたきがするのだが……。
「…悠人、本人がこの場にいる時に言うなよ…」
ごもっともで。
確かに本人がいる時に言う事じゃないな。
……本人がいなくてもダメだと思うが。
「お兄様、駄目…ですか?」
「…咲夜からのものは勿なさすぎるからね」
「……お兄様に味しいものを食べていただきたいので試食をお願いするのも駄目でしょうか…?」
は言いようってよく言うしね。
兄にはこの言い方が1番いいだろうって事は良く知ってる。
「さ、咲夜…!!
そこまで僕の事を…!!」
「……駄目、ですか?」
「仕方ないなぁ…。
試食位なら…勿ないけど…仕方ないから許すよ」
凄く機嫌のいい兄はやはりいつも通り私の頭をでてくる。
………そろそろ子供扱いするのも辭めてもらいたいものだ。
そんな私達兄妹のやり取りを先輩方は驚いたように見ていた。
「…海野さん、悠人の扱いに手馴れてるね…」
「まぁ、あの悠人の妹だからね…」
「咲夜が大學にいればいいんだけどな…」
……鬼龍院先輩、兄が何かやらかしてるんですね……。
朝霧先輩はどういう意味ですか!!
白鳥先輩は…うん。
いつもご苦労様です…。
うちの兄がご迷をお掛けしています…。
何故か凄く謝りたくなってきた。
「皐月先輩、後でしだけ相談したいことがあるのですが……」
「あら…。
えぇ、分かりましたわ。
そうですね……放課後でよろしいですか?」
「はい!
ありがとうございます」
土曜日に兄と水族館に行くときの服裝とかアドバイスしかったんだよね。
あと、兄の誕生日が近いからどこか夜景の綺麗な店を知りたかったんだよね。
「咲夜、僕じゃ駄目なのかい?
僕はそんなに頼りないのかい?」
「お兄様、すいません、今回はお兄様にはです!」
「えっ……。
さ、咲夜!?
僕はそんなに……」
あ……落ち込んじゃった。
相変わらず浮き沈みの激しい兄だなぁ。
兄が落ち込んだまま晝休みが終了し、朝霧先輩と白鳥先輩が2人で兄を運んで行ったのを見送ったあと、4人で教室に戻る。
「咲夜、良かったのか?
悠人先輩の事」
「えぇ、流石にお兄様には言えませんもの」
だって兄の誕生日、サプライズにしたいのに本人に言えるわけないじゃん。
あと、水族館に行く時の服裝とか……。
「咲夜……お前、遅い反抗期か!?」
「違います!
……もうすぐお兄様のお誕生日ですの。
なので皐月先輩に何かアドバイスをいただけないかと思ったんですの。
本來なら朝霧先輩に聞きたいのですけど……お兄様がそれだけは許しませんから」
「「あぁ…」」
天也と奏橙の2人に納得された。
……こうなると兄のシスコンがもうし和らいでくれたらと願わずには居られなくなるのだが。
「話が変わるのですが……音、弟がいましたよね?」
「え?
あ、いますけど……どうかしたんですか?」
音はいきなり自分に話を振られ驚いたあと、不思議そうに答えを返した。
「クッキーが余ってしまったので良かったらと思ったんですの」
「え!?
紫音には勿ないですよ!」
勿ないって……兄と同じ事を言ってる……。
「余ったものですから…申し訳ありませんが…」
「…分かりました。
渡しておきますね。
ありがとうございます、咲夜」
音は私からもう1つのクッキーをけ取ると大切そうに鞄にしまった。
これでクッキーは片付いた。
そして放課後。
私は皐月先輩に相談にのってもらっていた。
「夜景の綺麗なお店…ですか……。
でしたらスカイツリーの中にあるお店はどうでしょうか?」
話を聞いてみると結構良さそうなレストランだった。
今度誰かをって下見にでも行くとするか。
「皐月先輩、水族館に行く時はどのような服裝を選んだらいいのでしょうか…?
今度お兄様と行くことになったのですがよく分からなくて…」
すると皐月先輩はクスリと笑って々とアドバイスをくれた。
ちなみに、私と兄が今度水族館に行くというのは大學ではほとんどの者が知っているらしい。
……理由は簡単。
兄が話したからだ。
兄の大學での様子を聞くたびに私の神経がすり潰されるのはもう仕方ないだろう。
兄のシスコンにも困ったものだとつくづくじる。
「皐月先輩、今日はありがとうございました」
「咲夜さん、頑張ってくださいね」
「はい!」
兄の機嫌を治すのを頑張ります!
先輩に迷をかけないためにも!!
家に帰ると案の定、どんよりと重い空気を漂わせた兄が待っていた。
「…おかえり、咲夜。
頼りなくて駄目な兄でごめんね……。
僕じゃ咲夜の力になれないんだね……」
なんて出迎えられた時には恐怖をじた。
まさか兄がそこまで思いつめているとは思って居なかったのだ。
「お兄様!
そ、そんな事ありません!
お兄様は頼りなくなんてありませんから!
今回はただお兄様に話せないような事だっただけですから!」
「…咲夜様、それは逆効果です」
清水が私の後ろでそんな事を言った。
めたつもりだったのだが兄は相當のショックをけたようだった。
……仕方ない、こうなったら片方の相談だけ教えるか。
「…お兄様…わ、笑わないでくださいね?」
「咲夜……こんな駄目な兄に言ってくれるのかい?」
だって言わなきゃ立ち直らないじゃないか!
だったら言うしかないじゃん!!
「…ど、土曜日のお兄様とのお出かけの際の服裝のアドバイスをいただきたかったんです……。
変な服裝でお兄様に恥をかかせるわけにはいきませんでしたから……」
うぅ……恥ずかしい……!
恥ずかしすぎる!!
だって、これじゃあ私がブラコンみたいじゃないか!
いや、まぁ確かに兄の事は嫌いか好きかって聞かれたら好きだけどさぁ……。
私が相談の容を明かすと兄は驚いたように目を見開いたあと、嬉しそうに微笑んだ。
そして私を抱きしめてきた。
それはもう、先程までの落ち込んだ様子が演技だとしか思えない程に。
「お、お兄様!?」
「咲夜!
僕の可い可い天使はどんな服裝も似合うに決まってる!!
なのに僕のためにそんな考えてくれているだなんて……!!
あぁ…もう本當に咲夜は可すぎる!!」
あ、あ……兄が…兄が遂に壊れたぁ!!
どうしよう?
怖い、怖すぎる!!
兄が怖すぎて辛い!!
誰か助けてくれ!!
結局その日は高校生にもなって兄と一緒に寢る羽目になったのだった。
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