《脇役転生の筈だった》41
「咲夜!」
「う……ぁ……お父、様……」
父は車から降りると私を抱きしめた。
続いて降りてきた母も同じように私を抱きしめた。
その2人の溫もりに、ようやく戻ってきたのだと実する。
そしてその安心からか私は先程までの恐怖が再び襲いかかり思わず泣いてしまった。
「咲夜ちゃん、もう大丈夫よ」
「咲夜、済まなかった…。
もっと、もっと警備を厳重にしていれば…!!」
私は父と母を抱きしめ返ししばらくの間、止まらない涙に戸った。
監されている時はこんなにも泣かなかったのに、と。
いや、違う。
泣けなくなるほどの余裕がなかったのだ。
そして今、抱きしめられた事による安心からかピンと張り詰めていた糸が切れてしまったのだろう。
しばらくして、私は泣き止むと迎えにきてくれた人達に対し、ようやく笑顔を見せた。
「ご心配をおかけしてしまい申し訳ありませんわ。
ですが、ロイさんにも助けてもらいなんとか逃げられました……。
追手の方は上手くまけたようですが……」
「咲夜、は大丈夫なんだな?
怪我はないか?」
いつもよりも過保護になっている天也に苦笑するがそれも私が心配させたせいなので全ての質問に丁寧に答えていく。
「大丈夫ですわ。
怪我もありません。
ただ…その、お母様から頂いたワンピースを破いてしまいました……」
邪魔だからといって破ってしまったワンピースが頭を過ぎる。
もうし我慢していれば……と、し後悔中だ。
「咲夜ちゃん!
ワンピースなんかよりも咲夜ちゃんの方が余程大切なのよ!
そんな事を言わないの!」
「っ……お、お母様……!?
で、ですが……」
お母様は再び私を抱きしめると小さな子に諭すように言った。
だがそれでも私が渋っているとお母様から危険なオーラがれ出してくるのをじた。
「咲夜ちゃん?」
「…ナンデモアリマセン」
拐されていた時よりもお母様の方が怖いとじるのはきっと気の所為だろう。
……そう思いたい。
だが、そんないつもと変わらぬこのじが妙に私を落ち著かせる。
「咲夜!
心配しました!
咲夜が……咲夜が居なくなったと……」
「そうですわ!
気が気でありませんでしたわ……!」
私は音と紫月から責められるように言われた。
だが確かに私の注意が甘かったことが原因なので甘んじて説教をけるつもりでいた。
それなのに……音と紫月に泣かれてしまい私は酷く戸った。
「か、音、紫月?
な、泣かないでください!
え、え……た、天也もどうにかしてくださいませんの!」
「いや、今回は俺も2人に同意するからな」
私は恨みがましく視線を投げかけるが天也は特に気にした様子もなく視線を逸らしてしまった。
だがその口元はしっかりと弧を描いていた。
「あ…そうでしたわ。
お父様、靴なのですが……仕掛けが壊れてしまいました」
「分かった。
後で持ってきなさい。
直しておくから。
………さて、帰ろうか」
その父の言葉に反対する者は誰もいなかった。
私は屋敷に戻ると真っ先にお風呂にる。
路地裏を進んで來たこともあり埃っぽいのだ。
そのため溫かい湯槽でゆっくりしたかった。
私はゆっくりと湯につかりながらこれからのことについて考えていた。
とりあえず、ロイさんの弟に會う必要がある。
病態がそんなに悪いのならば転院する必要もある。
それに、こちらの病院では無理な様であれば他國からその手に長けている醫者を探し、連れてくる必要がある。
その準備もしなければいけないのだ。
それを思うと頭が痛くなってくる。
それが終われば、次はロイさんとの雇用契約だ。
雇用契約をするには父か母を落とさなければいけない。
もしくは…使いたくない手ではあるが兄に頼み込むか、だ。
兄に頼むとどうなるかが分からないので怖いのだ。
そのため私はあまり兄に頼むようなことはしたくなかった。
それで思い出したのだが……私は兄に電話をしなければいけないのだ。
兄にもこの拐の事が伝わってしまったらしく心配をかけたため無事を伝えなければならない。
そのため、私は兄に電話かけなければならなかった。
それに、私は深くため息をつく。
何故ならば、兄の話が長くなることは理解していたから。
「先が思いやられますわね……」
私はそう呟くと浴室から出て父の部屋へと向かうのだった。
父の部屋に行くと、ソファーに座るよう促され、私は素直に腰を掛ける。
そして、おもむろに口を開いた。
「……お父様、ロイさんの事なのですが…正式に雇用契約をわしたいのですが……駄目、でしょうか?」
私は恐る恐るというように問う。
もし駄目ならば……と渋っている父に対し私は続けた。
「……どうしても駄目だと言うのでしたら……仕方ありませんわ……」
母か兄に頼むようにしよう。
だが、きっと母に言うとあらあら…と笑って抱きつかれるのであろう。
可いだの何だの口にして。
結局最終的には著せ替え人形となるところまでは予想できる。
対して兄の場合。
へぇ……?
と目だけが笑っていない笑みを浮かべてロイさんのことを調べるのだろう。
そして々と言って私が諦めるのを促す。
だが、私がどうしても、だとかお願いです、などと言えば簡単に仕方ないと言って了承してくれるに違いない。
そのまま父の元に笑顔で行ってきて許可を得てくるのだろう。
そして私はといえば、兄の圧力に負けて何処か一緒に遊びに行くかきせかえ人形になるか、だ。
……だからどちらも嫌なのだ。
そうでなければ最初から兄のもとへお願いしに行くさ。
その方が時間はかからないのだから。
「…さ、咲夜!
お願いだからそんな顔をしないでくれ。
分かった、すぐに手配しよう。
だから、ほら、そんな悲しそうな顔は……」
父は私の表を見ると慌てて了承した。
そんな父に心呆れながらも私を思ってくれる優しさに嬉しくじる。
「お父様、ありがとうございます。
私は優しいお父様の子供で幸せですわ」
私は笑顔でそう口にすると父はデレっとした表になった。
父は嬉しそうにしながら口を開いた。
「そうか、私も咲夜のような可い天使の様な娘を持てて幸せだ」
天使という言葉は高校生に使う様な言葉ではないと思うが……まぁ、今は気にしないでおくとしよう。
天使と言える歳は々初等部くらいまでだ。
父が頬を緩ませたまま手配を頼む電話をしたのを確認してから私は退室した。
……言い方を帰るのならば、私は父の部屋から逃げ出した、だろう。
「申し訳ありませんが…ロイさんはどちらにいらっしゃるかしら?」
私はたまたま近くを通りかかったメイドに尋ねると場所を教えてもらいロイさんのもとへと向かう。
これは、正式に契約を結ぶための條件の確認と、報告のためだ。
「ロイさん、いらっしゃるかしら?」
「えぇ、どうぞ。
お嬢様」
お嬢様と呼んだロイさんに私はクスリと笑ってから部屋にると近くにあった椅子へと座る。
「さて……ロイさん、先程お父様に契約の話を出して來ましたが……。
特に問題はありませんわ。
無事、雇用契約をわせるでしょう。
その話もいずれお父様からロイさんにお話があると思います、とだけ伝えておきますわ。
それと契約にあたってですが…私の事は咲夜と呼ぶようにしてください。
お嬢様などというのは私には似合いませんもの」
私が可笑しそうに笑うとロイさんはフッと微笑んだ。
そして、恭しく頭を下げた。
「承知致しました。
咲夜様」
「えぇ、よろしくお願い致しますわ。
ロイさんは日本語は話せるかしら?」
本的な問題だった。
私はいずれ、日本に戻るのだ。
その時までに日本語を話せるようにならなければまずい。
私がいる時は大丈夫かもしれないが……。
最悪、ドイツで働いてもらうことになる。
「問題ありません。
母が日本人だったので一応教わっていましたから」
「それなら安心ですわね。
それともう1つ…出來れば明日までに弟さんに會えるようにしたいという事を覚えておいてください。
弟さんの様態により、私の行も変わってきますから早いうちに見ておきたいのですわ」
「…分かりました」
できるように渉してみよう。
だがあんなことの後だ。
駄目だと言われる可能がある。
もし駄目だと言われたら……。
「最悪抜け道から出ますわ」
「……はい?」
私はそう決めると戸うロイさんに説明を始めた。
そして夜。
私は兄に電話をかけた。
『咲夜!
大丈夫かい?
怪我はしていない?
怖い思いをしたね。
僕がついていられなくてごめんね……。
僕がついていられたら……!
天使をこんな目にあわせるような奴を半殺しにしてやったのに……。
くそっ!
やっぱり何としてでも咲夜について行くべきだったんだ。
こうなったら咲夜を拐した奴……いや、れた奴は全員消し去って……』
すぐに電話を切りたくなった程、兄が怖かった。
ここまで恐怖をじたのはいつぶりだろうか?
兄の狂気が電話越しに伝わってくるだけでも怖いのだ。
きっと日本の屋敷ではもっと酷いだろう。
清水には申し訳ない事をしてしまった。
……いや、清水もある意味同類なので兄と共にやり過ぎていないか心配になってくる。
「お兄様、ご心配をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした……。
ですが、私は大丈夫ですわ。
ですからあまり怖い事を仰らないでください…」
すると兄はすぐにホッとしたような殘念そうな、そんな聲をらした。
『……良かったよ、咲夜が無事で……。
咲夜はやっぱり優しいね。
そんな目に合わせた奴を守ろうとするだなんて……。
仕方ない……咲夜がそう言うのなら今は諦める事にするよ。
……………………今は、ね』
ホッとしたのも束の間。
兄は最後に余計な一言を付け足した。
電話越しなのにも関わらず聞こえてきてしまった。
それに、私は優しくなんてない。
拐された事については確かに怒りや恐怖がこみ上げてくるものの兄が行すると相手がどうなるか分からないので別の意味での恐怖にも襲われるからやめてしいと止めただけなのだ。
つまり、私は私のためにそう言っただけ。
そんな私が優しいはずがなかった。
……それに、私にはまだ誰にも話していない大きながあるのだから。
この記憶のおかげで私は冷靜でいられたのだ。
ゲームの記憶がなければ私は冷靜ではいられなかっただろう。
………いや、それどころか天也とも婚約をしていなかっただろうし、紫月とも友人になっていなかった。
それに兄だって……シスコンにはならずに私を殺していたかもしれなかった。
なくとも、私は今の私ではいられなかった。
絶対に、母や父、兄との仲を拗らせ孤立をしていただろう。
私はズルい奴なのだ。
この事を誰にも言わずに隠し続けている。
……自分は相手のを知っているのにも関わらず……。
きっとこの事は誰にも話すことなく私は墓場まで持っていくだろう。
だがそれは私にとって心の奧を、自分の汚いところを隠しているための理由でしかなかった。
そんな自責の念にかられながらも私は兄との電話を切り、眠りについた。
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