《脇役転生の筈だった》44
私は部屋に戻るとだらしなくベットに倒れ込んだ。
そして近くにあった枕を抱えると令嬢らしくすることなどすっかり忘れ去り、ゴロゴロとベットの上を転がる。
「うぅ……天也がかっこよすぎて辛い……」
ゴロゴロゴロゴロ……。
右へ左へと回っているうちに目が回ってきてしまった。
「…うっ……」
あの天也の笑った顔が頭から離れない。
仕方ないとばかりの苦笑も、その全てが……。
「~っ!!」
私は聲にならない聲を上げながら枕に顔を押し付けた。
そして、いつしかの話を思い出した。
それは、天也の好きな人を聞いたときの事だ。
『……優しくて面白くて面倒見がよくて頭が良くて料理も上手い…。
しかも可くて綺麗だしだれに対しても平等に接してる。
守ってやりたいと思う……。
時々ぼぅっとしてる事や面倒事に首を突っ込んだりしてるが芯が真っ直ぐしているイメージがある。
それと、鈍なところもあるな』
そう語った天也の表はおしそうでこちらが恥ずかしくなってしまう程だった。
そして、文化祭の時屋上で言われた事まで鮮明に思い出す。
『初等部の頃から』
その言葉にあの時の天也の言葉は私の事についてだったのかと淡い期待を持つが可いだの綺麗だのと言った部分でその期待は崩れ去る。
「馬鹿みたいに振り回されてますわね……」
私はようやく冷靜さを取り戻しボソッつぶやいた。
私は電話を取り出すと清水にかけた。
真城に頼んだ事についてと留學の事だ。
『咲夜様』
「清水、この様な事を頼んでしまうのは申し訳ないのですが……。
來週からドイツへと留學する事に致しました。
なので、お兄様にバレないよう準備をしてしいのですが……」
清水は元々運転手だったのだが…萬能という事もあり私の専屬メイドとなったのだ。
だが、本來は運転手という事もありし申し訳なくじてしまう。
『かしこまりました。
お荷は咲夜様のお部屋にご用意すればよろしいのでしょうか?』
「えぇ、お願いいたしますわ」
私は清水に頼むと昔の事を思い出す。
昔の事なので清水や真城は忘れているだろうと思いながら……。
あの日、私が記憶を思い出してから2日後の事だった。
その時初めて海野家にってきた人達に戸ったが、その手にしたと格好を見て困窮している事に気付いた。
だからこそ、私はあの時、2人の手を引き部屋にって逃がしたのだから。
幸い持っていたのは私のものばかりだったので事なきを得たが……。
だが、その何年後かに使用人として來た時にはとても驚いた。
しかも、二人共私が付けた苗字を名乗っていたから。
清水と真城……。
2人はどんな思いでここに來たのかは知らない。
だが、今は私も2人のことを信用しているし、もしもまた道を違えたのならば私が引き戻す。
そんな思いで私は2人を自分の専屬にしていた。
「あの時の行は間違えでは無かったという事ですね…」
私は紅茶のったカップを傾けた。
そして一段落したところで立ち上がり、鞄から服を引っ張り出した。
『咲夜、俺だ』
しばらくしてそんな聲が扉の外から投げかけられる。
オレオレ詐欺か!
思わずそうツッコミたくもなるが我慢我慢………。
「丁度準備が出來たところですわ。
行きましょう」
私は天也に笑顔を向けるとそのまま歩き出す。
「咲夜」
「はい?」
私は思わず立ち止まり振り返ると、し顔を赤らめた天也が視線を逸らしながらも口にした。
「その、なんだ……。
き、綺麗だと…思う……。
似合っている……」
私は驚愕のあまり目を見開いた。
その言葉を理解すると私はカァット顔が赤くなるのをじる。
それでも何か言わなければと必死に頭を働かせる中、口から出た言葉は……。
「わ、私よりも音や紫月の方が余程可らしいですわ」
そして言ってからし後悔した。
私は何を言っているのか、と。
だが、天也は至って真剣に私の目を見つめてくる。
「俺は咲夜が1番可いと思うし、綺麗だと思うが」
「~っ!!
………ありがとうございます…」
完全に負けた気がする。
だが、天也がククッと笑った事で私も微かに微笑んだ。
そして、やっぱり私は天也の事が好きだなぁ……と改めて思うのであった。
「咲夜、そろそろ行くか?」
「え、えぇ…そうですわね」
しだけ文句はあったもののそれを隠し私達は會場へと向かう。
「咲夜~!
聞いてくださいっ!
魁斗が酷いんですよ!?
太ったとか言うんです!」
會場にると真っ先に音に泣きつかれる。
私は困り果て紫月に視線を送るが首を橫に振られた。
つまり、お手上げという事だろうか?
私は音の姿を見ると確かに來る前よりもし丸くなった気がしないでもない。
かと言え私も私で太った気がする。
「……音、明日にでもジムへ行きませんの?」
「さ、咲夜も太ったと思いますか?」
懇願されるような瞳に私は更に困する。
ここで返答を間違えれば嫌われてしまうだろう。
……さて、どうするか?
し考えた私は音に耳打ちした。
「太ったように見えてしまうのであれば見違える程に細くなればいいと思いません?
まぁ、やりすぎは駄目ですけれど……」
「そ、そそそうですね!
咲夜…付き合ってくれませんか……?」
うるうると目を潤ませながら言われれば誰だって頷くしかないだろう。
私は後先何も考えず、二つ返事で了承したのだった。
「天也?
どうかした?
顔が怖くなっているけど……」
「……奏橙か。
…いや、音にまで嫉妬している自分が嫌になってな…」
「あ~……分からなくもないよ。
僕も紫月が咲夜と絡んでると時々、あの仲の良さに嫉妬するし…」
男2人がそんな會話をしていることなど私は知る由もなく、食事へと移る。
「咲夜様、真城洋平と名乗る方からお電話が…」
私は真城からと聞き、何か問題でもあったのかと思いながら一言皆に斷ってから電話を変わった。
「真城、どうか致しましたの?」
『いんや、報告だ。
こっちは終了したぜ。
お嬢、俺はこれからどうすりゃあいい?』
さすが真城……。
仕事が早い。
清水も真城も有能すぎて辛いくらいだ。
醫者を探してきたのもそのリストを出したのは真城であり、清水が取り付けたくらいだ。
それをたった1日でやってしまう二人はすごいと思う。
「そうですわね……。
真城、私は來週にはドイツへ渡りますわ。
あなたは日本にいるか私と共にドイツへ渡るかを選択してもらいます。
清水は…自分の意思を尊重する様にと伝えてください。
その後の時間は2人共休みとしますわ」
『んー…了解。
お嬢、俺はついてくぜ。
俺の主はお嬢ただ1人だ。
清水もそう言うと思うぜ』
馬鹿な人だ……。
そう思いながらも本心は嬉しくじる様で私は思わず笑みを浮かべた。
「では、あなたもドイツへと渡る準備をしてください。
勿論、資金は海野家で出しますわ。
それと、孤児院にいつもの額を出しておいてください。
名前はいつも通り『香乃』と」
『了解。
んじゃ、またなお嬢』
「えぇ、また」
そしてまた天さんについて伝えるのを忘れてしまった。
多の後悔をしながらもまたすぐに會うということもあり気にしない事にした。
「咲夜、嬉しそうだな」
「あら、顔に出てしまっていました?」
「あぁ。
まぁ、そういうところも可いと思うが」
サラッとこんなことを言える天也は本當にすごいと思う。
私は嬉しさを隠すように無表となり、食事に手を付けた。
食べ終わると天さんが食後の紅茶とデザートを出してくれる。
可らしいカップにったシャーベットだ。
レモンのさっぱりとした風味が口の中に広がる。
「わぁ……味しい……」
思わず呟いた音の一言に私は微笑んだ。
ここの料理人が認められるのは私も嬉しくなるのだ。
「咲夜様、真城洋平からお電話が……」
またか…そう思いながらも一言斷り電話に出る。
『あー……お嬢、清水から何だがな……。
悠人様が暴れてるって連絡がったんだが……どう対処すればいいんだ?』
まさかの兄の事だった。
私は思わず頭を抱えると狀態を詳しく聞き出す。
「どの様なことを言っていますの?」
『あー……
『僕の可い可い天使を拐した奴を殺るだけだ!
あのらしい天使を…!
僕の最の妹を怖がらせたんだぞ!
そんな奴らをのうのうと生かして置けるわけがないだろう!
武の心得のある奴は著いてこい。
咲夜を拐し、怖がらせた奴を殺りにいくぞ!
…咲夜は優しいからな、半殺しまでだ!
死ぬよりも辛い生き地獄を味あわせてやるぞ!!』
と言った様子だ。
因みに、清水からの電話も協力要請だったぞ。
『私の主に手を出した不屆き者を!』
とか言ってナイフを持ってたな。
屋敷の奴は大抵同じ様なじなんだが……どうすりゃあいいんだ?』
私は再び頭を抱えた。
今の屋敷の狀態を聞き平常心でいられる程私は図太くは出來ていなかった。
「……真城、あなたに止める事は…?」
『無理だ。
清水にもお嬢がまないって言ったんだがなぁ……。
笑顔で言われたぜ。
『主にれるような不屆き者を許すつもりはありません』
ってな』
……清水が1番危険そうなのは何故だろうか?
それと、ロイさんの事を真城に頼んでいなかければきっと対処はロイさんに向かっていたのだろう。
「分かりましたわ。
私から清水とお兄様に伝えておきますわ…。
後程また連絡致しますわ」
私はし落ち著いて考えるために1度席に戻りお茶を飲む。
「咲夜…また何かあったのか?」
「……えぇ。
お兄様関連で、々。
…私を拐した方を半殺しにし、生き地獄を味あわせてやると言っているようですわ……。
屋敷の使用人達も……同様に……」
これには天也も奏橙も…紫月や音でさえ視線を逸らした。
「海野家って何かと過激だよな……。
特に咲夜に関しては……」
「……えぇ、まぁ。
お兄様とお父様を中心に、ですが」
そしてこれからの事を考え頭が痛くなる私だった。
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