《先輩はわがまま》15
*
「う……気持ち悪い……」
「飲み過ぎです」
喧嘩をした日の翌日、先輩は二日酔いになり、ベッドで眠っていた。
顔を真っ青にし、合悪そうに眠る先輩からは、ミスコンの優勝者の風格を一切じない。 こんな姿を學校の奴らが見たら、どう思うだろう?
そんな事を考えながら、俺は先輩の世話をしていた。
「う~……あんまり見ないでよ……」
「今更何を恥ずかしがってるんですか、二日酔いの先輩の介抱なんて、やり慣れました」
「化粧してないもん……」
「だから、今更そんな事言われても……」
「う……気持ち悪い……」
「はぁ……良いから寢て下さい」
俺はそう言って先輩の側を離れ、水分補給用に買ってきたスポーツドリンクを持ってきて、先輩の枕元に置く。
「次郎君……そう言えば今日はバイトは?」
「あぁ、休みを貰いました。先輩二日酔いの時は、ダメ人間になるんで」
「むぅ……嬉しいけど……後半が腹立つ」
「良いから寢てて下さい、午前中寢てれば、午後にはきっと良くなりますよ」
俺はそう言って先輩に布団を掛ける。
前からそうだ、この人が二日酔いや風邪でダウンしたとき、俺は先輩から助けを求められる。
それはきっと、先輩の本を知っている數ない人間の一人だったからだろう。
弱いところを見せても良いと思っている人間だからこそ、俺に助けを求めてきたのだろう。 最初は頼られた事が嬉しかった。
だが、次第に俺は思った。
この人は、いつも自分を綺麗にそして完璧に見せすぎている。
だから、頼ろうと思っても、頼れる人があまりいないのだ。
それを知ったとき、俺は思った。
この人が頼れる人間の一人くらいにはなっておこうと……。
「次郎君……」
「なんですか?」
「気持ち悪い~」
「はいはい、寢れば治りますから」
俺はそう言って先輩の前髪をでる。
見られたくないと言っていたが、この人はすっぴんでも綺麗なままだ。
そんな綺麗な顔をこんな間近で見れる男が俺しか居ないと思うと、なんだか嬉しくなる。
「先輩……」
「なにぃ……」
「昨日はすいませんでした」
「………今言う?」
「はい、先輩の二日酔いの責任は俺にもなからずありますから」
「……許さない」
「どうしたら、許してくれます?」
「……してくれたら」
「良いですよ」
「え?!」
先輩は驚きのあまり、ベッドから上を一気に起こした。
「先輩! また吐き気が來ますよ!」
「う……た、たしかに……っていうか……今なんて?」
「だから、良いですって言ったんです。ほら、橫になってないと」
「そ、それは……あの……その……そう言う事よね?」
「まぁ……その……俺も男ですし……我慢するのもソロソロ限界なんで……」
それも正直な理由だが、本當は違う。
昨日、伊島先輩に言われた事を俺は昨晩考えていた。
その結果がこの回答だった。
「あ! でも、二日酔い治ってからですよ?」
「……う、うん……」
先輩は顔を真っ赤にしながら、俺の反対方向を向き、布団を被って眠ってしまった。
「……ストレート過ぎたかな?」
俺はそんな事を考えながら、先輩が昨日ぎ散らかした服を回収し洗濯を始める。
*
「ふっかーつ!!」
「はいはい」
あの後、先輩は晝過ぎまで眠り回復した。
今ではいつもの先輩に戻り、シャワーを浴びてさっぱりした様子だ。
「あ、あのさ……」
「はい?」
「ありがと……ね」
「いつもの事なんで、気にしないですよ。冷蔵庫に抹茶プリンもあるので、食べて下さい」
「……うん……あのさ!」
「はい?」
「さ、さっき言った事って……本當?」
先輩は頬を赤く染めながら、そっぽを向いて俺に尋ねてくる。
さっきの事とは先輩が寢る前に俺が言った、あの言葉の事であろう。
「……ほ、本當ですけど……な、なにか?」
「べ、べべべつに……まぁ、毎日私のを見てたら! そう思うのは自然だけど!」
「顔真っ赤にして言われても……」
「う、うるさいわね! 貞!!」
「う……本當の事だけに、心に來る……」
俺は先輩の神攻撃をモロにけ、若干心を痛める。
先輩はその後、出かけてくると言い、どこかに行ってしまった。
俺はその間、ゲームをして時間を潰す。
一時間が過ぎ、ゲームにも開き始めた頃、家のインターホンが鳴った。
「ん? お客さんか」
先輩は家の合い鍵を持っているので、インターホンを鳴らすハズが無い。
「はーい」
俺は返事をしながら、玄関に向かい家のドアを開ける。
「どちら様で……って、実ちゃん!?」
「先輩! 風邪引いたって本當ですか!?」
ドアを開けた先に待っていたのは、私服姿の実ちゃんだった。
そういえば、今日バイトを休むのに、風邪引いたって事にしたんだった……。
「あぁ、あの……ちょっと用事があって、風邪って噓をついて休んだんだ。だから大丈夫だよ」
「あ、そうなんですか…良かったぁ……じゃあ、お邪魔します」
「え!? なんでそうなるの!? 今すっごい自然な流れだったけど!」
「折角だから、買ってきた食べませんか? お見舞いのつもりで々買ってきたんです」
「そ、それは嬉しいけど……って、あ! 実ちゃんまって!」
「お邪魔しまーす」
実ちゃんはそう言って、部屋の中に半ば強引にって來た。
俺はそんな実ちゃんを追って、部屋の中に戻っていくが、時既に遅かった。
「………先輩……彼と同棲とかしてるんですか?」
「核心つくの早くない?!」
何の前れもなく、俺が隠していた核心をついてくる実ちゃん。
俺はなぜか背中に嫌な汗をかきながら、実ちゃんのニコニコした顔を見ていた。
ニコニコしているハズなのに、目は全く笑っていない。
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