《先輩はわがまま》28
俺はとりあえず先輩を落ち著かせ、話しを聞く。
「で、本當の先輩はあれなんですか?」
「あれとか言わないでよ……はぁ…まさかまだ人が居たなんて……」
「一人になった教室で、何やってんすか……」
呆れた様子で俺は先輩に尋ねる。
先輩は顔を赤くしながら髪を弄り、はずかしそうに話し始める。
「私だって大変なのよ……周りから変に完璧なって思われちゃったから、完璧で居なきゃいけないのよ……」
「面倒っすね」
「うっさいわね! はぁ……みんな本當の私なんて知らないのよ……そのくせに、綺麗で良いわね~とか……バッカじゃないの! 好きでもない男に好かれる事の何が良いのよ! あぁ! ムカつく!!」
々溜まっているようだな……。
俺はそんな先輩の話しを顔を引きつらせながら聞いていた。
先輩はいつもの綺麗な笑顔ではなかった。
今までに見たことがない、かなり不機嫌な表で先輩は不満をらしていた。
こんなところを他の人に見られたら、一気に先輩のイメージが塗り替えられるんだろうな……。
「そんなに辛いなら、無理に完璧でなくても良いんじゃ……」
「そんなのしたら、私の大學生活終わるわよ」
「そう言うもんですかね?」
薄暗くなってきた外を見ながら、俺は先輩に言う。
そんな生活で面白いのだろうか?
自分を偽り、本當の自分を誰にも見せずに過ごすなんて、大変だし、誰にも頼ることが出來ない。
それは大変な事だと思うのだが……。
「楽しいですかね? そんな大學生活……」
「楽しいわよ、皆からは尊敬されるし、男には困らないしね~」
「そうですか……なら良いんじゃないっすか……」
「なによ、何か言いたげじゃない」
「別に何でもありません……今日の事は、俺は忘れた事にします。誰かに言ったりしないので、これからは囮や代わりに使わないで下さいよ?」
俺はそうとだけ言って、教室を出ようとする。
しかし、その行く手を先輩が塞ぐ。
「待ちなさい」
「なんすか……誰にも言いませんって!」
「そんな言葉を信用しろとでも?! まぁ、岬君ごときの話しを誰かが信じるとも思えないけど」
「なら、良いでしょう……」
「そうは行かないわよ! 私のを知ったんだから……ただじゃ済まないわよ……」
先輩は俺を壁に追いやり、壁ドンをしてくる。
まさか俺の人生で、こんな綺麗な人に壁ドンされるとは思わなかった。
「あ、あの……先輩?」
「良い……私の気が済むまで、岬君は私の弾避けね」
「た、弾避け?」
「面倒な告白とか、コンパに一緒に來て、酔っ払った私に変な事をしようとした奴らから、私を守る役。栄でしょ?」
「不名譽です!」
「良いの? そんな事を言うなら、大聲で今からこう言うわよ? キャー襲われる~!」
「ああぁぁぁぁ! か、勘弁して下さいよ!」
「なら、わかるわよね?」
「卑怯っすよ……」
「私はそう言うなの……じゃあ取りましょうか」
「え……うわ!」
先輩はブラウスのボタンを大きく外し、俺に摑ませた。
そしてその様子をスマホで撮影する。
「これで、貴方は逃げられないわよ? じゃあ、これからよろしくね岬君」
「なんでも良いですけど……」
「何かしら?」
「手……離して下さい……」
「え……キャー!! 何所ってるのよ!!」
「イテェェェ!!」
先輩は俺の手が、まだ自分のにあることに気がつかず、顔を真っ赤にして俺の頬を叩く。 これはこれでラッキー、なんて思った俺だったが、アンラッキーの方がこれから多くなっていく事を考えると、全く喜べなかった。
それからは、更に大変だった。
事あるごとに先輩に呼び出され、全く知らない人たちのコンパに無理矢理參加させられて、先輩を徹底的にガードしたり、サークルでも先輩の小間使いをさせられたりと、々大変だった。
そのせいで、學校では俺は先輩の忠犬として認定されてしまい。
一部の子の間では、先輩に付きまとうストーカーだとも言われた。
「あぁ……もうヤダ……」
「お前も大変だな」
「そう思うなら、博男も先輩になんとか言ってくれよ……」
「俺一人が言っても、何も変わらないだろ? それに、俺はこれからデートなんだよ」
「へいへい、村田とだろ? 手が早いっていうか……お前ら仲良かったしな」
俺が先輩から苦しめられている頃、博男は同じサークルの村田と付き合い始めていた。
季節はもう秋。
學から半年が経ち、大學生活にも隨分慣れてきていた。
そんなある日だった、いつもは毎日呼び出しから始まる朝の先輩からの電話が、この日はなかった。
「珍しく電話が來ないな……」
俺はそんな事を考えながら、大學に向かい抗議をけていた。
いっつもならば、抗議の最中でも先輩からの頼みがメッセージで送られて來るのだが、今日はそれが全くない。
「何かあったのか?」
こう言う日は、逆に不安になってくる。
またとんでもない事を急に言い出すのでは無いかと……。
しかし、俺のそんあ不安は思いがけない形で晴らされた。
「え? 風邪ですか?」
「そうなのよ、今日子から電話が合ったのよ」
それを教えてくれたのは、同じサークルの伊島先輩だった。
「そうですか」
なんだ風邪か………。
俺は今日一日は先輩に面倒事を頼まれずに済むと、喜んだ。
しかし、そんな俺を伊島先輩がジッと見てきた。
「あ、あの……何か?」
「前から聞きたかったんだけど、岬君ってあの子の本知ってるわよね?」
「え!? あの……まさかと思いますが、先輩もですか?」
「私はあの子と小學校から一緒なのよ? 知らないはず無いでしょ……」
「そ、そうなんすか……じゃあ、昔から先輩はあんなじなんですね」
「まぁそうね、綺麗でいつもニコニコしてて、優しい子ちゃんって言われてたけど、その実は……」
「わがままで、自分大好きの王様……ってとこですか?」
「上手いこというわね」
「ありがとうございます」
始めて先輩の事で、意見の合う人と出會えたかも知れないと思った。
「でも、あの子大丈夫かしら……あの子、家事全般ダメなのよ……連絡も朝の數回以降返信無いし……」
「え……そうなんですか?」
「そうよ……それにあの子、頼れる友達がそんなに居ないのよ……風邪拗らせないと良いけど……」
それを聞いた俺は、なぜだか急に先輩の苦しそうな顔が頭に浮かんだ。
俺は先輩を心配しているのだろうか?
確かに、いつも自分を偽って大學では生活をしているのだ。
風邪だからと、誰かを頼ろうとしても、何かの拍子で本がバレるのでは無いかと先輩は思って、苦しくても誰にも頼れないのでは無いのだろうか?
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