《先輩はわがまま》35

翌朝、目が覚めると実ちゃんはいつも通りだった。

ただ一つ違ったのは、俺にあまり近づいてこない事だった。

そんな様子に先輩は違和を持ったのか、終始不思議そうな顔をしていたが、何も聞かなかった。

昨日の夜の事は、俺の中でも衝撃だったが、実ちゃんの俺への思いは昨日で終わったのだろう。

気を遣わせないように、いつも通りに振る舞う実ちゃんに俺もいつも通りに振る舞う。

そうしなければ、約束を破ってしまう事になってしまう。

「それじゃあ、私はコレで帰ります。昨日はありがとうございました」

「なんか、急に大人しくなった気がするけど……夜なんかあった?」

実ちゃんが帰る直前、急に先輩がそんな事を言い始めた。

俺は一瞬ドキッとしたが、直ぐに実ちゃんが先輩に答える。

「負けたと自覚したら、ちょっと楽になっただけです」

「? どう言う事?」

「何でも無いです、じゃあ先輩、またバイト先で」

実ちゃんはそう言って、俺の部屋を後にした。

先輩は昨日と今朝の実ちゃんの変わりように疑問を抱いていたようだが、あまり気にしては居ない様子だった。

「まぁ、邪魔者が居なくなったから良っか」

「なんですか?」

実ちゃんを見送った後、先輩は俺の腕に抱きつき、意味深な視線を送ってくる。

「二度寢しましょ?」

「お斷りします」

俺は先輩にそう言い、部屋の中に戻った。

年末に近づき、街も年末年始で心なしか慌ただしくなってきた今日。

俺は行きつけの喫茶店に向かっていた。

大掃除をして、正月の予定を先輩と立てようと思い、先輩と共に向かっているのだが、今日の先輩はあまり乗り気では無い。

「むー、本當に私の実家に行くの? それより次郎君の実家に挨拶に……」

「ダメです、先輩のお母さんから電話きたんですから。それに、偶には先輩も実家に帰りましょうよ」

そう、クリスマスが終わった後、先輩のお母さんから、電話が掛かってきたのだ。

先輩のスマホに電話が來たのだが、直ぐに俺に電話を代わってしいと言われたらしく、ほとんど俺が話しをしたのだが、容はほとんど正月の事だった。

「先輩のお父さんだって心配してるらしいですし、それに俺も一緒ですから」

「むー……」

不満そうな表を浮かべる先輩。

そんな先輩を引き連れて、俺は目的の喫茶店にる。

平日の晝前とあって、店は靜かなのだが、俺はそれ以上にカウンター席で接客するマスターが気になってしまった。

「い、いらっしゃい……ませ」

いつもと違って顔が悪く、なんだか疲れているような気がする。

しかもこの前合った時より若干やせている気もする。

俺はそんなマスターに會釈をしつつ、空いている席に座る。

「ご、ご注文わ……?」

「あ…俺はコーヒーを……先輩は?」

「私はカフェオレで」

「か、かしこ……まりました……」

注文を聞きに來たマスターは、疲れた笑顔でそう言ってカウンターの方に戻って行った。

何があったのだろう?

もしかして、あのストーカー子高生と何かあったのだろうか?

そんな事を考えていると、先輩が俺に耳打ちをしてきた。

「ねぇ、この店本當に大丈夫? さっきの人、死にそうな顔だったけど……」

「いつもは、明るい人なんですけど……何かあったのかもしれません」

俺と先輩は、そんな疲れ切ったマスターを心配そうに見ながら、注文した商品が來るのを待った。

「あ……」

マスターがそう言った瞬間、手に持っていたマグカップが床に落ち、ガッシャーンと大きな音を立てて々になり、床に散らばる。

「し、失禮いたしました……」

本當に大丈夫だろうか?

々と心配になりながら見ていると、ようやくコーヒーとカフェオレが運ばれて來た。

「お、おまたせ……致しました…」

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ……いつもありがとうね……だ、大丈夫だよ……さ、冷めないうちに……お召し上がりくだ……さい」

「は、はぁ……」

そう言うと、マスターはカップを二つ俺と先輩のテーブルに置いて、戻って行く。

本當に大丈夫なのだろうか?

そう思いながらコーヒーに口を近づけ、一口……。

「う! な、なんだこれ?」

「なんか、変な味……この店本當に大丈夫?」

いつもの味と違う。

俺は一口飲んで直ぐに気がついた。

酷い味だ、あまりコーヒーに詳しくない俺でもわかる、コレは絶対に誰が飲んでも味しくない。

先輩も俺と同じ意見のようで、顔を歪めている。

「あ、あの、大丈夫ですか? コーヒー酷い味ですよ?!」

「へ? ど、どれどれ……だ、誰だこんな酷いコーヒーを淹れたのは!!」

「「アンタだよ!!」」

思わず聲をそろえてんでしまう俺と先輩。

他にお客さんが居なくて良かった……。

流石にここまで來たら、気になって來たので、俺と先輩はカウンター席に移し、マスターに話しを聞く。

「じ、実は……最近、うちのバイトの子高生の子のストーカーが酷くなってきて……」

「や、やっぱりその話ですか……」

「そう言う子、居るのね」

話しよると、最近は休みの日に家に來るのはもちろん。

夜に食事を作りにやってきて、そのまま居座ろうとするらしい。

そのせいで、祿に休めず、疲れが溜まっているらしい。

「もう、大変なんだよ……ほぼ毎日うちに來るし……スキンシップは激しいし…」

「馬鹿な子ね、なんでも積極的なら良いってもんじゃ無いのに」

「先輩、貴方は絶対に言えないです」

先輩も十分ストーカーみたいだったような……?

兎にも角にも、安心していられる時間は、その子高生の子が學校に行っている間らしい。 しかし、冬休みに突し、そんな時間も無くなっては一日中付きまとわれるのでは無いかと心配らしい。

「確かに、おじさんモテそうだもんね」

「え!」

先輩の言葉に、俺は思わず反応してしまう。

そんな俺を見て、先輩はニヤっと笑って、俺をからかい始める。

「なに~ヤキモチ? ねぇ、ヤキモチでしょ~?」

「べ、別に……そういうのじゃ無いですよ……」

「大丈夫だって、私が一番好きなのは、次郎君だから」

「だから、俺は別に……!」

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