《先輩はわがまま》36

別にヤキモチと言う訳では無い、ただ先輩がいきなりマスターにそんな事を言うから、驚いただけだ。

俺と先輩の會話を聞きながら、マスターは「若いって良いなぁ……」なんて事を言っていたが、世間一般で言えばマスターもまだ若いのではないだろうか?

しかも、子高生からストーカーされてる訳だし。

そんな事を考えながら、マスターが淹れ直してくれたコーヒーを飲んでいると、店の扉が開いた。

「いらっしゃ……い…ませ……」

「お疲れ様です! マスター!」

って來たのは、制服姿の子高生だった。

その顔を俺は何度か見た事があった。

そう、あのクリスマスの前日にマスターを尾行していたの子だ。

店長も青かった顔を更に青くしていたので、間違い無いだろう。

「お、お…お疲れ……じゃ、じゃあ…今日も……よろしく」

「はい! じゃあ、著替えて來ますね!」

店長は引きつった笑顔での子にそう言うと、の子がバックヤードに向かったのを確認した後、深く溜息を吐く。

「はぁ~……」

「あの子……ですよね?」

「普通に可い子だったわね。まぁ、私よりは劣るけど」

「本當、先輩は相変わらずですね……」

の子はポニーテールに、大きな瞳で背丈は小さめだった。

世間一般で言えば可い子なのかもしれないが、問題はそこでは無い。

「あぁ……今日も來ちゃったか……」

「あからさまに落ち込まないで下さいよ……まぁ、気持ちは察しますけど……」

「仕事は出來るんだよ? それには良い子なんだ……でも……」

「そう言う人がストーカーって結構ありますよね? 普通だったのに意外にって場合」

この店の従業員は、マスターとあのストーカーの子と他に三人ほどバイトがいるだけらしい。

そこまで忙しく無い店なのだが、休日はやはりどうしても混んでしまうらしく、人手がしいらしい。

「はぁ……そろそろ諦めてくれないかな……」

「マスターさん、好きって言われたの?」

「まぁ……出會ってし位の時に言われたよ。でも、僕の年齢もあるし……それにあの子はまだ高校生だ。世間を知らなすぎる。だから、気持ちだけ貰って、お斷りしたんだ、この子には私みたいなおっさんより、良い出會いがあるって……」

「そしたら?」

「ストーカーになりました……」

先輩がマスターに尋ねる。

マスターの意見は最もだし、斷った理由も結構正當かも知れない。

もし、マスターが付き合う、なんて言い出したら、行なんかと間違われそうだ。

「マスター、良い人居ないんですか? 居れば、彼も諦めますよ」

「居たらこんなに苦労しなかったかもね……街コンとか、行ってみようかな」

そんな話しをしていると、先ほどってきたストーカーのの子が、バックヤードから戻って來た。

ネームプレートには、片瀬(かたせ)と書いてあり、ようやくその子の名字が判明した。

「掃除してきますね」

「あ、あぁ……よろしく」

店長にニコッと笑う片瀬さん。

こうして見ている分には、普通の子なのだが、クリスマスの片瀬さんを見るかぎり、ストーカー行為をしているのは間違いないようだ。

「コレも何かの縁だし、私話し聞いてきましょうか? 出來れば説得も」

「え! ほ、本當かい!?」

「次郎君がお世話になってるお店だし、次郎君も手伝うわよね?」

確かに、マスターにはいつも世話になっている。

力になれるなら、なろう。

俺は頷き、マスターに「任せて下さい」と言った。

マスターは涙を流して喜び、今日の代金を無料にしてくれた。

俺と先輩はとりあえず、片瀬さんのバイトが終わるのを待ち、様子を見る事にした。

「で、その間なんですが、年末と正月の予定を立てましょう」

「やっぱりそうなるのね……」

「當たり前です。何の為に來たと思っているんですか」

「あのまま、うやむやになれば良かったのに……」

「脹れてないで、新幹線の時間とか調べますよ」

「は~い」

頬を膨らませながら、先輩は不満そうに言う。

俺は持ってきたタブレットPCで新幹線の時間や料金を調べ、いつ帰るかを先輩と相談する。

「そう言えば、次郎君は大丈夫なの? 帰らなくて」

「俺のところは、もう言ってあるので大丈夫です」

「そうなんだ。來年は次郎君の家に行きたいな」

「……考えておきます」

俺はふと、先輩から視線を反らしてしまった。

そんな俺の態度に、先輩は若干違和を覚えたようで、首を傾げていたが俺が直ぐに話題を反らした。

「先輩の家って、駅からどれくらいですか?」

「二十分くらいかしらね」

「じゃあ、當日はタクシーですね」

「お母さんに時間言えば、迎えをよこすわよ。あの人、過保護だから」

「そうですか、ならそこはお言葉に甘えるとして……こっちにはいつ戻ってきましょうか?」

「當日の午後」

「それはダメです」

「ぶー」

「どれだけ帰りたくないんですか……」

やる気の無い先輩にそう言いながら、なんとか大まかな予定が決まった。

丁度時間も、片瀬さんのシフトが終わる時間となり、俺と先輩は近くに來た片瀬さんに聲を掛ける。

「あの、すいません」

「はい? なんでしょうか?」

「私たち、貴方に話しがあるんだけど……バイト終わりにし話せないかしら?」

「え? しなら…大丈夫ですけど……何のご用でしょうか?」

不信を持つ片瀬さん。

それもそうだ、急に他人からこんなことを言われれば、誰だって不信に思う。

「えっと……ここのマスターに頼まれて……」

「直ぐに著替えて來ます。待ってて下さい」

「あ………はえー……」

マスターの事を出した瞬間、片瀬さんはすぐさまバックヤードに戻っていった。

良くも悪くも、マスターの事が絡んでいる話しには敏なようだ。

俺と先輩は、片瀬さんが著替えを終えるのを席で待つ。

その間、カウンターのマスターがなんどもこちらに向かって頭を下げていた。

「お待たせしました」

「ごめんね、急に」

「直ぐに終わるから」

俺と先輩は、制服姿の片瀬さんにそう言い、四人掛けのテーブルに向かい合って座った。

こうしているじは普通のの子だが、クリスマス前日にマスターをから見ていた子で間違い無かった。

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