《先輩はわがまま》37
「単刀直に言うけど、このお店のマスターにかなりしつこく付きまとってるわよね?」
「付きまとってません、私はマスターに振り向いて貰おうとしているだけです」
そう思ってたとしても、君の行はやり過ぎだよ……。
先輩の隣で話しを聞きながら、俺はそんな事を思う。
だって、好きな人の後を追いかけちゃダメでしょ……。
「まぁ、人のに口を出すほど野暮じゃ無いけど、マスターさんの事も考えなさい。貴方は子高生でマスターさんは大人なの、子供とは々と違うのよ」
「何なんですかさっきから、に歳なんて関係ありません!」
「相手の事を考えなさいって言ってるのよ。そんな毎日家に行くなんて、迷でしょ? 彼でも無いのに」
先輩、それは昔の貴方もそうでしたよ……。
先輩とこの子高生は、どこか似ている気がした。
好きな人へのアプローチ方法を間違えていると言うか……何というか……。
「だって、マスターってお店の事ばっかりで、ちゃんとごはんも食べないんですよ! 三食コンビニ弁當って聞いたら、作りに行って上げたくなるじゃないですか」
「まぁ……確かにそれは心配ね……」
「ですよね!? それに掃除も出來なくて、直ぐに部屋を散らかしちゃうんですよ?」
「それは、大人としてどうかと思うわね……」
アンタも片付けと料理出來ないだろ……。
俺は隣で話しを聞きながら、先輩につっこむ。
しかも先輩、なんかこの子に同調し始めてない?
俺はそんな先輩の説得が不安になり始め、とうとう口を出し始める。
「えっと……確か片瀬さんだよね?」
「はい、貴方は良くいらっしゃる常連さんですよね?」
俺の事を覚えているのか……まぁ、確かに結構な頻度で來てるからな……。
「えっとね、年頃のの子があんまり男の一人暮らしの家に行くのはどうかと思うんだ……何かあってからじゃ遅いし……そうなったら、君はマスターと一生會えなくなるかもしれないよ?」
「むしろあってしいです!」
「だからあっちゃダメなの!」
本當に先輩に似てるな……言って言うか……格って言うか……。
「貴方くらいの歳なら、同級生にカッコイイ男の子とか居るでしょ? なんであんなおじさんなの?」
「先輩、それは失禮です。マスターがへこんでますから」
「高校生なんて、子供じゃないですか。私はマスター位のダンディな男の人がタイプなんです!」
「君は、もっと高校生らしいをしようか」
なんだろう、いつもの二倍疲れる気がする。
先輩が二人居る覚というか、ボケの量が増えていると言うか……。
「兎に角、家に帰るのが遅くなったり、男の一人くらいの部屋に出りしてるなんて、親さんが知ったら心配するし、店長だって迷だよ。をするのは否定しないけど、祖言うところは考えないと」
「……まぁ……確かにそうかもですけど……他の人にマスターが取られちゃうの……嫌だし……」
「気持ちはわかるわよ? でも、貴方はまだ高校生。 世間的には子供なのよ。ストーカーは大人になってから……」
「先輩、大人でもストーカーはダメです」
段々納得し始めた様子の片瀬さんに、俺は安心し始める。
カウンターでこっそり聞いているマスターもどこかホッとしている。
コレなら大丈夫かもしれない。
「多分だけど、君が學校を卒業して、社會人になったら、マスターだって振り向いてくるかもしれないよ?」
「じゃあ、マスターのお嫁さんとして永久就職します!」
全然大丈夫じゃ無かった……。
「いや、そう言うことじゃ無くて!」
「だって學校卒業すれば、それで問題無いですよね? 私も大人のになる訳ですし」
それか話しは振り出しに戻り、改めて説明をした。
話していてわかったのは、片瀬さんが相當にマスターをしている事だった。
とりあえず取り決めとして、尾行はしない、部屋には極力行かない、過激なアプローチはしない事を約束した。
「マスターに迷が掛かっているなら……私も我慢します」
「わ、わかってくれて……助かるよ……」
この言葉には、マスターもホッと一安心だ。
しかし、話しを聞く限りだと、この子もマスターを心配して、家に料理をしに行ったり、掃除をしに行ったりしていたようなので、しっかりしていないマスターにも責任がありそうな気もする。
まぁ、ストーキングは流石に見過ごせないけど……。
「あの、お二人に聞いても良いですか?」
「え? 俺と先輩に?」
「はい、お二人ってお付き合いをされているんですよね?」
「そうだけど、それが?」
「いえ、大した事じゃないんですけど……常連さんの方は、彼さんの事を名前で呼んだりしないんですか?」
「え? あ、いや……その……」
考えて見れば、付き合い始めてから名前でよんだ事が一度も無い。
確か第三者から見れば、不思議なのかも知れない。
付き合っているのに、名前で呼び合っていないと言うのは……。
「私はずっと思ってたわよ? でも次郎君がいつまで経っても呼んでくれないの」
「う……そ、それは……」
先輩からジト目でそう言われ、俺は口ごもる。
だって、いきなり呼び方変えるって、結構勇気が要るじゃん?
「付き合ってるなら、名前で呼んであげるべきですよ。彼さんが可そうです」
「い、いや……でも……」
「え、何? 嫌なの?」
「いや、嫌って訳じゃ……」
「じゃあ、今呼んで」
「え! こ、ここでですか!?」
「そう、今」
「いや、でも人の目もありますし……帰ってからでも……」
「ダメ、今」
くっ! 先輩はこうなると、頑として言うことを聞かない。
俺は覚悟を決めるしか無かった。
目の前には、今日初めて話しをして子高生、そしてカウンターでぐっと親指を立てて視線を送ってくる店長。
二人っきりで呼ぶのも恥ずかしいのに、コレは軽い拷問だ。
「み……」
「み?」
「み…………こ」
「だめ、間が空きすぎ!」
「あぁぁ! もうわかりましたよ! 子! コレで良いっすか?!」
俺は半ばやけくそ気味にそう言った。
言われた先輩は顔を赤く染め、そのまま俯いてしまった。
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