《甘え上手な彼2》第36話
*
高志は自室のベッドで眠っていた。
もう夕方でそろそろ約束の時間だと言うのに、全く起きる気配が無い。
そんな高志の家に、白を基調とした浴姿の紗彌がやってきた。
腕にはチャコを抱き、慣れたようすで高志の部屋に向かう。
玄関先で高志の母の華子に浴姿を褒められて、しご機嫌だった。
「あ、寢てる……」
部屋のドアを開け、ベッドで眠る高志を見て紗彌はため息を吐く。
チャコを腕から下ろし、高志の側に行って話し掛ける。
「高志……高志ってば……」
「ん~……もうちょい……」
「もうちょいじゃないでしょ……もう」
紗彌は高志のを揺さぶり起こそうとする。
しかし高志はなかなか起きない。
「もう……早く起きてよ」
「んん……紗彌ぁ~……」
「ん………なによ、もう……」
寢言で自分の名前を呼ばれたのが嬉しく、紗彌は思わず口元を緩める。
しかし、そんなことで喜んでいる場合ではないと気がつき、紗彌は再び高志をお越し始める。
「高志! 起きないと……起きないと………えっと……チュー……しちゃうよ?」
言った後で自分は一人で何を言っているのだろうと、紗彌は顔を真っ赤にして顔を隠した。
「はぁ……もう、早く起きてよ……」
ベッドに手をつき、紗彌は高志顔を見る。
始めて心の底から好きになった人の顔をまじまじと見るのは、なんだか気恥ずかしさがあった。
高志はそんなことをなどつゆ知らず、寢息を立てている。
「もう……本當にしちゃうんだから……」
そう言って紗彌はゆっくり自分の顔を高志の顔に近づけて行く。
あと數センチでが重なるというまさにそのとき、高志が目を覚ました。
「ん?」
「え……」
目が合う二人、紗彌は見る見る顔を赤くしていき、高志は寢ぼけているのか狀況をあまり理解していない。
紗彌はすぐさま顔を高志から離し、顔を隠す。
「ん……紗彌ぁ? どうした?」
「な、ななななんでもないよ……うん……」
「そうか……あ、悪い悪い……時間だったな……」
「う、うん……良いよ……」
高志は目をりながら、改めて紗彌を見る。
白を基調とした浴姿に、髪型もくくっている。
いつもと違い、どこか大人っぽい雰囲気の紗彌に高志は一気に目を覚ました。
「そ、その……似合ってるよ……」
「え……あ、ありがと……」
互いに照れる高志と紗彌。
そんな二人を見ながらチャコは鳴き聲を上げる。
「にゃー」
「あ、そう言えばチャコにご飯やってなかったな……」
「あ、私があげたから大丈夫だと思うよ」
「なんだチャコ、お前紗彌のとこに言ってたのか?」
高志がそう尋ねると、チャコは離しを理解したのかしていないのか、知らん顔で繕いを始めた。
「たく……最近良く外に行くと思ったら」
「チャコちゃん私のこと大好きだもんねー」
「にゃ~」
最初の頃とは違い、高志よりも紗彌に懐いているチャコ。
八重家と宮岡家を行き來しているためか、両家で餌を貰っているチャコはし太ってきている気がした高志。
「し運させないとな」
そう言いながら高志はチャコの頭をでる。
「じゃあ、ちょっと俺準備するから」
「うん、私は下で待ってるから」
浴姿の紗彌は高志の部屋を後にし、一階に下りて行った。
高志はシャワーで汗を流し、急いで著替えを済ませ紗彌と共に祭りに向かった。
*
優一は祭り會場のとある場所で、芹那を待っていた。
一緒に行くと約束をしたので、高志は芹那の提案通り、時間通りに約束の場所に來ていた。
「おせぇ……」
しかし、芹那はし遅刻していた。
スマホの時計を見ながら芹那を待っていた。
「たく……自分で待ち合わせ時間決めたくせに……」
文句を言いながらもジッとその場で芹那を待つ優一。
そんな高志の元に、青を基調とした浴を著た芹那が走ってやってきた。
「す、すみません……準備に時間が掛かってしまって……」
「何をそんなに準備する必要があんだよ……全く、いいから行くぞ。俺、腹減った」
「は、はい! 行きましょう!!」
高志の後ろを芹那は嬉しそうについて行く。
結構大きな祭りのためか、人が多かった。
「結構人多いなぁ……」
「ステージでイベントもやってるみたいですよ。見に行きます?」
「その前に飯をだな……って、これじゃあ前に進めねーな……」
人が多すぎてなかなか前に進めない優一と芹那。
注意して進まないと、はぐれてしまいそうで、優一は後ろの芹那を見て考える。
「しかたねーか……」
「え……え、えぇぇ!? ど、どうしたんですか? 優一さん! わ、私の手を……」
優一は芹那の手を摑み、そのままずんずん前に進んで行く。
「こうでもしないと、はぐれそうだからな……仕方なくだ!」
「わ、私……もう今日死んでもいいですぅ………」
「これぐらいでかよ……たく……」
うっとりした表の芹那。
優一はそんな心ここにあらずの芹那を連れて、焼きそばの屋臺に向かう。
*
「大石先生、そろそろいきますよ?」
「あの、腕章は付けないんですか?」
「付けなくて良いそうですよ」
「えっと……一応見回りですよね? それにその格好……」
大石は浴姿の奈を見て不思議そうに尋ねる。
學校からは生徒が非行に走らないように、祭りの見回りを頼まれたはずなのだが……。
「なんか、遊びにいく見たいなじになってますが……」
「まぁまぁ、細かいことは気にせず、行きましょう」
「は、はぁ……」
大石は奈に言われるがまま、祭りに向かって歩き始める。
橫を歩く奈は、黒を基調とした浴を著ており、いつも下ろしている長い髪はまとめてあり、綺麗なうなじが見えていた。
「あの……」
「はい?」
「腕を組む必要はないのでは?」
「あります」
「いや、だって見回……」
「あります」
「………」
大石は強引に納得させられ、奈と腕を組んで祭りに向かう。
こんなところを生徒に見られたらと思うと、大石は怖くて仕方なかった。
「大石先生……」
「はい?」
「あ、あの……似合ってますか? 浴……」
「え、あぁ。似合ってますよ」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
「はい、學校と違っていつも以上に大人っぽく見えますよ」
「そ、そうですか……ほ、惚れちゃったりしますか?」
「………さて、急ぎましょうか」
「話しを反らさないで下さい!!」
大石と奈は祭りの會場に向かって歩いて行く。
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