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「食え」

「……」

「いや、なんでそんな上からなんだよ、鹿戸ってるだろ」

「人間様が餌を恵んでやると言っているんだ、別に上から言っても問題はないだろ」

高志達は鹿公園で鹿に餌をあげていた。

鹿せんべいを買い、高志と優一はそれを鹿に差し出す。

「普通に渡しても問題ないだろ……」

「そんな態度だと鹿に舐められるだろ」

「まぁ、別な意味ではベロベロ舐められてるがな……」

「おわっ！」

優一からもっと鹿せんべいを貰おうと、數匹の鹿が優一の制服をペロペロ舐めている。

優一は直ぐに鹿から離れ、ハンカチでべとべとになった制服を拭く。

「よく食べるなぁ……」

「お腹空いてるのかな？」

あの後、泉と由華はいつも通りのじに戻っていた。

何事も無かったかのように二人は鹿にせんべいをあげている。

強引ではあったが、優一のおかげで班の空気も良くなっていた。

々と心配していた高志と紗彌の心配も無くなり、二人もいつも通りに戻る。

「紗彌、さっきからなんで俺の後ろに？」

「だ、だって……鹿って意外と大きくて……」

紗彌は先ほどから鹿の迫力に驚き、高志の背中に隠れている。

チャコと普段から遊んでいるので、は大丈夫なのだと思っていた高志だったが、紗彌の予想外の様子にしだけ驚いていた。

そんな紗彌の背後から、餌をを貰おうと一匹の鹿が忍び寄る。

「きゃっ！！　う、後ろにもいた！」

「大丈夫だって紗彌、大人しいから」

高志はそう言って、鹿にせんべいを差し出す。

鹿は待ってましたと言わんばかりに、せんべいに食いつき、ムシャムシャと食べ始める。

その間も紗彌はずっと高志にしがみついていた。

「だ、大丈夫？　襲ってこない？」

「襲ってこないって。でも以外だな……紗彌は得意だと思ってたのに」

「お、大きいのはちょっと……」

紗彌はそう言いながら、高志にしがみつく手の力を強める。

そんな紗彌を見て高志は頬を赤らめてこう思っていた。

(あぁ……メッチャ可いなぁ～……)

もちろん鹿の事ではない、紗彌の事がだ。

紗彌は気がついて居ないかもしれないが、いつもの紗彌とは違い、余裕がない様子で高志の腕にしがみつき、ビクビクしている。

そんな紗彌の様子など見たことも無かった高志は、紗彌のそんな新鮮な姿に思わず頬を染める。

「た、高志……早くあっち行こ！」

「えぇ～、俺まだ鹿せんべいあるしなぁ……」

こういう時はし意地悪したくなってしまうのが、男と言うものだ。

紗彌は高志のそんな言葉に、口をへの字に曲げ「うー」っと唸る。

「なんでもしてあげるから！　早くあっちいこ！」

「え？　なんでも！？」

紗彌の思いがけない提案に、高志はし良からぬ妄想をしだす。

好きな子から、なんでもしてあげると言われては、當然いやらしいことも考えてしまうのが男と言う生き。

高志は頬を赤く染めて、再度紗彌に尋ねる。

「ほ、本當になんでも？」

「なんでも！　なんでもしてあげるから！」

高志と紗彌の周りには、結構な數の鹿が集まりつつあった。

最早ここに余裕のない紗彌は、高志に必死にそう言い、早くこの場所から立ち去りたかった。

「よ、よし……じゃあ鹿の居ないところに行くか」

高志は紗彌を抱き寄せて、そのまま鹿の居ない場所に移する。

なんとか鹿の居ない場所に出た高志と紗彌は、ベンチに座って休憩していた。

「はぁ……結構追いかけてくるんだなぁ……このせんべい……そんなに味いのか？」

高志はそんな事を思いながら、鹿せんべいを一口だけ口の中にれて見た。

「うえ……まっず……」

せんべいと付いて名前にあるので、人間でも食べられるのかと思い、口にれた高志だったが、あまりのまずさに食べるのをやめた。

「高志の意地悪……」

「え？　あ、あぁ。ごめんごめんって」

「本當に怖かったんだからね！　制服引っ張ってくるし……角とか結構大きいし……」

「秋は鹿のの季節らしいから、オスは発してる鹿も居るんだってよ」

「だから、あんなに激しかったんだ……」

そのベンチからは、鹿公園の様子が良く見えた。

優一達はまだ鹿と戯れていた。

「高志の発期はいつくるんだろうね……」

「え！？　い、いきなりどうしたの？」

紗彌の発言に高志は揺する。

そんな高志から顔を反らし、紗彌は高志に言う。

紗彌の頬はわずかに赤くなっていた。

「ね、ねぇ……さっきの……何でも言うこと聞くってやつさ……」

「あ、あぁ……」

「………本當に何でもしてあげるから……」

紗彌の頬は更に赤く染まっていた。

高志は何となくその言葉に意味がわかってしまった。　わかってしまっただけに、なんだか気まずい雰囲気になってしまう。

「で、でも……お、俺たちまだ……付き合って半年経ってないし……」

そう言った高志の手を紗彌はさり気なく握り、指を絡める。

「私がしたいの………言わせないでよ……高志の意地悪」

紗彌の頬はもうリンゴのように真っ赤だった。

そんな事を言われた高志も平靜を保ってなど居られない。

今すぐにでも紗彌を抱きしめたい衝に駆られるが、ここは人通りの多い屋外。

高志はその衝をぐっと堪え、紗彌に言う。

「さ、紗彌……そ、それは……その……そういうこと……だよな？」

「も、もう言わない……私だって恥ずかしいもん」

紗彌の言葉に、自分の思っている通りの事を紗彌が考えていると理解する高志。

心臓が発しそうなくらいドキドキするのをじる高志。

そんな高志に紗彌は近づき、今度は腕を絡ませる。

そして耳元で高志に囁く。

「修學旅行が終わったら……ね」

鹿もの季節と言うなら、人間もの季節ということだった。

高志はギリギリのところで理を保ち、紗彌の頭をでる。

「ん？　どうしたの？」

「いや……紗彌は可いなって……」

「そう思ってるなら、もうめないでね」

「あぁ……」

そんな高志と紗彌の様子を優一はやれやれと言った様子で遠目から見ていた。

「しゃーねーな」

優一はそう言って、スマホで二人の姿を撮影し、高志に寫真を送信する。

「バカップルが……さっさと発しろっつう……ん？」

優一が笑いながら高志と紗彌に文句を言っていると、周りには多くの鹿が集まっていた。

「……マジか……」

優一は鹿達から餌をねだられ、制服を引っ張られ、頭をり付けられる。

「ば、ばか！　やめろ！！　やるから！　せんべいやるから大人しくしろぉぉぉぉ！！」

鹿にはモテる優一であった。