《擔任がやたらくっついてくるんだが……》新井先生
8月の第2週。
僕の通う學校では普通に授業がある。
當たり前のように、生徒からは非常に不評ではあるけど、まあ仕方ない。
そんな風に、學校に行くことに対して特にダルいともじていなかった。
その理由は多分……
「じゃあ、次は……淺野君、読んで」
「は、はい……」
先生の指示に従い、指定された箇所を淡々と読む。最近、現代文の授業の容が、すぅっと頭の中にってくるようになったのは、先生と若葉から薦められた本をがっつり読んでいるからかもしれない。何かを刷り込まれている気はするけど……
さっと読み終えて著席すると、いつの間にか先生が隣に來ていた。
この瞬間移じみたのもだいぶ慣れてきたなぁ……
「じゃあ、次は……」
そして、次の人を指名しながら、その白い手を僕の頭の上に置いてきた。
……朝のホームルームの分を含めると、これで10回目だ。
何故か今日はやたらと頭をでてくる。久々の登校日だからかな……いやいや、違う気がする……もしかして、若葉ロスからくるものなのか?
そっと先生に視線を向けると、相も変わらぬ無表だった。そして、眼鏡のレンズの向こうにある瞳は教科書に真っ直ぐ向けられていた。さらに、不思議な事にクラスメイトの視線は誰もこちらに…………あ。
「…………」
奧野さんがこっちを……いや、先生を見ていた。
そして、當たり前のように先生はその視線を意に介していない。
さらさらと指を髪に通していくそのに、なんだか懐かしい気持ちになる。
しかし、それが何なのか考えようとしたところで、その手は離れていった。
*******
……やっぱり授業中に彼にれるのは気持ちいいわね。
よし、殘りの授業も頑張ろう。
夏休みの間、なるべく口実を見つけて接點を作っていたけれど、この前の若葉さんのような特別な事がないかぎり、やはり限界はある。あと若葉さん……可い。彼に想いを寄せていなければ、まだ仲良くなれた気がする。
そう、年下とはいえ油斷は。あの子は間違いなく人に育つだろうから。
そこで、彼の姿が目にる。
あ、寢てる。
もう……仕方ないわね。
私は彼と接する口実ができたことを喜びながら、周りに悟られぬよう、気配を殺して近づく。こういう時、日頃の修行が役に立つ。
彼の寢顔は、教室の中で眠っているとは思えないくらい無防備で、じっと見ていると、何だかが締めつけられる。
……よし。誰も見てないわね。
私はその頬にそっと手をばし……
つんっ。
指でつついてみた。
うん、さすがは淺野君。このくらいでは起きそうもないわね。
つんっ、つんっ。
やだ……これ、楽しいわ。クセになりそう……。
つんっ、つんっ、つんつんつんつんつんつんつんつん……つつんっ。
……そろそろ止めておきましょう。背後から奧野さんの視線もじるし……。
頬にれた指先からは、じんと穏やかな熱が殘っていた。
私が彼に惹かれた理由……
いつか彼に話す時が來るのだろうか。思い出してくれるのだろうか。
私は思考を斷ち切り、次の授業へ向かった。
*******
「森原先生、今日よかったらお食事でも……」
「ごめんなさい。先約があるので……」
男教諭のいを丁重に斷っていると、副擔任の新井先生がトコトコと近寄ってきた。
「森原先生~!早く行きましょうよ~!」
ちなみに、新井先生とは何の約束もしていない。つまり、助け船を出してくれたということだ。いかにも自然なじで聲をかけてくるその様子は、彼が普段の鈍いイメージと重ならなかった。
彼もこういう場面に何度も遭遇しているのかもしれない。
「ええ。それでは、失禮します」
私は遠慮なくそれに乗っかることにした。
*******
「……ありがとうございます」
「え?あっ、全然大丈夫ですよ!森原先生、われること多いから、斷るの疲れてるんじゃないかな~、と思って……」
「…………」
私は沈黙で返した。
その沈黙を肯定とけ取ったのか、新井先生はこくりと頷き、ふわふわの茶い髪を揺らしながら微笑んだ。
彼はもしかしたら、こういうふわふわした可らしいの子がタイプかもしれない。彼がたまに目で彼の後ろ姿を追っているのを見たし。
「あ、あの……森原先生?どうしたんですか、私の顔をじっと見て……」
「いえ、気にしないで。し憎たらしくなっただけよ」
「な、何でですか!?えっ、私何かしましたか!?」
おっといけないわ。つい嫉妬ファイヤーが……きっとこの子は私の嫉妬心を煽るフレンズなのね。副擔任だけど、いや、副擔任だからこそ、今後も警戒は緩められないわ。
そんな彼に向け、私は誤魔化すように小さな笑みを浮かべた。
「冗談よ。新井先生は可いわね」
「とってつけたように言われても全然嬉しくないんですが……あ、それより、今から本當に飲みに行きません!?」
「……え?」
「ほら、先生ってあんまり飲み會に參加しないじゃないですか!でも、たまには親睦を深めるのもいいかなぁ……なんて」
彼は上目遣いに私を見てくる。くりくりした瞳が可い。
明らかに自分の見せ方を心得ている者の所作だけど……そ、そんな小みたいな目をされたら……。
「……わかったわ」
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