放課後、僕は新井先生に頼まれ、資料の整理を手伝っていた。

資料室といえば、初めて森原先生から手伝いを頼まれた時の事を思い出し、とても懐かしい気分になる。まだ一年も経ってないんだけど。

「淺野くぅん、どうかしたのかな？」

思い出に浸っていると、新井先生が顔を覗き込んできた。

すると、ふわりとウェーブのかかった茶い髪が揺れ、同級生のものとは違う大人な香りが鼻腔をくすぐってくる。

「す、すいません、ぼーっとしてました」

「ふふっ、淺野君はいつもぼーっとしてるね」

「……そう、ですか」

「そうですよ～」

間近で可らしい笑顔を向けられると、がどくんどくんと高鳴っていくのが、はっきりとわかる。くっ、普段森原先生と話してるから、しくらいは年上のの人に慣れたと思ったのに……！

「淺野君は彼とかいるの～？」

「い、いません……」

「じゃあ、好きな人はいるの～？」

「え、その……」

まさか副擔の先生に好きな人を聞かれるとか思わなかったので、正直テンパっている。いや、クラスメイトからも聞かれた事ないんだけど。

それに……好きな人って言われても……。

何も言えずに、ただキョロキョロと視線をさまよわせていると、新井先生は無言でさらに距離を詰め、僕の肩にそっと手を置いた。

「じゃあ……年上と年下、どっちが好き？」

「それは……年上、ですかね」

特に意識するでもなく、そう答えていた。まあ実際そうなのだから仕方がない。先生から借りた本の影響かもしれない。

「そっかぁ、年上が好きかぁ～」

新井先生は、にこにこと機嫌よさそうな笑顔を見せた。

そこで、自分の発言の容を思い出してしまう。

正直、そういう意味にとられてもおかしくはない。とはいえ先生は大人だから、そういう意味だったとしても、笑ってスルーされそう。

「ふむふむ、じゃあ顔のお姉さんはどうかなぁ～」

新井先生がさらに距離を詰めてきた。

もはやとがぶつかって、らかなが潰れるのをじるくらいだ。

漂ってくる大人な甘い香りも、濃な霧のようにこの部屋を包み込んでいる。

「あの、新井先生？」

「ん～？どうかした？」

「いえ、その、む、が當たっているような……」

まさか気づいていないはずはないだろう。ていう事は……新井先生はわざと？

「今いやらしい事考えた～？」

「はい……って、いや考えてませんよ！？」

「ふふふふふ、今本音がれてたでしょ～。淺野君も男の子だなぁ」

新井先生の蠱的な笑みについ見とれそうになると、僕の頭の中には何故か森原先生の顔が浮かんでいた。

あれ？何だろう、このじは……？

すると、同じくらいのタイミングで、新井先生が頭をでてきた。

「よしよし、よ～しよし♪」

「えっと……あの、さっきもやってましたけど、人の頭でるのが好きなんですか？」

「さっきも言ったけど、淺野君が昔飼ってた犬に似てるからつい～♪」

「…………」

ならば仕方ない、のだろうか。いや、ちょっとやばい気がする……。

こんなところを誰かに見られたら……新井先生もかなり人気あるし。

「あ～モフモフしたいなぁ～」

殘念だがモフモフする場所がない。そこまで深くないし。

優しすぎるスキンシップに、やばいやばいと思いながらもされるがままになっていると、先生のが微かにくのが見えた。

「來年は…………したいなぁ」

細かい部分は聞こえなかったけど、その桃のがやけにっぽく見えた。に群がる蟲のような気分になった。

「じゃあ、片付けも終わったし、そろそろ行こっか」

「はいっ」

自分の視線が悟られたような気がして、慌てて返事をしてしまう。

新井先生は、今日もふわふわして摑めない人だった。