《擔任がやたらくっついてくるんだが……》著の予
長い夢を見ていた気がした。
その夢は淡く脆く揺らめいていて……。
決してれる事のできない幻のように不確かだった。
*******
「……………………ん?」
真っ暗な世界に、うっすらとが差し込んでくる。
いまいち現実味のない空間がぼんやりと正しく目に映りだして、それが見慣れない天井だと、ようやく気づいた。
ここは……どこだろう?
「お兄ちゃん!」
真っ先に視界に飛び込んできたのは若葉の顔だった。何故か涙をポロポロと雫している。あれ?なんで泣いてるんだよ、若葉……。
すると、周りからがやがやと聞き覚えのある聲が耳に屆いてくる。
「裕くん!裕くん!よかったよ~!」
「淺野君……先生は心配しましたよ~!」
この聲は……姉さんと新井先生だ。ていうか、姉さんの顔がお腹の辺りに押しつけられてて溫かい。
「淺野君……よかった……」
今度は奧野さんの聲が聞こえてきた。もしずつきだし、彼の方に顔を向けられた。
すると、奧野さんも頬を涙で濡らしていた。しかも僕が原因らしい。一どうしたというのだろうか?
続いて母さんと目が合う。
母さんはほっとしたように息を吐いてから、優しく笑いかけてくれた。
「まったく……あんま心配させんなよ」
それに対して何とか笑みを作ると、ふと森原先生の顔が頭に浮かんだ。
そういえば先生は……あ!
いきなりをかしたので腕に痛みをじたが、それと同時に左隣にいた先生の姿も捉えた。
「…………」
「先生……」
先生はぼろぼろ涙を雫して泣いていた。
初めて……あれ?初めてじゃない?いや、今はいい……。
ただ、その綺麗な頬を涙が伝うのを見ると、それだけでちくりとが痛む。
何か聲をかけようとすると、急に抱きしめられた。
「ごめんね……それと、ありがとう」
そっと耳朶をでた甘い囁きは、不思議なくらいすぅっと心に染みた。何だか寒い日に溫かなスープを飲んだ時みたいだ。
姉さんと若葉も、僕の左腕を握ってきた。
「私達も……助けてくれてありがと。裕くん」
「お兄ちゃん……ありがとう」
「……ど、どういたしまして」
自分がそうしたかっただけなんだから、禮なんていいのに……という気持ちと、皆の前で照れくさい気持ちがごっちゃになっている。あー、顔真っ赤になってそう……。
照れ隠しに頬をかこうとすると、右腕に違和をじる。
「まだかしちゃダメ」
森原先生が、そっと僕の肩にれた。え?あれ?まだかしちゃダメって……。
僕は先生の視線を辿り、ゆっくり視線を落とした。
その時、気づいてしまった。
自分の右腕がしっかりと真っ白な包帯に包まれている事に。
*******
落ち著いてから聞いたところによると、僕は先生達を突き飛ばしてから、倒れた場門に押し潰されたらしい。
結果として頭に衝撃をけ、しばらく気絶していたのと……
「右腕かぁ……しばらく大変だよね」
奧野さんがぽつりと呟き、僕も自分の右腕に再び視線を落とした。
現在、右腕にはしっかりとギプスやら包帯が裝著され、上手く吊り下がっている。どうやら全治1ヶ月らしい。
……まあ、これだけですんでよかったかな。あとはどこも悪くないみたいだし。
あの時の狀況を一つ一つ思い出しながら整理していくと、素直にそんな想が浮かぶ。
「淺野君……」
すると、先生が僕の手をきゅっと握ってきた。
ひんやりしたはすっかり掌に馴染んでるけど、やはり張してしまう。
先生の薄紅のは、いつものように淡々と言葉を紡いだ。
「しばらくの間不便だと思うけど、君の生活の面倒は私が見るから安心して」
「……え?」
「淺野さん」
今度は母さんの方を向いて、深々と頭を下げた。
「今回の件は擔任である私の責任です。なので今後彼が完治するまで、いえ、末永く彼をサポートさせていただきます」
「え?ああ、ど、どうぞよろしくお願いします。ていうか、頭あげてください、先生」
「…………」
今、末永くって言わなかった?
「ちょっ……先生!さりげなく末永くとか言ってませんでした!?」
「そうだよ!ずるいよ!」
「……擔任教師として當然の事を言ってるだけよ」
「じゃあ私は副擔として~」
「こっちのほうがさりげない!」
この後、やってきた看護士さんに「病院ではお靜かに!」と怒られてしまった。
まあ、何はともあれ皆がケガしなくてよかった。
いつものようなやりとりをしている皆の橫顔を見て、心からそう思った。
*******
二日後、ようやく家に帰る事ができた。
そんなに日數が経ったわけでもないのに、何だか久しぶりにじる我が家。でもやっぱり自分のベッドが一番気持ちよく眠れた。
とはいえ、今日からまた學校に通わなきゃいけないんだけど……。
「……君」
もうし夢と現実の間で微睡んでいたい。このくらいのわがままは許されるはず……ていうか、さっきから誰が……
「淺野君。おはよう。起きて」
「…………えぇっ!?」
聲の主が誰だかわかり、慌てて飛び起きる。
そこにいたのは、エプロンをにつけ、お玉を片手に持った森原先生だった。
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