《後輩は積極的》第20話
*
「んじゃ、俺はここで」
「はい……じゃあ、またバイトで」
「おう」
俺は実ちゃんを送り屆け、溫首相が泉宿に向かって歩き始めていた。
実ちゃんは無事に友人達の元に帰って行き、俺は一人で祭りの中を歩いていた。
皆に連絡を取ろうとも考えたのだが、ちょうどスマホのバッテリーが切れてしまった。
「先輩、怒ってるかな?」
きっと間宮先輩は眉間にしわを寄せ、帰って來た俺に々と文句を言うはずだ。
それを考えると、なんだか気が重い。
「はぁ……」
そんな事を考えながら歩いていると、突然肩を叩かれた。
「え? あだっ!!」
「どこに行ってたのよ!」
「せ、先輩……痛いです」
肩を叩いてきたのは、間宮先輩だった。
予想通り、先輩は眉間にシワを寄せて怒っていた。
しかし、いくら怒っているからって、いきなり俺の足を踏みつけないでほしい。
「まったく! どこで何してたのよ! みんな心配したのよ!」
「す、すいません。で、皆は?」
「帰ったわよ! 私は仕方なく、仕方なく! アンタを探しに來たの!」
「それはどうもすみません」
「ほら、行くわよ! まったく」
なんだかんだうるさかったが、俺を捜してくれていたのであれば、なんだか申し訳ない。
しかし、あの面倒くさがりでわがままな先輩が、なぜ俺を?
「何してるの! 早く行くわよ!」
「あ、はい!」
俺は前を歩く先輩に追いつき、二人で溫泉宿に戻っていく。
「先輩……なんか迷掛けたみたいですいません」
「な、なによ……いつになく素直じゃない……」
「いつになくは余計です!」
「本當にいい迷よ!」
「本當にすいませんでした」
「岬君がいなかったら、誰が私に飲みと食べを買ってくるのよ!」
「それは自分で行って下さい」
「あーもう! 岬君探すので疲れた! お腹減った! 何か買ってきて!!」
「いや、宿に帰れば酒も食いも……」
「いいから! 焼きそばとフランクフルト買ってきて!」
「えぇ……太りますよ?」
「う・る・さ・い!」
「アイタタタ!!」
余計な事を言ったせいで、俺は先輩から耳を引っ張られてしまった。
本當にこの人はわがままだ。
*
「実! どこ行ってたの? なんか知り合いと會ったって連絡は來てたけど」
「うん、バイト先の先輩と會ってね、し話し込んじゃって」
「なら良いけど。どうしたの? なんかすっごい嬉しそうな顔して」
「え? そ、そんな顔してる?」
「うん、さっきまではあんな嫌そうな顔だったのに、今は何か楽しそう」
「うん……ちょっと楽しい事があってね……」
私は先輩と別れ友人達の元に戻って來ていた。
みんなが居たのは祭り會場の休憩スペースだった。
みんなは夜ご飯の代わりに、焼きそばやお好み焼きを食べていた。
「楽しい事? どうかしたの?」
「うん、好きな人と會ってきたの」
「え!?」
「「「好きな人!?」」」
私がそう言った瞬間、みんなは驚き私の方を見た。
中でも驚いていたのは、一緒に來ていたクラスの男の子達だった。
「い、石川さん……好きな人……いたの?」
「ま、マジか……」
「我らの天使が……」
あからさまに気分を落ち込ませる男子達。
そんな男子達に、一緒に來ていたクラスの子達は呆れた様子で男子達を見ていた。
「はぁ……これだけ子が居るのに」
「みんな実目當てね」
「いや、実に勝てないのは知ってるけど、私たちにもしは目を向けなさいよ」
思いがけない所で先輩と會うことが出來、私は上機嫌だった。
嫌々來たお祭りだったが、來て良かったと思いながら、私は買ってきた綿飴を口に運ぶ。
*
「んで? どうだったのサークルは?」
「あぁ、酔っぱらった先輩に絡まれて、翌朝目が覚めたら、半の先輩が俺の布団に居た」
「はぁ!?」
「あんまり大きい聲を出すなよ、フロアに聞こえるぞ」
先日のサークル活の事を俺は小山君に聞かれて、話していた。
祭りの會場から溫泉宿に戻った俺と先輩は飲み會に參加した。
未年ではない先輩達は當然酒をガブガブ飲む。
そして、元から変な先輩達が飲んだらどうなるかというと、當然更に変になる。
「まぁ、飲み始めて一時間で既に地獄絵図だったな……俺や未年の後輩達は早めに寢たんだが」
「いやいや! なんで先に寢たのに、そんな事になってるんだよ!」
「え? 酔っぱらった先輩が、間違えて俺の部屋にってきて、そのまま寢たんだろ? よくある話しさ」
「いや、ねーよ……」
そんな事を言われても、酔っぱらった間宮先輩が俺の部屋や布団に間違えてってくる事は、最早恒例だ。
なぜかすべて俺の部屋や布団なのだが……。
「岬君さぁ……その先輩って君の事を好きなんじゃ……」
「え? ないない! 絶対無いよ、有り得ない!」
「いや、でもそれは……」
「だって、先輩は俺の事を男避けに使ってる王様みたいな人だし……」
「いや、それどんな関係だよ……」
うーむ、どんな関係か……そう聞かれると、ただの先輩後輩では無い気もする。
強いて言うなら……。
「……ご主人様と……奴隷?」
「岬君の大學生活が心配になってきたよ」
「え? なんで?」
命令を出し、俺を男避けに使い、更に小間使いにする。
そんな先輩の命令をなんだかんだで聞く俺は、先輩の奴隷であろう。
そうであるならば先輩の立場は、ご主人様か王様が正しいだろう。
「み、岬君ってさ……もしかしてM?」
「はぁ? 急に何を言ってんだよ?」
小山君はさっきから、俺の事を心配そうな目で見つめてくる。
俺は何かおかしな事を言っただろうか?」
「いや、まぁ……癖は人それぞれだし……」
「癖?」
彼は一何の話しをしているのだろうか?
まだまだ暑い日が続く夏の廚房、俺は今日も熱い鉄板と熱された油に囲まれて、仕事に勵む。
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