《ボクの彼は頭がおかしい。》現在
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「著いたよ、早瀬くん」
隣に座っている五月に起こされる。
ここは、電車の中…?
あ、そうか。
僕たちは園に向かっている途中だった。
いつの間にか眠っていたらしい。
一年前の記憶が夢に出てくるなんて。なんとも懐かしい。
「何ボーッとしてるの。降りるよ」
「はい」
五月の後に続き電車を降りる。
駅から歩くこと15分。
目的地に到著した。
他のたちには目もくれず、彼はパンダのもとへと一直線。
僕はただ、後をついて行くだけ。
「本だ。初めて見た」
パンダの檻の前。彼が驚嘆の聲を上げた。
「そう言われてみれば、僕も生で見るのは初めてかも」
「來てよかったね」
「そうだね。來て良かった」。
隣の彼をちらりと見る。
かなり上機嫌な様子で、瞳の輝きがハンパじゃない。
「…今更だけど、どうして急にパンダに會いたいなんて言い出したわけ?」と、僕は訊ねる。
バイト中だったというのに、理由もわからぬまま無理やり引っ張ってこられたのだ。
店長も、五月のウインク弾をけて「あとは俺がやっとくから行ってこいよサツキチャンカワイイブハァ」とか言い出すから意味わかんないよなぁ。
彼は眉間に人差し指を當て、しだけ考えるそぶりを見せる。
「早瀬くんと2人で園に行きます。並んでボーっとパンダを見ます。手なんか繋いじゃったりします…夕焼けがスッゴク綺麗で……ね、悪くないじゃん?」
笑顔で見つめてくる彼の手を握り返しながら、僕はただうなずいた。
「きっとあのパンダとあのパンダは夫婦なんだよ」
檻の中には3頭のパンダ。
そのうちの2頭を指差して微笑む彼。
「どうして分かるの?」
「経験値足りないね、早瀬くん。どう見たってよろしくやってそうじゃん、雰囲気」
いやいや雰囲気どうこうの前に空気読もうか、子供もいるんですよ。
僕は彼の言葉を華麗にスルーし、時刻を確認した。
もうそろそろ帰らないと。閉園の時間は近い。
それに明日から學校だ。
「じゃあ、帰ろうか」
「オスがばっかり見てるからやっぱりあれ夫婦だね。まだまだ盛んな時期の」
周りの親子がすんごい見てきてるから。すんごい引いてるから、やめて。
というかあなた、オスメスの區別つかないでしょ。
帰宅途中、電車にて。
「早瀬くん」
くだらない考え事をしていると、五月が話しかけてきた。
いったん、思考を中斷する。
「なに?」
「ちょっと考えてたんだけど」
「うん」
「私、さっきのパンダ、夫婦だ夫婦だって言ってたじゃない?」
「うん」
「それでね、逆にパンダ夫婦から見たら、私たちってどんな風に見えてたのかなぁって」
彼は真顔でそう言った。
いつもなら笑い飛ばしているところだけど……
「ちょうど僕も、同じ事考えてた」
彼が目を輝かせる。
しかしそれだけで、特別何も言ってこない。
僕も五月に習い沈黙に浸る。
窓の外には、夕日に染められた黃金の田園風景が広がっていた。
そのしい風景を眺めながら僕は思った。
この僕のコスチューム…
ラウンドワンのボーリングピンの著ぐるみ。
これさえなければ完璧なデートなんだろうなと。
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