《ボクの彼は頭がおかしい。》偵①
「探偵ごっこも楽じゃない」
「てへっ」
僕は今、バンドメンバーの一人である大雪くんの自宅前、電柱の影に実を潛めている。
いわゆるストーカーというやつだ。
…って違う違う。
なぜこのような犯罪まがいの行をとっているかというと、実は先日、五月が大雪くんの浮気現場を目撃した(らしい)からであった。
「細くて可いの子と歩いてたの…」
「まさか。大雪くんに限ってそんなことありえないよ」
「わたしも信じたくないけど、うん……」
大雪くんが浮気?
馬鹿馬鹿しい。
「早いとこ証拠をつかんで、小雪に伝えなきゃ」
「ちょっと待った。何する気?」
「五月と早瀬の探偵コンビ結ね」
「何言ってるの?」
「よし、早瀬くん、明日の朝七時に大雪くんの家の前に集合ね」
「は?」
「あ、ちゃんと変裝してくるのよ?」
「いやいや……」
「そういうことだから。じゃあまた明日!」
というメールのやり取りをしました。
僕のメールは完全スルーでした。
それでいいんです。
そして現在、朝の7時00分。
彼は案の定來ていません。
僕は十分前に到著していました。
なんて律儀なんだ、早瀬という素晴らしいノーマルヒューマンは。
だいたい彼は――なんて暇つぶしのための思考を延々と繰り返していると、いつの間にか八時になって九時になって十時になった。
気溫もぐんぐん上がっていった。
なんてったって夏休み、灼熱だからね。
トイレをしたくなったししのマイガールも現れないしで帰ろうとしたその時、背後に人の気配をじた。
「誰だっ!?」
念のために用意していた水鉄砲をベルトから引き抜き振り返る。
「銃をおろせ。こっちは超高能の最新型水鉄砲だ。お前に勝ち目はない」
全真っ黒(帽子、サングラスも含む)の五月が構えていたのは、どう見ても本のロケットランチャーでした。
このあと電柱が吹っ飛んだり僕が真っ二つになったり々あったんですけど省略させていただきます。
「ずいぶんと遅かったね」
水鉄砲をしまい、五月に冷ややかな目線を送る。
「ごめんね。早瀬くんに喜んでもらおうと思ってお化粧とか下著選びとか々頑張って――」
「許す」
どこまでも律儀な男、早瀬とは僕のことだ。
それから二人でイチャイチャすること三十分。
五月が攜帯を取り出し、誰かを呼び出した。
「暑いからさ、ね、いいでしょ?」
約十分後に一臺の車が到著しました。
五月様用達のタクシーです。
「どちらまで?」
「あ、もう一人來るんでちょっと待ってもらってもいいですか?」
「はい分かりましたー」
優しい運転手さんで本當に良かった。
先ほどまでの灼熱とは打って変わって、車はヘブンそのもの。
心地よい環境にうっとり乙みたいな表を浮かべていると、隣に座っている五月が突如いた。
「運転手さん、あの男を追いかけてください!」
ビシッとばした彼の人差し指の先には、今ちょうど玄関から出てきたばかりらしい大雪くんと、そしてなんと見た事のない細くて可いの子の姿が。
まさかの、浮気?
しかも世間一般で言う『朝帰り』とかなんとかいう類の……?
大雪くんはそのまま細くて(以下略)を後ろに乗せ、自転車にまたがった。
僕らのタクシーも合わせてのろのろとき出す。
このドラマみたいな展開、普通ならば詳しく描寫して盛り上げるところだけれど、今日は暑さでグッタリしているので勘弁してください。
つづく。
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