《ボクの彼は頭がおかしい。》文化祭ライブ②
ライブの後半に突する。
次の曲は『Hectic Flash』
大雪くんと五月で作曲した平開化オリジナルのもの。
激しく盛り上がる、テンポの良い曲。
今回、この曲では間奏部分が最大の『お遊び』ポイントとなる。
無事に盛り上げた流れのまま1番を終え、問題の間奏部分へ。
僕、仙人くん、牛くんがタイミングよく演奏を途中で停止する。
ホールに響くのは大雪くんの叩く豪快なドラム音のみ。
そして観客は、やがてそのリズムがあの有名な『ビリー・ジーン』のものであることに気付く。
マイケル・ジャクソンの『ビリー・ジーン』である。
(THIS IS ITのおかげでマイケルの知名度は高校生の間でも高い)
ステージの照明が落とされ、すぐに1點のスポットライトが當てられる。
暗闇の中からその中に飛び込んだのは、本日の主役である我らが五月姫。
大雪くんの刻むリズムに合わせ、観客に向けてちょっとしたダンスを披する。
指の先までっぽくて本當に上手い。
カッコいいダンスに優雅な作。(五月はバレエの経験があります)
それにプラスして、はにかんだ表。照れてるんでしょうね。
うん、惚れるわ。
「10、9、8、7――」
タイミングを上手く計り、大雪くんがカウントダウンを開始する。
「――6、5、4――」
観客も訳が分からぬまま聲を合わせる。
「――3、2、1――」
「――0!!」
最後のカウントとともに、五月がマイケル・ジャクソンの代名詞でもある『ムーンウォーク』を軽々とやってのけた。
これにはもちろん、拍手喝采。
足が長いっていうのもあってものすごく綺麗。
どうやら大功みたいです。
この曲の2番も終わり、流れを切らずにそのまま次の曲へ。
『彼岸花』
五月が作詞・作曲をした獨特な曲。
此の侭で良い
人は皆 私の事を
死人花と云うけれど
存在しても良い
今はもう 執著しない
誰に何と云われても
淋しくなんて無いわ
私は私だから
朱に染めたい
貴方の 混ぜましょう
獨り善がりはおさらばよ
毒を盛りたい
リコリン等 一寸も無い
有りそうで無いのよ
真実なんて無いわ
全て噓だから
曼珠沙華 もう一つの名
怖くないでしょう?
淋しくなんて無いわ
わたしも同じ花だから
曲を演奏しきり、ホッと一息。
割れんばかりの拍手を全にじる。
最高の瞬間。
本當を言うとちょっとミスをしてしまったんですけど、バレてないみたいです。
「次にやる曲は、『ピアノ』と『私の彼氏』擔當の早瀬くんが作ってきてくれたものです」
五月からの紹介をける。
その瞬間、ただならぬ殺気をじた。
それも1つや2つではない。
原因は間違いなく、直前の五月の発言。
3年生もいるんだからちょっとは考えてしかったな、五月さん。
本日初めて僕に注意を向けられた瞬間がこれだからね、もうトラウマになりそうです。
とか何とかいいつつも、こんな人前で堂々と僕が彼氏であると紹介できる五月にちょっぴりうれし――
「キーボードのやつ、後で教室來い!」
最前列に座っている3年生から呼び出された。
前言撤回、最悪です。
「今までの曲と違って可らしいじなので、みなさん手拍子を、ぜひよろしくお願いします。曲名は『プレゼント』です」
五月の言葉により、男たちの怒りはすぐに収まった。
鬼の形相が、一瞬で天使を見る目にトランスフォームする。
…やれやれ。
五月と目が合い、そして合図が送られた。
演奏開始です。
明るいピアノの音が軽快に響き渡り、やがてドラム、ギター、ベースも小さく加わった。
五月が観客に手拍子を煽り、雰囲気が整う。
「疲れた顔をしているあなたに」
五月がき通った聲で歌いだす。
すぐに僕の番。
とうとうやってきましたよ僕の出番が。
ふぅー落ち著け。
大きく息を吸い、顔をマイクに近づける。
「君の手のひら 小さなプレゼント」
観客がちょっとどよめいた。ほんのちょっと。
『意外に』という言葉がいたるところから聞こえてくる。
ニヤけそうになるけれど、実際そんな余裕はない。
「ためらいがちにけ取って 中を開ければ至福の時間」
ここからサビに突する。
僕と五月のハーモニー。
ゆっくり じっくり 沁み込んでくる
幸せの Happy color
君と僕との 距離がまる
些細なギフト
Present for you
「悲しい顔をしている君に」
僕の手のひら 小さなプレゼント
遠慮はいらない け取って
共有しよう 至福の時間
ゆっくり じっくり 広がっていく
幸せの歌 Happy song
僕と君との 想いがわる
謝の気持ち
Present for you
なんとか歌い終えた。汗の量がハンパじゃない。
歌ってる時は全く気が付かなかったけど、うん、汗が……
五月は全然なのに、何で?
「――次で最後です!曲は東京事変の『閃』。聴いてください」と、大雪くん。
この曲を選んだ理由は、比較的簡単だったっていうのと、歌詞がもう良いんですよね。
五月にピッタリってじです。
ただ、さっきも言ったように難易度は低いんだけど、何でか僕もギターをやらなくちゃいけないという。
今までやったことなかったんで結構頑張って練習しました。
(再び中略。手抜きじゃないです)
あっという間に時間は過ぎ去り、気がつくと演奏終了。
多くの拍手とともに退場する。
舞臺裏。
「みんなスゴく良かったよ!」
はしゃぐ五月。
「だな!」
「上手くいってよかったよほんと」
「よかったです」
見ると、メンバーそれぞれが満足げな表を浮かべている。いいね、このじ。
――ところが、ここでライブは終わらなかった。
なんと予想外なことに、アンコールがかけられているではないか。
(ちょっと考えればアンコールがあるかもしれないという可能にたどり著いたのだろうけど、すっかり忘れてたんですよねこの時)
「オイ!どーすんだよ」と、牛くん。
「うーん、とりあえずわたしのギターどこ行った?運営委員の人が片付けちゃったのかな」
「かもね。探そっか。とりあえず早瀬は先にステージ上がってて」
大雪くんに訳の分からぬことを言われた。
「え、なぜ……」
「時間稼ぎ。あんまりお客さん待たせるのもよくないでしょ」
そういうわけで今、ステージに1人寂しく立っています。
1000を超える視線をひしひしとじています。
うん。
みんな、五月とか牛くんが見たくてわざわざアンコールしてくれたんだよね。
分かってる、ちゃんと分かってるからそんな目で見ないで。
「えぇっと、皆さんこんにちは。早瀬といいます」
とりあえず震える聲で挨拶。
何人かの心優しい生徒さんたちが返事をしてくれた。ありがとう。
…さて、何をして時間を稼ごう。
「他のメンバーの準備が整うまで、僕の趣味である映畫についてでも語りま――」
「ふざけんなよ!」
「もっと他に何かないのかよオイ!」
「オマエそれでも五月ちゃんの彼氏かッ!!」
大迫力のブーイング。
そうですよね。
「じゃあ、ボーカルの五月について、一つ話をしてみます」
今度は、「おぉー」という歓聲と大きな拍手につつまれる。
「えぇ……では…………
先日、五月と公園のブランコで一日中語り合おうということになり、お晝の時間帯、たぶん十二時ぐらいに僕は公園に向かいました。
すぐに到著したのですが、公園に五月の姿はありませんでした。
彼はたいてい約束の時間に遅れてくるので、特に何を思うでもなく、ただ小さい子たちに混ざって砂場に座り込んでいたのですが……
2時間ぐらい経っても來なかったのでちょっと心配になって探してみることにしたんです。
あ、もちろん攜帯に連絡はしました。
返事は、ありませんでした。
しばらく公園の周りをグルグル回ってたんですけど、はい、見つけたんです。
木登りをしている五月を、僕は見つけました。
公園の中にある大きな木の、わりと高いところに登っている五月。
またバカなことやってるなんて思いつつ、聲をかけようとしたんですけど、やめました。
なぜかって?
それはですね、彼が木登りをしている理由が分かったからです。
え?
…あ……先に答え言われちゃいましたね。
そうです、その通り。
巣から落ちた赤ちゃん鳥を、あ、雛って言えばいいのか、雛をわざわざ五月は高いところまで登って巣に帰してあげてたんです。
優しいですよね、びっくりしました。
それで僕は、何も見なかったことにしてもう一度ブランコのところに戻ったんです。
それからしして、五月が僕のところにやってきました。
「ごめん早瀬くん、お化粧頑張ってたらちょっと遅れちゃった」と、彼は謝ってきます。
彼は毎回、約束の時間に遅れてきたときには「化粧」を理由に使います。
全然化粧なんてしてないくせに、バレバレですよね。
まぁ、そういう話です。えぇ、可いですよね」
僕の話が終わった直後、絶妙なタイミングで五月たちがステージに上がってくる。
彼は顔を真っ赤にして僕に近づいてきた。
「なんなの、さっきの話」
恥ずかしそうにモジモジしている。
歌ってる時はあんなにカッコいいのに、照れるとこうだからなぁ。
ギャップがたまりません。
そんな彼を見て、生徒の皆さんも大興。
「可い」というび聲、今日一日で一萬回ぐらい聞いたんじゃないかな。
「アンコールありがとうございます」
照れてしまって何も言えない五月に代わり、大雪くんがマイクを取った。
「最後にもう一曲やるんで、聞いてください」
僕は持ち場についた。
仙人くんが曲を知らせてくれる。
なるほど、それで締めくくるわけね。
「じゃ、いきます。曲名は……やっぱ最後だから、五月、お願い」
タイトルコールを譲る大雪くん。
まだ照れモードからしていない五月だったが、なんとかマイクに顔を近づけた。
「今日は本當にありがとう。楽しかったです」
ただ一言喋っただけなのに、熱狂的に盛り上がる観客。
…うん、この後が大変そう。
さっき3年生に呼び出されちゃったんだけど、あれ本気なのかな。
僕、やられちゃうのかな。
「東京事変の『群青日和』」
々考え込んでたら曲が始まりました。
「新宿は豪雨――」
もしも変わってしまうなら
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