《ボクの彼は頭がおかしい。》文化祭2日目
自由部門です。
僕たちのクラスはマッサージ店をやります。
意味分かりません。
文化祭の出店がマッサージってどういうことですか。
どうでもいいんでしょうけど、値段は15分で250円でした。
高いのか安いのかもよく分かりません。
1人、2人、3人、4人――――と數をこなしていき……
午前中は大勢の人の足やら肩やらをみ解して終了した。
(日頃から五月の専屬トレーナーを務めているため、お客様からかなりの好評をいただき大活躍でした。わずか一行で済ませてしまうのがもったいないほどの活躍でした)
午後からはクラスの他の人と代わってもらい、校を歩き回る。
一人で。
うん、面白くない。
五月でも探しますか。
彼のクラスに向かう。
2-1は何のお店だったっけ。
手元のパンフレットを確認する。
お。
メイド喫茶。
お。
全力でダッシュした。
數秒後。
目的地にたどり著く。
それほど混んでいなかったため、すんなり中にることが出來た。
『早瀬く~ん♪』なんて言いながら出迎えてくれるメイド服を著た五月を期待していたんだけど、殘念ながら人生は毎秒ラブコメディーというわけにはいかないらしい。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
僕を出迎えてくれたのは、全然知らないただの五月のクラスメートだった(失禮)。
案され、席に著く。
「あの、五月はどこに?」僕はそう尋ねた。
「五月ちゃんは……ちょっと待ってくださいね。あ、それよりまずは注文をお願いします」と、メイドさんに言われたのでとりあえずオレンジジュースを頼んだ。
メイドさんが軽やかな足取りで廚房の奧へと消えていく。
「お待たせいたしました」
すぐにジュースを持ってきてくれた。
でも、肝心の五月が姿を見せない。
「五月は――」
「追加注文ですか?ありがとうございます!」
そのあと意味が分からないまま、メイドさんとジャンケンをしたりケーキを食べさせてもらったりした。
全然萌えなかった。
「あの、五月はどこに…?」
何度も尋ねた質問を再び投げかける。
「よし、もう言っても大丈夫かな。五月ちゃんなら茶道部のほうに行ってるよ」
…なぜ最初に言わない?
3800円をぼったくられ、僕はメイド喫茶を後にした。
そうして、茶道部が和菓子の無料提供を行っている會場へと向かう。
ええっと、五月は茶道部の部長さんです。
長い間「茶道部」という言葉が話に出てこなかったのは、五月が部活をサボっているからというわけではなく、ただ単に僕が書かなかったから、という理由によるものです。
なんかスミマセン。
「おわ、先輩!こんにちはです!」
いきなり誰かに離しかけられる。
振り返ると、そこには雫さんが立っていた。
「あ、こんにちは」
「き、昨日のライブすごかったですね」と、雫さん。
「ほんとに?」
「はい。と、特に……ん…ピ、ぴあの弾いてる時の…先輩の……アゴ…とか…?」
それはただの癖です。
夢中になってピアノ弾いてるとアゴがしゃくれてくるんです。
仕方ないことじゃないですか。
そんなとこに注目しないでくださいよ。
「…今のは…………冗談です」
イジける僕を見て、雫さんはフフッと笑った。
「あれ、雫さんキャラ変わった?」
そう尋ねずにはいられなかった。
前まではこんな雰囲気じゃなかったよねこの子。
「お、の子は…変わり続けなきゃダメなんです。変化しなくなったら……えっとなんだっけ…………あ、変化が止まったらそれはもう、おばさんになったっていう…こと…なんです……たぶん」
うん、これ王の影響だよね。
そのようなやり取りに興じていると、いつの間にか茶道部の會場に到著していた。
「ひ、人がゴミのようですね」
え、今なんて言った?
ゴミって言った?
汚れのない純粋そのものの雫さんが人をゴミだと、そう言ったのですか。
「雫さん、そんな言葉を使ってはいけません」
「ハッ」
彼は両手を口元にあて、目を見開き、まさにセリフの如く「ハッ」とした表を浮かべた。
王のせいでおかしなことになってきてるけど、まだ完全にダークサイドに落ちたというわけではないらしい。
僕が守ってやらねば。王の強大な魔の手から。
とは言ったものの(思ったものの)、確かに人が多すぎて本當にゴミみたいに見える。
茶道部の會場にこれだけ大勢の人間が集まるなんて、原因はおそらく五月だろう。
「だいぶ待たないといけないみたいだね。僕は並ぶけど、雫さんはどうする?」
「わ、わたしも並びます」
そんなわけで待つこと30分。
(この間に、雫さんは7人の男からメアドを聞かれていた。僕は73人の男から「五月ちゃんを泣かせたらぶっ殺すから」と聲をかけられた)
ようやく僕たちの番がめぐってきた。
「あ、早瀬くん!」
五月――著ver――がこちらに気付く。
思わず抱き締めたくなるような、そんな笑顔を見せてくれた。
しかし直後に、表が曇る。
なに、どうしたの。
「や、雫ちゃん!來てくれてありがとう。とりあえず座って」
僕のほうには目もくれず、雫さんだけに笑顔で対応する五月。
「サツ姉、すごく……き、キレイです」
「ほんとに?ありがとう」
まるで姉妹のように仲良く會話を楽しんでいる二人。
それを一歩離れたところで立ったまま眺める僕。
…何なのこれ。
「――心ってものが分かってないんだよね…彼は」
「心……ですか?」
「そっそ。わたしも大変だけど、雫ちゃんももっと大変でしょう?」
「は、はい」
「自分では分かってるつもりみたいだから、ホントやっかいなんだよね」
「……んと、なんか、サツ姉すごいです」
「え、そう?」
繰り返しになりますが、僕はただ立ったまま二人を眺めていただけです。
茶道部の會場を後にし、次に訪れたのは投票コーナー。
大雪くんと來ました。
(雫さんは王に連れていかれた。その時の王の表が凄まじかった。超不機嫌だった。超怖かった)
ここでの投票とは、もちろん、前日の打ち上げ會で話題の中心となっていた『人気投票』のことです。
「運営委員の人たちが言ってたんだけど、午前までの集計は五月が1位だったらしいよ。2位が沙紀さんで、五月とは50票以上も差が――」
大雪くんが長々と説明してくれた。
ありがとう。
僕はもちろん五月に投票したいんだけど、でも彼が1位になっちゃうと々マズイんだよね。
ちょっと想像してみる。
五月が1位
↓
王ブチ切れ
↓
五月も最初は謝るんだろうけどそのうちブチ切れ
↓
第二次學校戦爭発
↓
たぶんそのまま學校崩壊
↓
大學験失敗
↓
ニート
↓
五月との結婚を五月父が認めてくれない
↓
駆け落ち
↓
ハワイかどっかで日本料理店でも経営
↓
売れ行きがびない
↓
危ない人たちからお金を借りる
↓
泥沼の借金地獄→そして…
ダメだ。
それだけは阻止しなければ。
「投票終わったから先行ってるね」
え、大雪くんもうやっちゃったの?
「ちなみに、誰に投票を……」
「もちろん小雪」
満面の笑みで答える大雪くん。
うん、そうだよね。
小雪さんに投票する分は無害だよね。
大雪くんがどこかに消えたあとも、僕は一人で頭を抱え込んでいた。
五月以外に投票するなんて、僕には考えられない。
だけど五月に投票するということは、すなわち借金地獄を意味する。
それを回避するためには王を勝たせなければいけない。
でも、王に投票するなんて…生理的に…無理。
あぁ、もう、どうしよう。
どうしようか、あぁ、うん、よし、うん、よし……うひゃ、ひゃっはー、五月に投票しちゃえ――いや待て早まるな自分落ち著け自分。
五月、王、王、五月、五月、五月、王、五月……!!
見えたッ!!
「うぉぉぉぉぉおおお!!」
僕は発狂した。
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