《ボクの彼は頭がおかしい。》その日の夜
例の夜。
部屋でボーッとしていると攜帯にメールが屆いた。
『外で待ってる』とただ一言。
五月からだ。
カーテンの隙間から外を確認する。
家の前に小さな人影が一つあった。
メールは噓ではないらしい。
重い足取りで玄関に出る。
外は真っ暗。
街燈と月がコンクリートの地面にわずかな沢を與えているけれど、それ以外は闇に等しい。
音を立てるものもなく靜まり返った住宅街に、異様なまでの寒さがうなりを上げている。
本當に寒い。
僕の顔を見た五月はほんのし笑顔になった。
「こんばんは早瀬くん」
「こんばんは。どうやって來たの?」
僕は無表のまま尋ねた。
「歩いて。意外と時間かかっちゃった」
「馬鹿じゃないの。じゃあ、帰りはタクシー呼んであげるから」
「別にいいよ」
攜帯を取り出し、タクシー會社に電話する。
「え、ちょっと早瀬くん、聞いてるの?」という彼の言葉を無視して。
電話を終え、攜帯をポケットにしまった。
タクシーは十分程度で來てくれるそうだ。
さてと。
僕は今から、彼に別れを告げなければならない。
々考えた結果、そうすることが彼にとってのベストなんじゃないかと、そういう結論に達した。
僕という存在は、彼にとっての足手まとい。
僕という拘束から逃れることができたならば、彼はきっと今以上に輝く事ができるのだろう。
もとより彼は華やかな世界の住人で、僕はその反対をいく。
三年生に言われたとおり、『一年以上付き合えた』ことが、すでにそれだけで奇跡の域を超えているのだ。
一生分の夢は十分、十二分に見させてもらった。
もうこれ以上、彼の足を引っ張るわけにはいかない。
長い沈黙の後、「やめろ」とぶ心を切り離し、僕は終わりの言葉を紡ぎ出した。
「別れよう」
彼が目を見開く。
形の良いが震えている。
「なんで…」
「僕じゃ君を幸せにできないと思う」
「それは早瀬くんが一人で決めることじゃない」
「じゃあ誰が決めるの。五月?それとも他の誰か?」
彼は悲しそうな顔をしただけで、何も言わなかった。
「僕たちは違いすぎたんだ。違っているのは良いことかもしれないけど、それがあんまりひどすぎるとバランスが取れなくなる…」
くそ。
震えを押さえきれない。
を殺しきれない。
だけど、今さら後戻りは…。
言うしかないんだ。
彼の為にも。
「きっと、最初から付き合うべきじゃなかったんだよ」
一臺のタクシーが到著した。
家の前で止まって、見知った運転手が窓から顔を出す。
「今日はどちらまで?」
僕はすぐに五月の家の住所を運転手に伝えた。
彼は大きくうなずいて顔を引っ込め、運転席の窓を再び閉めた。
「早く乗りなさい。こんなところに突っ立ってたら風邪ひくよ」と、僕は言った。
しかしこうとしない彼。
「…あぁ、お金ね。ちょっと待って」
サイフから適當にお札をつかんで彼に差し出す。
「ふざけないで!」
靜かな住宅街に乾いた音が響く。
僕は彼に、生まれて初めて頬を叩かれた。
寒さのせいもあって痛みは倍増。
そしてこの痛みを通して、本當に最後なのだと実する。
走り去ったタクシーの方向を見つめたまま、僕は自嘲的な笑みを浮かべた。
自分でこの決斷を下しておきながら今この瞬間にも後悔をじ始めている自分を、心の底から嘲笑った。
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