「帰ってきていない……」

朝起きて、彼が――、高槻さんを起こしにいったけど寢所は昨日の片付けられたまま。

何とも言えない気持ちのまま巫服に著替えてから境の清掃を行う。

社務所の方は、工事が進んでいて人數を員しているおかげなのからか、施工の進捗は早い。

「はぁ……」

「どうかしたのか？　溜息なんてついて」

「々とあるんです」

「そうか。々あるのか」

「うん……って！？　え？　どうして？」

心あらずと言ったじで清掃をしていたので、途中まで心の中で思っていた気持ちを吐していた事に気が付いた私は思わず驚き――、履き慣れていない下駄で會った事もありバランスを崩す。

「あっ――」

倒れかけたところで、高槻さんに腕を引っ張られて、その勢いで彼の元に倒れ込んでしまう。

その際に、彼がしっかりと私のを両手で抱きしめてくる。

「しは落ち著け。慌てると危ないぞ」

「……は、はい」

ドキドキと心臓が早鐘を打つように律を繰り返す。

それと共に、まだ春先で巫服はが冷えるので抱きしめられると高槻さんの溫でが溫められて心地いい。

「まったく――」

呆れた様子で、私から離れた彼。

「櫟原に聞いたが、學校で何かあったのか？」

「――え？」

「だから、學校で何かあったのか？　と、聞いたんだ。大方、予想はつくが指の事に関してか？」

その言葉に私はコクリと頷く。

「そうか……。すまなかったな」

「――え？」

「もうし配慮するべきだった」

いつもとは違って神妙な素振りを見せてくる高槻さんにし驚く。

私の知っている高槻さんは『仕事だから、我慢しろ！』くらい言ってくるのに！

「それで、何があった？」

その言葉に、私は――、のから込み上げてくるをじた。

途端、彼が慌てて「莉緒、どこか痛いのか？」という言葉を掛けてくる。

「何もないです……」

學校の事に関して彼に言っても仕方ないというのは自覚している。

だから――、

「何もないなら泣かないだろう？　はぁー」

高槻さんは深く溜息をつくと自分の髪のを掻く。

「結婚前提の婚約について、莉緒の友達には話せるようにしよう」

「――え？」

「指について誤解をされたんだろう？　まぁ、そういう事態を招いたのは俺の失態だが……、だが莉緒が悲しむ顔を見るのは何だか分からないが嫌なんだ」

「総司さん……」

「勘違いするなよ？　円な人間関係は仕事で大事な要素の一つだからな！」

いつも冷靜な高槻さんの表が赤く見えるのは気のせいではないと思う。

「大丈夫です。私は、大丈夫です」

そう呟くと――、彼が私を強く抱きしめてきた。

「無理をするな。無理をすれば、かならずどこかで歪が生じる。お前と俺は、いまは一蓮托生なのだから、困った事があれば言えばいい」

「はい……」

いつもとは様子が違う彼に私は靜かに頷いた。