境の清掃を終えたあとは、母屋に戻り高槻さんがお風呂にっている間に朝食の準備をする。

食事の準備が終わったところで、居間で彼と一緒に食事を摂る。

「莉緒」

「…………」

「莉緒」

「――あ、はい」

「大丈夫か？」

「――え？　何がですか？」

「いや、何でもない。それより宮大工に舞臺の回収工事に早めにってもらおうと思うが、問題ないか？」

「それって、巫舞の？」

「そうなる。問題ないか？」

「はい」

高槻さんの態度に、々と思うところがあって上の空のまま朝食を作り食事を摂っていた私は、心ここに在らずと言ったじで頷く。

「そうか。それより、食がないようだが大丈夫か？」

「えっと……」

よく分からないけど、あまり食べがを通らない。

それでも食事を摂り終えた彼が私を見てきていたので、し食材が勿ないけど片付けようと立ち上がったところで、視界が暗転する。

「莉緒！」

彼の――、私の名前をぶ聲と何かが畳の上に落ちる音。

それが耳に響いてくると共に、何かに支えられるようながしてくる。

「…………高槻さ――」

「酷い熱だ。無理に話さなくていい。俺だ！　すぐに車を――」

焦ったような聲が聞こえてくるけど、すぐにその聲は小さく聞こえてきて最後には何も聞こえなくなった。

――聲が聞こえた。

瞼を開けると、テーブルの上には、たくさんの料理が並んでいて、全て私の好きな料理だった。

ケーキもあるし、フライドチキンなどもある。

「莉緒、これも運んでくれる？」

聲が聞こえてくる。

それは、とても懐かしい聲で――、私は『うん』と読んでいた漫畫本をフローリングの床の上に置き立ち上がる。

臺所に行くと、お母さんが居て――、

「莉緒、それも運んでおいてね」

「はーい」

勝手に、自分の口がく。

まるで何か過ぎ去った映像を見ているよう。

そこで私は【ここが夢の中だということ】に気が付く。

見ている幸せな夢の世界。

それは、まだ私が小學生だったころの誕生日の日の夢。

お母さんも生きていて、お父さんも優しかった時の――、本當に泣きたくなるくらいの幸せだったころの思い出。

それを――、その楽しかった時の追憶の記憶を、私は……、いま、見せられている。

もう戻ってこない過去の時――、「お母さん……」と呟いても、それは私の心の中だけであり、実際に夢の中でお母さんと話をしているのは小さな頃の私。

自分が発した言葉が、お母さんに屆くことはない。

誕生日の用意が終わって、しばらくするとお父さんが家に帰ってきた。

私の頭をでながら、プレゼントをくれて家族全員で語り合う本當に夢の時間。

「もう、諦めたのに……。こないって――、そんな時は、來ることは無いって知っているのに……」

どうして、私は――、こんな夢を見てしまうのか。

こんな思い出を見て、どうして中が掻きむしられるように痛いのか――。

「お母さん、お母さん……」

苦しいよ。

痛いよ。

辛いよ。

どうして――、どうして――。

そんな思いばかりが募っていく。

手をばしても、どんなにんでも、どんなに強く思っても屆かない過去の虛像。

ずっと心の奧底に蓋をして、しっかりと何重にも封をしていたのに、どうして――、いまさら……。

私は、もう――、そこまで考えたところで……ふと私の名前を呼ぶ聲が聞こえたような気がした。

「莉緒！　莉緒！」

「総司さん……？」

気が付けば目の前には、高槻さんの顔が見えた。

何か、額の上に乗っている気がする。

「先生！　莉緒が目を――」

「分かっています。それと落ち著いてください。……もう大丈夫そうですね」

先生？

一、何があったのか思い出せない。

ただ、すごく眠くて私は、また眠りについた。