「莉緒」

「大丈夫」

私は、笑顔で答えながら家事をしようとした所で、彼に腕を摑まれる。

「え？　総司さん？」

「莉緒は……」

「どうかしましたか？」

「お前は、大和という男を好いているのか？」

「そんな事……」

どうして、彼までそんな事を聞いてくるのか私は分からない。

ただ――、否定しようとする言葉が口から出てこない。

「そうか」

彼は、一人納得したように呟く。

「莉緒、今日の家事は良いから、外食に行くとしよう」

「外食ですか？」

「ああ、たまにはいいだろう？」

「……それって強制ですよね？」

「…………そうだな」

――なら、私が斷れるわけがない。

夕食は、駅前の高そうなフレンチを食べさせてもらった。

もちろんテーブルマナーを知らないけど、料理は味しく初めての食材ばかり。

家に戻ってきたのは午後9時を回っていた。

翌日からは、何時も通りの日常が始まる。

家事と、神社の境の掃除、そして巫舞の練習に社務所の商品の搬をやる事は山のようにあり、毎日が飛ぶように過ぎていく。

――そして、7月上旬になり巫見習いという事で、総司さんが募集をかけたアルバイトが二人ってきた。

仕事容は、社務所でのお守りを授けることなど。

おかげで稽古の時間が増えたこともあり、家の家事を含めて充実した毎日を過ごすことが出來た。

――そして……、7月下旬の夏祭り當日。

「ずいぶんと出店が集まりましたね」

「ああ、數年ぶりの高槻神社の巫舞だからな。地元のテレビ局も呼んである」

「そうなんですか」

私は、階段下に並ぶ出店を見ながら高槻さんと話す。

祭り開始まで、あと1時間ほどだと言うのに人の數も多い。

そんな様子を見て私は両こぶしを強く握り絞める。

「張するか？」

「――いえ。大丈夫です。練習はしてきましたから」

実際、大勢の前で踴るのは數年ぶりで、張していないと言えば噓になる。

だけど、母親との思いでの神社を潰させる訳にはいかない。

この夏祭りの巫舞は、本番の冬の巫舞の前哨戦とも呼べるもの。

「それに、失敗は出來ません」

「あまり肩に力がっているのも良くないからな？」

「はい！」

二人で會話したあとの數時間後。

私は、大勢の前で巫舞を披し――、何とか失敗せずに無事に終わらせることが出來た。

二人の巫見習いのアルバイトを労うと共に、片付けられていく出店などを見て、しだけ寂しい気持ちになる。

「寂しいものですね」

「そうだな」

すっかり日も落ち、人影が疎らとなった境にいるのは私と高槻さんだけ。

「瑞穂の方は、今回の巫舞は見て頂けたのでしょうか？」

「ああ、來ていた」

「そうですか……」

「実際、上手く舞えていたから問題ないと思うぞ？」

「ありがとうございます。――でも、これからですよね！　これから、冬の祭事があります。その時に――」

「そうだな」

彼は、そこで初めて笑みを浮かべると私の頭の上に手を置いてくる。

「これからのよろしく頼むぞ？」

「はい。がんばります」

冬の祭事たる巫舞を披するまで、數か月。

學校も含めて々とある事と考えると溜息しか出ないけど……、頑張って行こうと思った。

そして――、いつか穂や大和と仲直りが出來る時が來れるようにと祈りながら。