《冷徹曹司の無駄に甘すぎる豹変》7
スイートルームで抱かれてしまった。
初めてなのに長い長い行為をけ、も心もぐずぐずになってしまった。
全てが終わり、一息つくと激しい自己嫌悪と後悔が私の心を侵食し始めた。
何故こんなことを許してしまったのだろう。
彼は私の雇い主で、知り合ったばかりで、それ以前に私とは全く価値観が合わない。
私は無駄の塊で、彼は無駄を何よりも嫌う人。
ああ、こんなの絶対何かの間違いだ。
「いつまで照れてる。俺を向ろ」
烏丸さんは私のを背中からぎゅーっと抱きしめている。
をかわしている時も、そして今も彼は人が変わったみたいに優しい。
まるで寶を扱うような繊細なきで、私をたっぷり甘やかしてくれる。
しかし、そんな事があるわけないのだ。
(これは夢……そう、夢よ)
のあたりにクロスされている、彼のたくましい腕を眺めながら、私は心の中でそう唱えた。頭上にある彼の顎は、髪のを楽しむようにき私へのを繰り返している。
行為の間中、「好きだ」と何度も囁かれた。
そして全てを鵜呑みにできるほど、私は無邪気な子供じゃない。
一番の障害は彼の肩書き。
日本を代表する企業である、烏丸小路のCEO。
そんな彼と、本當に一何がどうしてこんな羽目に……。
(さよなら……しなきゃ)
起きてしまったことは取り戻せない。
しかしここから先は、1秒たりとも無駄な時間を過ごしたりしない。
多分私は怖いのだ。
夢を見ては失する。
ずっと、そんなことの繰り返しだったもの。
「おいこら、何を考えてる?」
くるりとを返されて、至近距離に彼の顔が近づいた。
獣のような鋭さを放つ瞳が、まっすぐに私を見つめている。
威圧にどきっとしたが彼の目は一気に和らいだ。
目が笑っているというか、そのせいで空気が甘いというか……とにかくこんな顔、絶対、魔王モードの時には見せないはず。
ギャップに満ちた表に愚かな私は翻弄される。ドキドキが止まらない。
「はどうだ? 痛みはあるか?」
語尾が甘く掠れている。
「大丈夫です……」
「それは良かった」
何故かが近づいた。
「ん……ふっ」
薄くて冷たいが私のそれに押し當てられる。
そのがとても気持ちいい。
たっぷり抱かれて弛緩したは、新たな刺激にずぶずぶける。
恥ずかしい。ただのキスなのに……。
が解けてしまうだなんて……。
歯列をなぞる舌のに、さっきけたばかりの初めての行為を思い出す。
太に固いものが當たり、彼も同じ想像をしているのだとわかる。
まだ彼は達っていない。このままもう一度、されるのだろうか……。
激しいキスが終わり、が離れる。
「俺の、気にった?」
くすり、と笑いながら彼は言った。
何のことだろう、と一瞬戸い意味がわかって
図星を突かれて顔が赤らむ。恥ずかしい。気持ちが落ち著くまで見ないでほしい。
「……君、俺を舐めてる?」
「え?」
「俺を殺しにきてるだろ」
「まさか……!」
「わかる? ほら」
太にいものが押しつけられた。
「すごいだろ。學生の頃に戻った気分」
恥ずかしい言葉が続けざまに耳の奧へと流し込まれる。
「……責任とって俺と付き合え」
とろけるように甘い言葉。耳の奧から全へと、甘だるい痺れが広がっていく。
私の瞳が左右に揺れる。
どうしたらいいのだろう。
何が……正解なのだろう。
「無理です……」
「どうして?」
意外だったらしく、烏丸さんは片眉をあげた。
きっと、フラれたことなど一度もないのだろう。
『噓は最もコスパの悪い行為だ』
烏丸さんの口癖が頭をよぎる。
なぜ今あの言葉が?
違和を覚えつつも、私は聲を振り絞った。
「烏丸さんのこと……まだ好きじゃありませんから」
自分でもびっくりするくらい、本気に聞こえる聲だった。
彼の表は変わらない。
それどころか、妙に楽しげにクスリと笑う。
「噓だな」
たちまち一刀両斷されてしまった。
「あんなにじてたのに?」
つ、と背中を人差し指がで下ろす。
ひゃん、と悲鳴を上げてをのけぞらせ、弾みで彼にしがみつく。
「いい匂い」
彼が髪に顔を埋める。
「やっ……」
「抱き心地がいい。聲もいい……何より可い。どうしても手放せないな」
歯の浮くような言葉が並べられ、私の顔にが上る。
「やめてください……烏丸さんらしくない……」
私は両手を彼のに押し當て突っ張って、熱いを遠ざけようとした。
「らしくない。その通りだ」
彼は私を強い力で抱き込むと、耳たぶにを近づけた。
「君に會ってから、奇妙なことばかりだ。責任とれよ」
「え?」
腕の力が緩み、熱いが離れていく。
烏丸さんが上半を起こす間にケットがはがれ、剝き出しのがあらわになった。
「……!」
慌てている私を見つめる楽しげな瞳。
右手をシーツの上に置いてを支え、烏丸さんは私をじっと見る。
改めて見ると、鍛えられた男っぽいだ。このが……私を抱いた。
「狙った獲は逃がさない。君の方から俺が好きだと言わせてやる」
自信に満ちた聲と表に、心臓がとくん、と甘く震えた。
魔王CEOのきまぐれに騙されちゃダメだ。そう思うのに、の鼓が止まらない。
拒否の言葉を遮るようにが重なり、陶酔のひと時が訪れる。
甘やかな初夏の香りの中、私と彼の、世界一無駄な関係が始まってしまった。
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