《男がほとんどいない世界に転生したんですけど》雨の日
雫は顔を真っ赤にさせながら優馬に抱きつく。
──心拍數は既に限界突破。呼吸も荒く、震えも止まらない。
雫にとっての初の試み……普通の男の人なら拒否するかもしれない。軽蔑されるかもしれない。だけど……優馬なら……そう信じ試した。
絶対に拒否されると思った。実際、そう言われたらすぐ離れて謝るつもりだった。……だけど、優馬は優しく私の事を包んでくれた。
……すごく居心地が良くて、暖かくて、なにより落ち著く。ずっと、ずっと、こうしていたいとも思った。
だけどそういうものは大抵長くは続かず、雫のでは本當に一瞬だった。
でも、どうして自分はこんな行をとってしまったのだろう?と、雫は自問自答する。
──なんでこんな理を抑えきれなくなった?……が盛れ出してしまった?ずっと、ずっと我慢していたから?
多分、私は……きっかけがしかったのだろう。そうじゃないと素直になれなかったのだろう。
化學の先生のあの目線は鋭く、恐ろしかった。逃げ出しそうにもなった。だけど、“優馬”のためなら…………
そう思うと、足に力がった。勇気が溢れた。意思が固まった。だから雫は逃げず立ち向かったのであった。
雫はもう一度自問自答する。
──優馬は私にとって、どういう存在?
“かけがえのない存在”…………今ではそう思える。
☆☆☆
雫を自分のから解放した。
俺的にはもっともっと抱きしめていてもよかったけど、これ以上抱きしめていたら、他人に見られたりするかもしれないし、俺の理が抑えきれなくなるかもしれなかった。
雫はし寂しそうにしながらも、ゆっくりと離れた。
「ぅっ………………………」
「……っっ…………………」
しばらく無言の時間が流れる。お互い、恥ずかしくて顔を見られないのだ。
數秒後、雫より早く落ち著いた俺が雫の事を見ると雫の顔がさっきよりも真っ赤に火照っていた。もう、湯気が出るくらいに。
まぁ、俺も顔が火傷をしたように熱い。多分、今の俺の顔は真っ赤になっているのだろう。 
そこから更に時間だけが過ぎ去り、雫がようやく落ち著いた所を見計らい、俺は聲を掛ける。
「行こっか、雫。」
「……ええ。」
いつの間にか、手を取り合って歩く俺と雫。
いつもなら、そんな流れなんて無い。
だけど、その時は本當に自然の流れだった。2人共、何も疑問に思わなかった。それは雫も同じだったようで後で2人それぞれで気付き、悶えることになる。
「……ふふ。」
「ん、どうしたの雫?」
突然笑みを見せた雫。そこまで笑う方では無くを余り表に出さない雫にとってそれは珍しい。
今は本當に高機嫌のようだ。
「……日曜日楽しみだなぁって。」
ボソッっと、俺にだけ聞こえるような聲で言う、雫。心から楽しみにしているのだろう。俺はそれを聞いて、冷や汗がダラダラと垂れる。
「……?どうしたの、優馬。」
雫の言葉を聞いて急に焦りだした俺の事を気にかけてくれる優しい雫だけど、今はその優しさが辛いや。
「うーんっと。ちょっといい、雫。」
「……どうしたの?」
俺の表を見てどこか察したのか、真面目な表で聞く勢をとる雫。
それを見て、覚悟を決めた俺……震える聲を抑えながら俺は喋り始める。
「えーっと、すごく言いにくいんだけどさ。明後日の日曜日に大事な予定がっちゃったんだよね。だ、だから、本當に悪いんだけどまた別の日に……お出かけを変更してくれないかな?……ごめん。」
俺は一杯謝る。
の子との約束を破ってしまう…………これは罪だ。今なら土下座をしても構わない。そのぐらいの覚悟だ。
雫は黙って聞いていた。顔は無表。さっきの高機嫌の表はどこかに行ってしまったようだ。
……一何を考えているのかが分からないけど、絶対にいいものでは無いはずだ。
よし………土下座するか!
俺は雫が何も言っていないのにも関わらず、両膝を地面に付き、手を付けて頭を下げようとした時──
「……待って、そこまでしなくていいから!ちょっと殘念だなと思っただけよ。」
完全に頭を著く前に雫に止められた。
「本當にすまないと思ってるよ。」
「……いいわよ。じゃあまた別の日に変更ということで、分かったから土下座だけはやめて。」
いつも通りの聲質で言う雫だったけど、それでもし聲が震えている気がした。それに、どこか寂しさも滲み出ているのをじた。
「悪いね……雫。」
「……大丈夫よ。って、この話はもう終わりにして早く教室に戻るわよ。」
時間を気にした雫が俺の事を立たせ、すぐに歩いて行ってしまう。
俺は、ほっと重く息を吐いた。
よかった。軽蔑されずにすんで……
でも、雫の俺に対しての好度は下がったはずだ。
よし、改めて別日に行くことになった雫とのお出掛け(デート)は絶対に功させてやる!と心に強く決めた。
「ま、待ってよ、雫!」
し気まずいけど、俺は雫の後を走って追いかけたのであった。
☆☆☆
教室に戻って來た俺と雫。
「優馬君、雫!大丈夫だった~~?」
由香子が心配そうに聲を掛けてきた。
「うん。大丈夫だったよ。」
「……ええ。」
俺と雫はほぼ同時に答える。
「でもね、雫~~ちゃんが咄嗟に飛び出していったときはびっくりしちゃったよ~~」
 
由香子は、雫の事をよしよしと褒めていた。
由香子の話を聞くと、雫が俺のために頑張ってくれた事が改めて分かり嬉しかった。
本當に雫には、謝の気持ちでいっぱいだよ。
「……別に良いわよ。」
「ていうかすごい個的な先生だったね~~」
「……ええ、不気味。」
「うん。そうだね。」
何でこの高校の先生に合格したのだろうか?と疑問に思うくらいだ。こんな先生、生徒に恐怖されるのは絶対に分かるはずなのに。
「親のコネとか、かな~~?」
「……いや、さすがに違うでしょ。」
「でも、この學校の唯一の化學の先生な訳だから、すごい人なんじゃないのかな?格には難があると思うけど。」
そんな雑談をしながら、今日の學校は終わった。
本當に々とあって長い一日だった。
☆☆☆
優馬達が化學室から出て行ってから數時間後。
放課後、化學準備室にて──
化學準備室とは、化學の先生が実験の準備をする場所。そこには実験で使用する危ない道や危険な薬品、生の標本が多くあった。
そこに、ドス黒いオーラを放つ毒牙 毒味がいた。
「キヒッ。あのクソが、私の邪魔をしやがって。私は優馬君ともっとお話していたかったのに。それを2人ともんでいたのに………絶対に許さないぃ!」
狂気じみた言葉を吐きながら、彼はある紙を力強く右手で握りしめていた。その紙は既にぐちゃぐちゃでボロボロ、原型を留めていない。
更に、化學準備室の壁には優馬の顔寫真がられていて綺麗にフォトフレームにれられて吊るされている。
それとは逆に雫の顔寫真には謎の薬品がぶちまけられていて、化學準備室の床でぐちゃぐちゃになっていた。
「キヒッ。私に……この私にあんな適當な噓をつくなんて………絶対に許さない。」
彼がそう呟き、雫の顔寫真を強く踏み付ける。
その一撃で雫の顔寫真は完璧に破壊され、ただの紙くずへと変化した。
……右手に持つ原型を留めていない紙にも更に力が篭もる。この紙は生徒會の今月の予定表だった。
それには今日、生徒會があるという予定は一切書かれていなかった。
何故、優馬君があのクソに話を合わせたのかは分からないが、そんな事よりもあのクソは私を……私の事を騙した。それが許せない。それだけは許さないッ。この、天才な私の事をコケにしたのだ!その報いは必ずけさせる。
───────────憎い憎い憎い憎い憎い。
───────────殺す殺す殺す殺す殺す。
絶対に後悔させてやる。あいつには生きている事を必ず後悔させてやる。
歯をギリギリと鳴らし、狂気じみた目で優馬の顔寫真を眺め、気の悪い笑みを浮かべる毒牙 毒味。
そうだ!優馬君はあのクソにしょうが無く話を合わせたんだ。脅されていたんだ!
本當は私とずっーとお話しをしたかったはずだと思うのに。可哀想な優馬君!私がすぐにあのクソから助けてあげるからね。救ってあげるからね!
だって優馬君は私の授業の時、率先して聲を出してくれたもんね!私といると楽しくてたまらないんだもんね。きっとそうだ。そうなんだ。そうに違いないんだ!
そう彼は間違った判斷をする。
今は彼の悪の実験場と化した化學準備室で、謎のがったフラスコに黃土のを加えてガラス棒でぐるぐるとかき混ぜる。
その作には迷いが無く、その作だけを見るとちゃんとした化學者だ。だが纏うオーラと見た目、狂気でそれはただのマッドサイエンティストとなる。
謎のは黃緑の水蒸気を発生させながら混ざり合い、明から徐々に緑のとなり、あまりにも毒々しいにへと化學変化した。
々と試行錯誤をし、モルモットも多く使い。
そしてようやく理想のが完した。
そのを注に數本移す。
1つはあの用。もう1つは予備用。あとは、もしもの時用に……と。
「キヒッ。遂に完。これをあのクソに注してやればあのは終わりね。キヒッ、キヒキヒキヒッ!」
化學準備室に奇妙な笑い聲が延々と響くのであった。
☆☆☆
俺と雫はいつもの様に下校しようと思い、學校から出た。さっきの話でしだけ気まずいじだけど、一緒に帰ることは変わらないようだ。
そんな中──────ザァァァァァァァァッッ!!
突然、大雨が降り始めた。その勢いは凄まじく、強風も吹く。
えっと、臺風かなにか?
そう見間違える程だった。
えっと、なんでよりによって今日なの?
天気予報ではずっと晴れてます。なんてテレビの天気予報士は言っていたのに………!?
だから、傘も持って來ていないし……
さてさて、どうしようか。
雨が止むのも待ってもいいかもしれないけど、全然降やむ気配がない。だったら、お母さんに迎えに來てもらおうとも思ったけど、最近は仕事で忙しそうだし迷を掛けたくない。
「どうしようか。傘もないし……走って行けばいいかな?」
距離的に考えて、それもありかもしれない。まぁ、風邪をひく確率は高まるけど。
「いや、それは絶対ダメよ。」
だけど、雫は俺の案を否定した。そして、雫はカバンから水の折り畳み傘を取り出して開く。
雫は予備として折り畳み傘を持っていたらしい。さすが用意周到だな。
「じゃあ、俺は學校で親が來るのを待ってるから、雫は帰ってて。」
俺から言ったら男として廃る。だから、今回は諦める事にした。──だけど今日の雫は一味、違った。
「……なんでよ。優馬もっていけばいいじゃない。」
そう、雫自らってきたのだ。なら、斷る理由も……無いよね?
「いいの?」
「……いいわよ。はい。でも、代わりに傘は持ってね。」
雫は傘を俺に渡し、ピタッと右側に著した。
う……このじ、雫を抱き締めたことを思い出す。
「ははは……今日はやけに著する機會が多いね。」
「……ええ。そう見たいね。」
雫は下を向き答える。でも、俺の右手の制服をちょこんと握り、離そうとはしなかった。
折り畳み傘は普通の傘より持ち運びが楽な分、雨から守る面積が小さい。完全に1人用のだ。
なので、どうしても相合傘ではどちらかがしだけはみ出して雨に濡れてしまう。
だから、その分近く近くへと著する。これが相合傘の利點か!!と、青春をじる。いつもよりも圧倒的に近い距離にドキドキするけど、離れると雨に濡れるのでしょうがない。うん……しょうが無いのだ!
俺は思いっきり著し、歩みを進める。
「それじゃあ行こうか。」
「……ええ。」
息を合わせて、できるだけ雫が濡れないように歩く。一応、俺は傘にらせてもらっている立場なので、貸してくれている雫を絶対に濡らす訳にはいかない。なので、持ち手の傘をなるべく雫に近付けて濡れないように気を配りながら進む。
俺は既に左側のほとんどは濡れてしまっている。もう、傘の意味をしていない訳だけど。別にいいのだ。この空間を存分に楽しめれば……
でも、雨は全く止む気配は無く、逆にどんどん強くなって行く。更に、雷雲のような黒い雲が近くにあり、ゴロゴロと雷の前兆のようなものが聞こえた。
俺がそう思った次の瞬間──
ゴロゴロ、ピカッ!ドガァ━━━━ンッッ!!!!
空にイナズマが走り、音と共に近くの避雷針へと雷が落ちた。
予め、予想は出來ていたけど。それなりに驚く俺。
だけど、雷が怖い様じゃ男としてとてもカッコ悪い。
でも、俺は雷よりも驚く事が今この瞬間に起こってしまっていた。
「……きゃぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
雫が悲鳴を上げる。その悲鳴は雫と出會った中で1番の聲量だった。
「うおっ。って、えっ?雫ッ!どうしたの?」
雫は、無我夢中で俺に抱きついて來る。その勢いと、行の大膽さに驚き、そのせいで傘を落としてしまった。
雨はモロに俺と雫を打ち付ける。
だが、そんな事お構い無しに雫は俺から離れようとしない。こんな取りした雫は初めてで俺は揺を隠しきれない。
既に俺と雫は、髪も制服もびしょ濡れ、もう傘を差す意味もあまり無い。だから、まずは雫本人の事を落ち著かせようと判斷した。
雫は小刻みに震えている。それは、寒さから來るものでは無い、恐らく怖さから來るものだ。まるで食に襲われ、それに怯える小のように小さくなっている、雫。
いつもはクールな雫だが、今日はんな顔をする雫が見られるな。
「……ご、ごめん、優馬。わ、私ね、いころから雷がどうしても苦手なの………」
それだけ言ってまたプルプルと震え出した。
「雫、1回落ち著こう、な!大丈夫だよ、雷は高いところにしか落ちないから。俺達に落ちる確率はかなり低いから、ね。」
「……でも、100%落ちない訳じゃないでしょ?」
「いや、まぁ。そうだけど。だったら、尚更ここでビクビク震えているよりも、安全な場所に移した方が落ち著くよ?」
「……う……でも。」
雫にも分かっているはずだ。だけど、恐怖で足がすくんでしまっているのだろう。
「……私、怖くて歩けないっ。」
無理だと雫はぶ、だったら……
「じゃあ、俺がおんぶで運ぶよ!」
「……ダ、ダメっ!おんぶなんてしたら、その分長が高くなって雷が落ちる確率が上がるでしょっ!」
本気で拒まれた。確かにそうだね、と反省する。
「じゃあ、俺が手を引くから。頑張って著いてきてね。」
雫は既に恐怖で正常な判斷は下せないだろう。なので、有無を聞く前に俺は雫の手を摑み走り出す。(ちゃんと、雫の折り畳み傘は回収した。)
雫は何も言わずに俺に引っ張られる。でも、安心したのか雷が近くに落ちても悲鳴を上げなくなった。雫は頑張っているのだ。
ならば、俺も頑張らないと。
雨で走りにくい。いつもより早く息が上がる。
風が強く、中々前に進まない。雨が強く、寒い。
雷がゴロゴロと鳴り響き、怖い。
だけど、雫の為と思ったらビビりでヘタレな俺にも力が出た。そうして、俺の家まで雫を連れて走り切った。門を急いでくぐり、家のドアの前まで到著した。
ここならば、ちゃんと屋があるので濡れる事は無い。
「はぁはぁはぁ……」
「……はぁ、はぁ。」
2人共、息が切れ切れでしばらく呼吸を整えるのに時間を要した。
數秒後、俺は雫に聲を掛ける。
「勝手にごめんね、雫。でも、俺らずぶ濡れだった訳だし1回俺の家に寄って行かない?」
もう、俺の家だけど……ね。
そう提案すると、雫はギョッと驚く。
「……でも……本當にいいの?の私が男の優馬の家なんて行っても………?」
「全然いいよ。……と言うか普通に歓迎するよ。」
俺は快く雫を迎える。
でも、雫は中々歩を進めてくれない。
──それで、俺は気付く。異を家に招くという事はハードルがえげつない程高い、と言うことに!
それに、俺のい方も不味い。こんなのカッコイイとか、クールとかじゃ無くてただのナンパ野郎じゃないか!?←よく、ナンパとか知らないけど。
「そ、そ、それにまだ雷がなってるし、今の雫を見ていると逆に心配だよ。な、な、何もしないから!」
俺は慌てながら、そう伝える。
「……えっ、そうなの?そうなんだ……だよね。」
でも、雫はなんだか微妙な表になっていたのはよく俺には分からなかった。
「じゃあ、いいって事で俺ん家にるよ。っと……し急がないとね。」
溫が高めの俺も、雨に濡れた事により寒くなって來た。早くタオルで拭いたり、お風呂にってを溫めた方がいいな。
「……お、お邪魔します。」
雫は観念したのか、雨で濡れているのにも関わらず、顔を真っ赤にしながら言うのであった。
──相変わらず、可いやつだ……なんて、が寒くても、心はいつまでもポカポカなままの俺なのであった。
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