《男がほとんどいない世界に転生したんですけど》別に俺は出狂では無い!
「ただいまー」
俺と雫はずぶ濡れの狀態で家にった。
家はいつもとは違い、靜かで俺の聲がよく響く。
數秒後、俺の聲を聞いてドタドタと走ってくる音が聞こえた。
「お兄ちゃんおかえりーっ。………………え!?」
茉優はずぶ濡れの雫の姿を見て固まった。口をあんぐりと空け、今にも気絶しそうだ。
俺も茉優と同じように固まった。今は絶賛兄弟喧嘩中?で、茉優とは正直気まずかった。それでも茉優は仲直りをしようとしたのだろう……いつも通りに接しようと俺の事を迎えてくれたはずなのに──
茉優は涙をポロポロと落とした。
それは、“妹”としてのものでは無い。そんな気がするガチの涙だ。
「ううっ、お兄ちゃんの浮気者ぉっ━!」
「ま、待ってくれぇぇぇぇー、茉優っっッッ!」
茉優はびながら走って2階へ行ってしまった。
俺もすかさず追いかけようとしたが、ずぶ濡れだし雫の事を置き去りに出來なかった。
「……優馬、あなたってシスコンなの?こんな仲が良さそうな兄妹は初めて見たけど?」
不思議そうに雫は聞いてくる。
この狀況で俺と茉優の仲が良さそうって思えるのか?
「え?いや、シスコンって……さ。」
シスコン……それは妹が大好きだということ。
く……………………ひ、否定できないッ!
よく考えると、俺は一切否定出來なかった。
茉優の事が大好きなのである。勿論、“家族”としてのだけど。
「う、それはそうかもしれないかもね。」
雨で濡れているから冷や汗はバレないけど……
今の俺は冷や汗がドバドバと出ていた。
だって、初めての子を家に招きれたら自分がシスコンだということがバレてしまったからだ……
「……そうなんだ、妹想いなのね。」
でも、なんだろう。雫はどことなく機嫌が良さそうだった。珍しく笑顔も見れた。
「って、茉優にタオルを持ってきてしかったな。」
流石に2人共このままだと、風邪を引いてしまう。
まだ、季節的にも寒い方なので普通に辛い。風呂にも今すぐにでもりたい。
雫も俺と同じで、カタカタと細かく震え始めていた。
ずぶ濡れだけど、このまま家を濡らしてタオルを取りに行くしかないか……
「……所で、その優馬がしている時計…煙が出てない?」
俺は今まで、頭がてんやわんやで気付いていなかったが、俺の左手に著けているお母さんに貰った時計から真っ黒い煙がモクモクと出ていた。
「え………?うわッ!!??本當だッッ!!!」
俺は急いで時計を外した。燃えている訳ではなく煙が出ているだけだったので熱くはなかったが、そのため気づくのに遅れた。たぶん、雫に言われなかったらしばらく気づいていなかっただろう。
「え、噓だろ噓だろっ!」
時計は畫面が完全にバグっていて、既に時計という役割は果たせなくなっていた。畫面に何度もタッチしても何も作はしない。
雨水で故障してしまったようだ。
「うう、せっかくお母さんに買って貰ったのになぁ………」
「……珍しく、防水じゃなかったのね。」
俺は項垂れる。大切に大切に壊さないように扱ってたのに……まさか、この時計が防水じゃないとは……完全に予想外である。
「……し見せて。」
俺は何も言わずに雫に時計を手渡した。
雫はその時計を眺めたりったり々としていたがどうやってもかなくなっていた。
相當ガッカリした。だって……まだ1週間も付けていないんだぞ!
この時計って確か相當高かったと思うし、本當に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
というか……この狀況って相當やばいんじゃないのか?
ずぶ濡れな雫もいるし、時計も壊れちゃったし。
このままお母さんが帰ってきたりでもしら……大変まずいこととなるのでは……?
「っ………雫──」
俺はなるべく早めにを溫めて、時計を隠そうとした。お母さんは最近忙しいから、まだ帰っては來ないだろうから大丈夫であろうけど……
でも、そういう時に限って───
「ただいまー。優くんーいる?お母さんだよー!すごい雨だったね!大丈夫だった?………ってえッ???」
ちょうど良くお母さんが帰って來てしまった。
お母さんは勢いよく家のドアを開き、雫が視界にった瞬間に固まった。茉優と全く同じ反応である。
「あ、あっと。えっとね、まずおかえりなさい、お母さん。それでさ……」
俺は茉優の様に話がズレないように、すぐに話を切り出そうとするが──
「──イヤぁぁぁぁぁぁッッ!!!ゆ、優くんがの子を連れてきてるぅぅ。なんでぇっー、まだ學して1週間経ってないのよぉー。それに、私はまだこんなの子に“お義母さん”なんて呼ばれたくないわよぉー」
俺の言葉は、お母さんの悲鳴でかき消されてしまった。
「お母さん、落ち著いてよ!雫とはそんな関係じゃ無いから。雫はクラスメイトで雨で濡れたから雨宿りで家に招いただけだから…………」
お母さんは相當なショックだったのか俺の聲が聞こえてないのかブツブツと何かを言い始めた。
「優くん………優くん………。私のかわいいかわいい優くん………」
まさに修羅場。浮気現場に婚約者がしてきたかのようなじだ。
雫は下を向いていて、なにも喋らなない。雫にもちゃんと説明をしてしいんだけど……張しているのか!?
「1回、落ち著こう。ね、ね!」
俺は頑張って1人の力だけで、お母さんを落ち著かせようとしたが全くお母さんは聞く耳を持ってくれない。
「優く…………ん。」
そして、力盡きたのかお母さんが崩れ落ちた。
「え、お母さん…………?どうしたの?」
俺は咄嗟にけ止めようとしたが、すかさず後ろに控えていたかすみさんがお母さんをけ止めた。
このかすみさん。家の家政婦さん兼お母さんの助手?運転手?みたいなものをやっていて大抵お母さんと一緒にいる。
でも、俺はそのぐらいしか報を持っていないという謎の多い人でもある。
そのかすみさんは黒いスーツ姿で珍しく仕事モードのようだ。
かすみさんはお母さんをけ止めつつ、真っ白なバスタオルを2枚俺に渡してきた。
「お母様には私から説明をしておくので、を拭いておいてください。お風呂も沸かしておきましたので。」
簡潔に要件を言いお母さんを肩に擔ぐ。
あはは……お母さん、白目を向いて気絶してるや…
「あ、ありがとうございます、かすみさん。助かりました。」
俺のお禮を聞き、コクっと一禮をしてかすみさんは奧の部屋へお母さんを擔いで消えて行った。
「はい。これで拭いて。冷えてると思うから、なるべく水分を取って溫まってね。」
俺は雫にそう言ってタオルを渡す。
「……ええ。ありがと。所で、なかなか個的な家族なのね……」
「うん。俺も常々そう思うよ……………」
俺は頭にタオルを被せ、ゴシゴシと拭く。タオルはふわふわので最高な仕上がりだ。それに吸収も素晴らしく、かなり濡れていた髪もそれなりに吸い取ってくれた。
雫は制服の上著をぎ、ワイシャツ姿になってを拭いていた。
「………………………っ。」
ワイシャツは薄い生地なので、濡れるとける。
うん………雫の水のブラジャーがバッチリけて見えていた。
「あの……雫、前隠した方がいいよ……」
俺は咄嗟に手で両目を隠して後ろを向き、雫の現狀を教えた。
「……っ。ありがと。」
雫は恥ずかしながら俺から正反対の方向を向き、隠す。
「……って、私なんかよりも優馬が隠した方がいいんじゃない?今、中々すごいことになってるわよ?」
「え、そう?」
雫に指摘されたので俺は今の自分の現狀を確認する。
俺は今、雫と同じワイシャツ姿になっている。勿論、ワイシャツはけているがそれがどうしたんだろう?
別に大したことは無いんじゃないのか?
そんな事よりも雫の方が大変だろう。
「別にいいんじゃないの?それぐらい。」
「……優馬って、そういう癖とか、何かなの?」
「ん…………どーゆこと?」
「……だって男の優馬がを隠そうともしないし、そういう癖なのかなと思ったのよ。」
あ、そうか……忘れていた。
この世界は男が圧倒的にないため男の価値観が違うのだ。転生する前の世界みたいに普通に男がを見せたりしてはいけないのだ。
ってことは俺は出狂みたいではないか!
そう思ってくると、心の中から恥心が溢れ出る。
「いやいや、違うからね。別に俺は気にしないだけだから。」
咄嗟に考えて理由を言ったけど、誤解されてないだろうか?し不安だな。
「……そう。ならいいけど。」
「お、そうだ。雫、お風呂にでもって行く?」
お風呂が沸いた音が鳴っていたので、雫をう。
もちろん、レディファーストでである。
「……お、お、お、お風呂!?優馬の家の?」
あからさまに揺を見せる雫。反応を見てて面白いけど、流石に異の家のお風呂は嫌かな?
彼でも婚約者でもないのに……ハードルが高いかな?
「……ご、ごめんなさい。わ、私は、大丈夫よ。」
「そ……そうだよね。流石にね。」
「……ええ、お風呂もお借りしたら、悶え死ぬから。」
雫は申し訳なさそうに斷られた。
何となく答えは分かっていたため、大丈夫だけど自分の考えの淺はかさに後悔する。
「ん?」
でも“悶え死ぬ”というパワーワードも雫から聞けた事だし…まぁ、よしとするかな。
「……いつの間にか外、晴れてるわよ。」
「お、ほんとだ。」
どうやら、雨は止んでいたようだ。
もうし降っていれば良かったのに……そうすればもうしだけ一緒にいられたのに、一緒にこの家にいる理由が無くなってしまった。
「……じゃあ。タオルありがとう。私は帰るから。またね、優馬。」
「う、うん。また。來週の月曜日にね。」
雫は俺に使い終わったタオルを丁寧に畳んで渡し、家を出て行った。俺は家の門の所まで送ったのだった。
☆☆☆
「……ふぅー。」
雫は優馬の家からし離れた所まで歩き、深く深呼吸をする。
大雨が止み、所々に大きな水溜りができている帰り道。水溜まりを避けながら自分の家に向かう。
雫の足取りは軽く、今にもリズムを刻みそうな程だ。
ほんとに……優馬といると良い意味で心臓に悪い。
今日は……雫にとって初めての事が沢山あった。
優馬に優しく抱きしめてもらったり、手を繋いだり、頭をでて貰ったり、優馬の家にもる事が出來た。今、それを思い出すだけで心臓の鼓が早くなる。呼吸が荒くなる。顔が熱くなる……
は雨で芯まで冷えきっているはずなのに……ここまでの変化だけでが溫まるなんて不思議でならない。
もう……完全に私は優馬の虜なのかもしれない。
いつも優馬の事を考えている。いつも優馬のことを見ている。もう私にとって“優馬”とはかけがえのない存在なのだ。
雫は一旦、頭を整理して自分のを認める事にした。
雫は制服のポケットからある時計を取り出す。それはシンプルな時計。でも、作りは綺麗で高価そうだ。──でも、それは壊れている。
これは優馬のだ。優馬の時計を雫が貸してもらっている時に、お義母さんが帰ってきてしまい、何処かあやふやになってしまったのだ。
また、月曜日…優馬に返さないとね。
……でもこれって、いつも優馬が付けてるのよね。
雫はいつも優馬がにつけている時計の事を知っていた。
……しくらいいわよね。どうせバレないし………例えバレたとしても優馬なら許してくれそうだ。
出來心で雫はに付けてみたいに襲われる。
……いいよね?優馬なんだし。
雫は優馬の時計を左手にに付ける。
優馬の時計は全く機能していなくても、晴れたのを反して輝く。
「……ふふ。」
し嬉しくなった。人がいる前では絶対にしない笑い聲も出てしまうほどだ。まるで優馬の彼になったような高揚も得られた。
「──キヒッ。隨分と楽しそうね 雨宮 雫さん。」
突如、怪しげな人の聲がその場に響いた。
「……え?…だ、誰?──────痛っ!!」
後ろを振り向こうとした瞬間に、右腕にブスリと痛みが走る。
痛みに我慢しながら腕を見てみると、腕に注が刺されてあり、自分のに明な薬品が注されていた。
「……う、何を………ッっっっ!」
雫は咄嗟に注を振り払い。距離をとる。
ガシャァンと注は地面に落ちて砕け散る。
薬品は半分ほどしか注されてはいないが、すぐに効果は現れる。
急に視界が、かすみ始めた。
に力が抜け始め、手足が痺れる。
立っていられなくなりその場で雫は崩れ落ちた。
「……ぇぅ。」
けすら取れず地面に衝突し全を強打する。
まだ意識が殘っている中、最後に雫に注を指した相手を見た。全黒ずくめの服を著ているが顔の部分は何もつけておらず顔を見ることが出來る。
雫は執念で相手の顔を見る。
「……っ!?」
雫はその相手の顔を見てゾッとした。全が大音で危険だとんでいる。
でも、逃げられない。
「……な、何で……ですか……毒牙先生っ……?」
雫はゆっくりと意識を失っていった。
「た……すっ………け、」
助けて……優馬ッ!
無くなりかけた意識の中、雫はかけがえのない人のことを思った。
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