《異世界戦國記》第七十三話・斎藤家の夜
これから一どうなってしまうのだろうか……?
私は稲葉山城より見える織田家の陣地を見ながらそう考える。織田信秀は手勢を集めると僅か數日で加納城を落とし稲葉山城にやってきた。昨日は土田政久が裏切りこちらに攻撃を仕掛けてきた。小勢だった為簡単に追い払えたがそうしているうちに城は半包囲された。
「若、そろそろ就寢した方がよろしいと思います」
私が一人考えていると日野弘就が聲をかけてきた。若手の中で一番出世している人でこの度父上より私の直臣となった人。不破や岸と共に私を支えてくれている。
「分かった。弘就も気を付けよ」
「はっ!」
日野に軽く挨拶をし私は橫になり眠る。本格的な戦は明日からだろう。今日がゆっくり眠れる最後の人なるかもしれない。織田家は総勢八千、こちらは半分の四千。城攻めには敵より三倍の兵が必要と言われており且つこの稲葉山城は日の本でも上位にる鉄壁の城だ。簡単に落とせはしないだろう。
とは言えそれでも不安はある。父上は私に死んでほしいと思っているのだろう。ここ數日だけで濃者の間者に幾度か命を狙われた。恐らく織田信秀による暗殺と思わせる為だろう。全て岸や日野たちによって返り討ちに遭っているがそれでも危険な事には変わりはない。
私の予想としては暗殺が功すれば大なり小なり城は混する。その隙をつき門を開け織田軍を招きれ稲葉山城を占領、私を支持する若手諸共殺すつもりなのだろう。父上は城にそこまでこだわりを持っていない。敵に落とされるときに火でも放つかもしれないな。そうなれば後は弟たちを嫡男にするだろう。朝倉家と言えど父に勝てるとは思えない。朝倉家を退けた後は奪われた城を取り戻し元の國境線で和睦、それが考え得る父上の思だ。
「織田信秀。お前とは何もかも違うな」
織田信秀は15の時には家督を継いだという。家中で反対する者はおらず弟たちとの仲も良好だという。対する私は父に疎まれ弟たちは虎視眈々と私の座を狙っている。私を支持する者の中にも父とつながる者もいるだろう。
……よそう。他人と比べたところで意味がない。此度の戦で信秀を退けるなり討ち取るなりして功績を殘せば父に従う者の中にもこちらに轡替えをする者は現れるはずだ。そうすれば父を隠居に追い込むなり蜂起して殺すなりが出來る。
「織田信秀……。貴様は私が討ち取る」
私は右腕を上げ拳を握って決意を新たにするのだった。
「弘就、若の様子はどうだ?」
「あまりよろしくは無いな」
若、高政様の下を離れた俺は同じく若手の岸信周に聲をかけられた。岸信周は武勇に優れた人で若手の中では一番の実力者だ。それでいて信周本人は利政様より高政に忠誠を誓っておられる。というよりこの濃で本気で利政様に忠誠を誓っている者など明智殿を除けばごく數だろう。
「仕方ない事かもしれん。こちらは四千だが敵は総勢八千。二倍もの差がある上に敵は林道安、佐久間信晴などの家老から前田利昌、柴田権六などの若手までそろっている。まさに織田家中が勢ぞろいしているがこちらは高政を含め全員が若手……。兵も將も織田家に劣る」
「だからこそだろう。ここで我らが勝利を摑めば若の名聲は上がる。いずれ利政様を追い出し濃の君主となる事が出來る」
「……そうだな。俺だってそうなってしいと願っているからな」
信周はこの狀況においても勝とうとしているのか。俺は、し諦めていたな。篭城を決め込み敵が去っていくのを待っていればいいと考えてしまった。しかし、それではいけないと信周のおかげで分かる事が出來た。
「よし、俺は本丸を降りて自分の軍に戻る。お前も敵を倒して信秀の首を取るつもりで頑張れよ」
「勿論だ。お前こそ相対するのは裏切り者土田政久だろう? 裏切りがどういった行為なのかを教えてやれよ」
「ふん! 言われるまでもないさ」
俺たちはそんな話をして別れる。いよいよ明日には攻防戦が開始されるだろう。我が主君、高政様の為に。俺はそんな気持ちを抱きながら自軍の下に戻るのだった。
翌日、後に織田信秀が行った戦の中で有名になる【加納口の戦い】若しくは【稲葉山城攻防戦】が幕を開けるのだった。
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