《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第63話 シゼリア海戦
辺り一面の海と雲に覆われた空。
そして穏やかな海の真ん中で200を超える船団の中心。
そこで2人の男がデッキでタバコを吸いながら寛いでいた。
「フゥ〜、船の旅はいいものだがこう何日も揺られているとやる事がなくて困るな〜」
と呟く。
「全くです。航海の最中、水の神のご加護か天気も荒れる事はなく、これと言った問題もなく進めて運が良かったのはいいのですがこうも何もないと兵達が緩んでしまわないか心配です」
「そうだな。素振りくらいしか出來無いからな、が鈍りそうだ。出來るなら戦う前に一度演習を行いたい」
「敵地でそれは厳しいかと思われますが……。ポルネシアについたら即座に移、背後から強襲の予定でありますから」
「わかっておる。言ってみただけだ」
そう言いまた溜め息を一つ吐く。
もう1週間近く船に揺られているのだ。本當にやる事が無い為、暇を持て余していた。
々が同じく暇である部下達とな上陸作戦とその後の行、また起こりうる予定外の敵の行をいかにして退けさせるか、などを話し合うくらいだ。
だがそもそも作戦は既に本國ガルレアン帝國で決められている。
言うまでもなく、おいそれと変えられるものでは無い。
不測の事態が起これば変える可能はあるが基本はここのままだ。
「それにしても、たかだか小國程度にここまでするなんて。
どう見ても明らかにやりすぎかと思いますが……」
この將兵は別に若くは無い。だが老將と言うほど年寄りでも無い。
數多の戦を経験しているし前回のポルネシア參戦によるリュミオン王國侵略の失敗も勿論知っている。
だがこれは明らかにやり過ぎだ。
「まあな。いわゆるお國の事というやつだ。我らが皇帝陛下はもう失敗が出來んのだよ。前回ただでさえ疲弊している時期に小國に戦爭を仕掛けてあろう事か敗北を喫した。
今度も失敗したら間違いなく陛下の威信は地に墮ち、になるだろうな」
「それはもちろん私も知っていますが……。ポルネシアはここまでするほどの相手なのでしょうか?」
「強い……と言うよりは小國の癖に粒者揃いが多いのは確かだな。
まずは前回我ら帝國を散々打ち負かしたオリオン家、更に魔法の一族コリドー家、エルフとの境にいる翼人族、それに森エルフの國と隣接している恩恵か國の北側はえている地が多いと聞く。つまり金がある。
特に今回は我が國は竜騎士を連れて來ておらん。翼人族などが現れたら優先的に撃破する必要があるな。
空からの奇襲はたまらん」
と冷靜に分析する。
だが、と続け、
「ここまでやる必要は流石にないな。
陛下は何をお考えなのか……」
と愚癡をこぼす。
彼らは陸兵だ。
わざわざ遠回りをしてまで船で移しなくても陸から大軍でポルネシアを牽制すればいいではないか、と未だに思っている。
やれと言われればやるが不満は當然ある。
「そうですな……。
ん?し前の軍船が騒がしくなってます」
「本當だな。何があったのだろうか?」
と疑問に思ったので近くにいた水兵を呼び寄せる。
「おい!何があった?」
するとその兵はすぐに敬禮し、
「ハッ!前方に広範囲の霧が発生しており、現在避けて通るかそれとも避けずにし前の辺りで待機か検討中です」
と説明した。
「通り抜けるのは?」
「船同士の接などがあり大変危険です!」
「そうか……」
海だとそういうことがあると聞いたことがある。
するとすぐに別の兵が來て
「ルード將軍!艦長がお呼びです」
と言われる。
(私か?平地ならともかく海の知識はないぞ?呼んでどうするつもりだ?)
と思っだが斷る理由もないのですぐに行くと伝える。
そして艦長室に著く。
「お待たせした」
「わざわざ足を運んでくださり謝します」
「いや構わない。
それより何用だ?」
「はい。簡潔に申し上げますと霧を避けて通るか、それともし離れた場所で待つかでご相談です」
いまいち要領が摑めない。
「海は専門外だ。もうし詳しく説明してくれ」
「はい。海上で霧が発生するパターンは二つあり、早朝などに起こるただの霧、それと魔力が地下から噴き出したことによって起こる霧。
今は夜中ですから前者はありません。
ならば後者の魔力によって出た霧です。
偶に海上でダンジョン化する事もあるそうですが、數日前に偵察船を送ってます。もちろんそんな報告はありませんでしたからただの霧でしょう。
ただ問題なのは、偶に霧の発生源が固まっている事がありまして遠回りで移すれば、移している最中に突然霧に包まれる可能があります。
ここに留まれば安全にこの霧をやり過ごせます。ただしその代わり半日から1日ほど停船を余儀なくされます」
「なるほど……。ならば安全を優先。急ぐ必要はないのでな」
ポルネシアの倍近い水軍が第一陣にはいる。海戦にはあまり詳しくはないが1將軍として陸と海の戦いの違いくらいは頭にれている。
陸の戦いでの優先順位は1に個、2に數、3に作戦だ。
強力な個がいれば本的に戦い方が変わる。レベル7の魔法使いが10人いる。彼らが詠唱するまでの時間を稼げれば軽く城が一つ落ちるのだ。
そんな事そうそうないが。
だが海戦は違う。
海の戦いの優先順位は1に數、2に作戦、3に個だ。
海での戦いは基本集したりはしない。
レベル7なんて基本外には出しはしないが仮に出しても、一回の長い詠唱で壊せる船の數は高々一つ。
それに仮に船を燃やしたとしても一瞬で炭にはできない。
燃えたまま戦う兵はいなくても燃えたままく船はある。
移の最中に燃えたまま舵を失った船が海面をるようにして自分たちが乗った船に突撃してくる可能がある。
過去にレベル7の魔法師が敵の船を風魔法で真っ二つにしたのだが、その船は二つに裂けても止まらずに魔法師側の船2隻に激突して沈ませてしまった、という笑い話まであるのだ。
それにレベル7の魔法使いなんて早々量産出來ない。
そんな貴重な存在を逃げ場のない船の上に乗せたりはしない。
ポルネシアの水軍の數は何度も偵を送って本國が調べてある。
それに完全に不意打ちだ。
そんなすぐに作戦を思いつき実行できるはずもなく、敵も慌てふためいているだろう。
こちらから仕掛けない限りほぼ間違いなく戦いになりはしない。
ゆっくりしている暇はないが、急ぐ必要もない。
第一陣も第二陣に迷をかけない程度に逃げるように言われているしそもそもこの第二陣は上陸用の船が圧倒的に多い。船同士の戦いに參加するわけがない。
「畏まりました。では、停船させます」
そう言って部下に指示をして、全艦が停船する。
「それにしても災難だな。ポルネシアを目前にして足止めをされるとは」
もうあと目と鼻の先にポルネシアの領海がある。
その間近で不運にも珍しい霧に立ち會う事になるとは。
「いえ、道中何もありませんでしたから、予定よりも2日早いです。
いつもはもっと荒れたりしますのでこれくらいは災難のにりませんよ」
突然の嵐に巻き込まれる事も、高波で舵取りが困難になる事も、強力な魔が現れて船に食糧を積んで代わりにする事もなかった。
非常に運がいい。
「そうかそうか。
水の神のご加護が我らにポルネシアに侵攻せよと後押ししているようだな」
と愉快に笑う。
「正にその通りですな!ハッハッハ……!」
と笑い合う。
すると次の瞬間、
ブワッという音ともに辺りが一瞬にして霧に包まれる。
「ウオッ!!??な、なんだ!?何事だ?敵襲か?」
「落ち著いてください將軍!ただの霧です。恐らくこの辺りが先程言った霧の発生源が固まっている場所だったのでしょう」
「そうか。なるほどこれが……。かなくて正解だったな」
とをで下ろす。
「はい。本當に良かったです。
もしいていれば船同士の接の可能がありましたから」
とさらなる運の良さに喜ぶ。
「では、全艦に錨を降ろさせて待機をさせます」
今度は本格的に待機をするようだ。
錨を下ろすのは霧が出た時の當たり前の対応だ。
なんとなく、本當に何の前れもなく嫌な気分になる。
「これが敵の策略の可能は?」
と聞いてしまった。
「はい?ハッハッハ!」
とつい、といったじで笑われてしまった
真剣に言ったのでムッとしてしまう。
「あ、いえ、失禮いたしました!
ですがありえませんよ。そもそも我々がここに來る作戦はでしたし、仮にバレていたとしても地上ですら魔力が溜まる場所の特定は今現在の技でも不可能です。海上なら尚更でしょう。
どう考えても偶然ですな」
心のもやもやはまだとれない。
だが、それでも専門家にそうと言われれば納得せざるを得ない。
故になるほど、と納得する。
そうこうしている間に全艦は錨を下ろし(勿論全艦は見えないのだが)本格的に停船する。
それからまたしばらく経った時だった。
ドォーーーン!!ドォーーーン!!
という2回の大きな太鼓の音が
ドンドンドンドンドンドン
と連打する音に変わり、次の瞬間!
「「「ワァァァァーーー!!」」」
という咆哮が周りからあがる。
「なんだ!!??今度は何事だ!?」
と狼狽えてしまう。
地上なら即座に行するのだが船の上だとこういう時何をすればいいのかが咄嗟に思いつかなかったからだ。
だがそのすぐあと
ドォーーーン!!!
という何かでかいものがぶつかりあう音がする。
遅れながら味方側から響く、
「敵襲ーーーーーー!!!」
という聲で気付いた。
敵の罠にまんまと嵌められたのだと。
〜時はし戻り〜
「帝國船が予定通り霧の前方で止まりました」
と偵察から報告がった。
「予定通りですな。距離も程。
まさしく飛んで火にる夏の蟲」
帝國の停戦位置は俺が伝えているMPから算出される距離の程だった。
俺たちが考えている彼等の行パターンは3つ。
①  程で停船
②  右、もしくは左回りで停船せずにそのまま移
③  必要以上に距離をとり、程外で停船
もし③をとられていたら力押しになる。霧を解除しながら中から現れるように突撃をするしか方法がなかったからだ。敵にしであるが制を整える時間を與えてしまうため、犠牲も相応に出ただろう。
「はい。では彼等を霧で覆います」
俺の一番の見せ場。魔力遮斷マントをつけながらでは魔力が込められない。
つまり外す必要があるのだ。
當然パッシブスキルである魔力全吸収は発するためちんたらしているとこちらが見えてしまう。
敵は運がいいことに停船しているためこちらも準備にかかる。
まず霧にっていた全艦のうちの後ろ半分以上を敵とは反対側の外に出す。
そのあと前半分を霧の後方に下げる。
言うのは簡単だがこれが凄い神経を使う作業だった。
中型船はオールでの移も出來るため背面移が可能だ。だが味方のポルネシア軍も霧で周りがほとんど見えない。霧の濃さを俺は変えられないからだ。なのでゆっくり音を立てないように反転、勿論鎖は外してある。また音を立てないようにかつ互いにぶつかり合わないように本當にゆっくりと亀のような速度で後退する。
ポルネシアの水軍は強い、とリサさんが言っていたようになかなかの練度で本當に助かった。
船同士が當たるなどのアクシデントもなく、準備が完了した。
そして俺は深呼吸をする。
張で吐き気と眩暈と腹痛と頭痛がして來た。
目の前には木の板に書かれた、霧を遠地に発生させる時に必要なMPは〜、そして半徑何キロの霧を発生させる為、〜のMPを使うというMPの算出表がある。
別にMPの殘量は気にする必要はない。
當たり前だ。彼等には4倍を教えていない為、更に4倍の余裕がある。
ではなく、落ち著いている時でさえMPをまともに運用出來ないのだ。
この迫した狀況で込めるMP量を間違えないか心配なのだ。
指定位置ぴったりに霧を発生させるのは土臺無理な話だ。プラスマイナスがあるだろう。
そして霧の範囲の広さだって広すぎれば作戦に支障が出るし、小さすぎれば相手に気付かれる。
今この瞬間、俺の行一つでどれだけ人が死ぬのかが決まる。
そう思うと、誰か代わりにやってはくれないだろうかと意味のない考えが浮かぶ。
「……サマ、…ンサマ、レイン様!」
「ウオッ!!!???」
集中しているところに聲をかけられめちゃくちゃびっくりした。
「な、なんだ!?びっくりするだろうが!」
完全に素である。
「え!す、すいません」
コウだった。
俺の口調が荒かったのでこまってしまった。
「あ、いえ……、すいません。
で、なんでしょう?」
「いえこちらこそ申し訳ありませんでした。レイン様の目が走っていましたので一旦お止めしないと、と思いましてつい……」
「僕の目、走ってました?」
「はい、凄いハァハァ言って目が完全に危ない目でした」
それ完全に変質者だろう。
「そういう時は大抵失敗しますので一旦落ち著かれた方がいいかと思いまして」
コウなりに気を使ったのだろう。
「そうでしたか。ありがとうございます」
なんとか落ち著いた。
あとすげーどうでもいいことだけど飛んで火にる夏の蟲って昔は飛んでいる日にいる夏の蟲って思ってた。
意味は夏にはよく蟲が飛んでいてうざい→すなわち暑くなるとうるさい奴が出てくる、という意味だとと思ってた。
まあすげーどうでもいいことだけど。
「レイン様、まだ張していますか?」
「あ〜、どうでしょう?馬鹿なことを考えている余裕くらいは出てきましたよ」
「はあ〜、緩みすぎないようにお願いしますよ」
「わかってますよ」
まあ落ち著いたのは確かだ。
「よし!行きます!!」
そう言ってバッとマントを、剝ぎ取る。カッコつけているわけではなくこういう時は勢いが大事だからだ。
次の瞬間、掃除機でゴミを吸い取るみたいに俺に霧が吸収されていく。
(デンスフォグ!)
と俺はすぐに心で唱える。
まずは指定位置をMPで設定、その後、範囲を同じくMPで指定。
指定っていうかスロットを回しているじと言えばわかりやすいだろうか?
コウのおかげで張がほぐれ、余裕が出たのが良かったのだろう。
どちらも+200以に合わせられたのは。
空も曇りで夜中なので辺りは真っ暗だ。よく見えないが、遠くからブワッという音が聞こえた。
「お見事です。レイン様」
とプリタリアから言われる。
俺は吸収してしまう為使えないが彼等は魔法のブラインドネスを使っている為ボンヤリとだが相手の船が見えるのだ。
「全然見えませんがバレましたかね?」
心配である。
「見た所それはありませんな。
バレていたらこんな靜かにはならんでしょう。若干驚いたような音は聞こえますがね」
確かに遠くで本當に小さいがガヤガヤしているがしばらくするとすぐに靜かになり今度はガチャガチャ聞こえてきた。
「バレましたかね?」
心配である。
「錨を下ろしているのでしょう。
心配ですな」
「ははは…、まあし」
と誤魔化す。
「では、こちらもそれに乗じて移を開始しますか!紙に使ったMPを書いてください」
MPの減る量で距離がわかる為、使ったMPを羊皮紙に書き、艦長にも伝え、敵の大の位置を翼人族が全艦に持っていく。
「はあ〜やっと山場を越えた〜」
「いえ、安心するのはまだ早いですぞ!」
「あ、すいません」
(ちょっと不謹慎だったな…)
安心したのでつい口から出てしまった。
だが越えたのはレイン個人の山場であってこの艦隊全の山場ではない。
そうこうしている間に霧を取り囲むように軍艦が移をし終わり後は合図を送るだけになった。
「では、レイン様。始めましょうか、必勝の戦いを!」
「はい!!」
そしてレインが右手を上げ合図を送る。
ドォーーーン!!ドォーーーン!!
という2回の大きな太鼓の音が
ドンドンドンドンドンドン
と連打する音に変わり、
「「ワァァァァーーーー……」」
という音と共にポルネシア船が霧の中に消えていく。
次瞬間、霧の中のあちこちから
激しい船のぶつかり合いの音と帝國の人間が出しているのであろう悲鳴が響く。
そしてぶつかり合いが終わった頃を見計らってレインが霧に近付き吸収する。
そして霧が晴れたところで第二陣の船団からレインが前に使ったの魔石の更に広範囲版を花火のように空に打ち上げる。そして、後ろ向きのままゆっくり後退する第一陣の間をすり抜け、帝國の船に2撃目をくらわせる。
彼等は霧にってしまった時のマニュアル通りの対応をして錨を下ろしていた為、即座に移が出來なかったのだ。
彼等は攻城機などの荷を積んだ軍艦に偽裝した輸送船を護るように真ん中に配置し、外側を水軍の乗った軍船で囲んでいた。
そして2度にわたる衝角船の突撃。
しかも行きがけの駄賃と言わんばかりに魔法と矢が雨のように飛んできて外側一帯は大破炎上、そのまま轟沈してしまった。
そして、全の半分以上が沈んでしまってけなかったりそのまま轟沈してしまった帝國船の間を抜けるようにポルネシアの中型船が帝國の包囲網の側にってそのまま突撃してくる。
こうなると帝國側はもうをさない。
帝國兵達も応戦しているようだが何分まともな水軍は軒並み外側にいて既にやられている。
船をかしたり補助用として何人かは軍艦に偽裝した輸送船に同乗しているが所詮は補助だ。
弓はまだしも集中する必要がある魔法を揺れる船の上で放つには訓練がいる。
慌ただしく人がいている船の上で長々と詠唱なんかとても出來ない。
幾つかの短い詠唱の魔法は功して放てているようだが、ポルネシア側の船は全艦が軍艦だ。
當然、全艦に魔防コーティングはされており、弱い魔法では多傷付くくらいでその勢いにはしも影響しない。
結果、帝國は瞬く間に降伏し、ポルネシア側の圧勝となった。
ポルネシア側の沈んだ船は霧の中で運悪くぶつかりあってしまった軍艦だが10隻にも満たなかったという。
この戦は、この辺りの海峽の名前であるシゼリア海峽という名前からシゼリア海戦と呼ばれ、歴史上類を見ない一方的な海戦として歴史に刻まれることになる。
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