《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第83話 対バドラギア 前編
雙方一キロメートル程の距離を開けて陣を整え向かい合う。
お父様の橫を離れ、軍の最前線を辺りをグルっと周る。しつこいようだがやっぱり何も埋まってはいなかった。
敵はあのプリタリア様を撃退できる程の策略家らしい。準英雄級を凡才が倒したのだ。
そりゃあテングにもなるだろう。
気持ちはわかる。
俺なんか大した事してないのに偶にテングになるからな。
バドラギア軍はこちらを待ちける構えのようで、盾兵を前面に集さている。
その盾兵の一番前から五十メートル程後方に百人程の魔導兵が十人一組で固まっており、更に五十メートル後方に弓兵を配置する、この世界では基本的な守りの構えだ。
弓より魔導兵が前なのは距離が開けば開くほどMPが必要になるからである。
他にも、魔導兵は一度敵を焼き払えればそれで十分役目を果たしたと言える。
だが、萬が一盾兵を突破され、接近を許した魔導兵など槍を持った農民兵以下であり、量産が不可能である彼等を敵からの一方的な攻撃から守る必要がある。
敵の騎兵が味方の盾兵を蹴散らしている間に貴重な魔導兵が逃げる事が出來てかつ再度中規模な攻撃魔法を放てるギリギリの距離、それが50メートルだ。
対してこちらは一點集中突破を目的とした角錐陣形だ。
騎兵を前面におき、その後ろに歩兵を配置、中央に司令塔であるお父様と魔導兵が陣取る。
「リドル、どうだ?」
帰ってきた俺に対するお父様の第一聲がそれだった。
俺は靜かに首を橫にふる。
それを見たお父様は、
「よし、わかった」
とだけ言ってから馬に乗る。
「敵が何をしてくるのかわからんが……まあ、戦ってみんとわからんだろう」
お父様は自陣の中心でそうぼやく。
「ポルネシア軍に告げぇぇぇぇる!!!!」
突然敵側から響いてきた聲に驚きそちらを見る。そこにはこちら側の陣の手前二百メートル辺りに敵の將と思われる二メートルは軽く超えているだろう長の大柄な男が共を一人連れ仁王立ちしていた。
右手にはこれまた巨大な槌を持っている。
俺は急いでそちらに向かう。
「俺の名はバドラギア軍第二師団団長ギドル!
そして、この軍の軍師を務めるのは貴様らポルネシアの準英雄級魔導師ブリダニアを屠った我が國の第一王子グリド様だ!
貴様ら愚か者共をに告げる!貴様らには萬に一つの勝利もあり得はしない!
今すぐその汚い旗をたたんで自國に逃げ帰れば特別に追わんでおいてやる!」
その言葉にこちら側の兵はし揺する。
だが、逃げる者はいない。
最前列近くについた俺は心の中で突っ込む。
ブリダニアじゃなくて、プリタリアな。それに死んでない。生きてるぞ。
當然俺の心の聲は屆かず、ジロリとこちらを見回し引かないとみるや、
「愚かなるポルネシアの民共よ!
我が軍の恐ろしさをそのをもって知るがいい!」
そうび、自軍の方に踵を返し帰っていった。
俺もさっさと中心に戻る。
「あの愚か者のステータスはどうだった」
これが俺の目的だ。
まさかあの距離でステータスを見られるなんて想像もしてなかっただろうな。
「なかなか強いですね。
レベルは42。
STRが286。VITが185。AGIは130。
魔法才能は火だけでレベルは4。
スキルはレア度5のSTR増加率大とレア度7の豬突猛進というスキルです。
力重視のパワータイプですね」
先ほど豬突猛進を神眼で見てみたが、
豬突猛進
相手とぶつかった際、自のSTRが相手より勝っていた場合、勢いを維持する事が出來る。
いや……強くね?
マジかー。つえー。
これどうすんだ?典型的な脳筋タイプだぞ?
恐らくこいつが平原で戦う一つの理由だろう。
森や城での守りにはどう見ても向いていない。縦橫無盡に敵を蹴散らせる場である平原こそ奴の獨壇場になり得るのだろう。
心配する俺に対しお父様はフンと鼻で笑いながら、
「戦は力ではない事を奴らに教えてやろう。
リドル、私の掛け聲に合わせて支援魔法をかけろ。
出來るな?」
「はい!」
騎馬を三歩ほど前にかし、大きく息を吸う。
そして、右手を上げる。
するとドォーン!ドォーン!と二回太鼓を打つ音が聞こえてくる。
その音に気付いたポルネシア兵のざわめきが止まる。
喋る者がいなくなった場にお父様の聲が響き渡る。
「ポルネシア兵に告げる!!!」
お父様の鼓舞が始まった。
「貴様らを率いているのは誰だ!!??
このロンド・デュク・ド・オリオンである!!
オリオンが率いた軍は猛る事火の如く!!」
そう言った瞬間、全に魔法が行き渡る。
「不である事山の如く!!」
その言葉にまた全に魔法が行き渡る。
「疾き事風の如く!!」
更に全に魔法が行き渡る。
「そして、水の如く縦橫無盡に敵を殲滅する!!」
最後の魔法が行き渡る。
その頃には既に兵に不安の顔は何処にもなくなっていた。
「高々倍程度の敵にこのオリオンが敗北した過去があったか?」
兵達はその言葉に武を持ちながら腕を上げ下げして、
否!否!否!
「敵が何であろうと我らの戦い方は変わらぬ!
ポルネシアの同胞達よ!奴らに知らしめよ!
このオリオンの前に立ち塞がった愚かさを!!」
オオオオオオオォォォォーーーーー!!!
「バルドラァァ!!先陣は任せたぞぉ!!」
「お任せあれぇ!!」
お父様に負けず劣らずデカイ聲が最前線から響き渡る。
「全軍!突撃!!」
オオオオオオオォォォォーーーーー!!!
その掛け聲と共にポルネシア“全軍”がき出す。
先程の魔法の波はもちろん俺だ。
最初から順番に
火レベル6支援魔法
《パラフルピープル/猛軍》
地レベル6支援魔法
《ディフェンシングアーミー/防軍》
風レベル6支援魔法
《スピードトュループ/疾風隊》
水レベル8回復魔法
《クラデュアルエクスヒールエリア/水神の祝福》
である。
俺が今使える最高の支援魔法だ。
全軍のSTR、VIT、AGIをそれぞれ+200させた。
どれ位強くなったのかというと。
農民兵が殆どの一般兵は、ステータスの平均が100いくかどうか。
それに+200して平均300以上になった。
即ち、強さがおよそ三倍になった、と考れて間違いないだろう。
職業兵士の鋭達のステータスもおよそ倍。
通常の倍の速度で走る騎兵と三倍の速度で走る歩兵。
見てすぐにわかるポルネシア軍の速さの違いに綺麗に整列していたバドラギア軍の盾兵に揺らぎが生じる。
だが、その後ろに控えていた魔導兵は流石の集中力で魔法の詠唱を続ける。
バドラギア軍の盾兵もポルネシア軍と同じ、その割合の殆どが農民兵である。
しかし魔導兵は例外なく普段は冒険者をやっている者達なども含め、全員が鍛えに鍛えた鋭兵だ。
ポルネシア軍の腳が予想よりかなり疾い。
それだけで集中力をす程ヤワな鍛え方はしていない。
十人一組で合唱魔法の詠唱を淡々と続けているのがここからでもわかる。
彼らの足元には未だ魔法陣が出來上がっており、その數は十。
「レイン!!」
中心で馬を走らせながらお父様が俺にぶ。
「お任せください!」
闇レベル6支援魔法
「《アリアブレイク/詠唱破壊》!!」
俺が無詠唱で唱えた瞬間、魔導兵達の右端の集団の魔法陣がパリーンと音をたてて崩壊した。
「次!」
右端から順に詠唱破壊を掛けていき、左端まで破壊し終わる。
その間に気持ちを立て直した右端の何人かの魔導兵がレベル一の魔法を放ってきて、こちらの騎兵の何人かにあたり落馬する。
それとほぼ同時に矢が騎兵に降り注ぎ、同じく騎兵の何人かが落馬する。
だが……それだけだ。
ポルネシアの騎兵が目の前に來ても魔法が放たれない事を知った前衛の盾兵の何人かが後ずさる。
指揮と思われる人間が必死に「後ずさるな!盾をきちんと構えろ!」とんでいるのがここからでもわかる。
だが、この狀態から立て直すのは土臺無理な話である。
盾兵達の顔は「聞いていた話と違う!」と言わんばかりの表だ。
なんとかその場に立っている兵も腰が引けていて盾を持っているというよりは、支えているという表現が近い。
その綻びに、
「ドゥオリャァァーーーーー!!!」
バルドラを先頭にしたポルネシアの鋭の騎兵隊が突撃をする。
宙を舞うとバドラギア兵の腕や首。
アッサリと側にられてしまったバドラギア前衛は既に崩壊しており、騎兵の先陣は既に盾兵の集団を抜け、魔導兵に追い付く。
先ほども言った通り、失敗しても“ギリギリ”逃げられる距離なのだ。
速さが二倍になったポルネシアの騎兵からは逃げられない。
持っている武が杖であった彼らは太刀打ちできず、たちまち全滅させられた。
その後ろのバドラギアの弓兵達は魔導兵が失敗したと分かった瞬間、一矢って即座に反転し、奧に引っ込んでしまった。
その弓兵の間を抜け、バドラギアの騎兵が急いでやってくる。
たが……
「ジャマジャァァァーーー!!!」
バルドラ率いる騎兵の勢いは止まらずバドラギア側が明らかに押し負けているのがわかる。
勢いに乗り敵を蹴散らしながら更に奧に進もうとしたその瞬間。
彼らの中心付近から勢いよく霧が広がりポルネシア前衛の軍全てを包んでしまった。
- 連載中43 章
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