《異世界で始める人生改革 ~貴族編〜(公爵編→貴族編》第85話 対バドラギア戦後編
敵は三段構えをしてきた。
敵ながらあっぱれだ。
自分達で前に派手な演出をし、前に目を向かせ、その直ぐ後に背後から奇襲。
それに対して対応させている間に更に橫からの突撃。
四度目はない。
この策が使用可能なのは、相手を騙せるのは三度が限度だ。
幾ら何でも三度もやられればいい加減気付く。
前進している右側からの奇襲の為、左側からも來るのでは?という思考により、左の軍の層を薄くは出來ない。
右側からの奇襲は右側の軍だけで対処しなくてはならなくなった。
そして、敵の殲滅が可能な魔導兵は後ろ側に送ってしまっている。
彼らはすぐに引き返す事は出來ないし、よしんば間に合っても詠唱する時間もない。
ポルネシア軍は縦に若干細長くなっており、その中心にいるお父様への最短ルートはたった今奇襲をけた真橫。
そんなバドラギアにとって最高のタイミングで突撃する將。
それは當然、バドラギア軍最強の鉞。
「ハーハッハッハ!!ポルネシアの愚か者共!!
オリオンはそこかぁぁぁ!!
今すぐその首、差し出せぇぇーー!!」
そう言いながら突撃してくる大將ギドルである。
つか乗っているがさっきと違うんだが……。
先程俺達の前に來た時はでかいが普通の馬だった。
だが、今乗っているはイノシシだ。
しかもかなりデカイ。
盾だけで三メートルはある。
橫も二メートルもあるその丸いフォルムに鞍を乗せ、足でガッチリとイノシシの腰をシッカリと挾み、バランスをとっている。
スゴイ景だ。
「……すげー……」
それにしても、敵の軍師……すげー。
……すげぇクソ野郎だな。
人の命を何だと思ってやがんだ。
チッ!それにしてもこれ、どうするか……。
敵にかなり接近を許している。
逃げるか?
「リドル」
一回引くしかないかな?と俺が結論付けようとした時お父様に聲を掛けられる。
「は、はい!何でしょう?一回引きますか?」
素直にそう聞いた。
「違う」
思った事を発言したら違った。
お父様は落ち著いた様子で、
「お前、まさかあの程度の策で驚いていないだろうな?」
そう聞いてきた。
「え?えーと……」
無茶苦茶驚いてますが何か?
敵ながらあっぱれだ、とか思っちゃいましたが何か?
俺の雰囲気で気付いたお父様がフゥーと溜息を付いた。
「レイン。オリオンは一代目から今まで何代続いている?」
え?突然なんだ?
というかこんな事していていいのか?
そう思ったが聞かれたので答える。
「十代以上だったかと」
正確な數なんて知らん!
十は続いていたはずだ。
え?知らないのか?という顔に一瞬だけなったお父様だったが、すぐ持ち直した。
「……まあ良いだろう。
つまりはオリオンの歴史は數百年に及ぶ。
わかるな?この固まった狀態でしか力を発揮出來ないオリオンが數百年に及んで考えたのだ。
この狀態で敵に勝つ方法を。
たかが三度の奇襲程度でこのオリオンが揺らぐ筈がなかろうが。
私への最短距離に最も信頼を置く最強の者を突撃させる。
當然の策だな。
故に、當然思い付く策だ。
ならば私は當然その將を討ち取る為我が軍最強の者をそやつにぶつけ、逆に討ち取るのは自然の事だろう?」
ハッ!?
俺は慌てて神眼と眼を併せて右を見る。
そこには、いつもの普通の槍とは違う、五メートルに及ぶ長槍を攜えたランド隊長がいた。
それを見たギドルが
「ハッハッハ!オリオンの將と見た!!その首!貰いける!」
と言って、持っていた巨大な槌を振り被る。
「終わりだ」
お父様がそう呟いた気がした。
ギドルが槌を振りかぶり、振り下ろそうとした瞬間、ランド隊長がく。
全全霊の一撃。ただただ真っ直ぐに槍を突き出した。
ギドルはこれまでの経験とは違う長い槍の間合いに、慌てて持っていた槌で防ぐ。
が、その瞬間、持っていた槌ごとを貫かれ大きな風を開け、間欠泉のようにが吹き出る。
ギドルの口が小さく、
「バカな……」
といた。
そして、ドサッと地面に崩れ落ちる。
「バドラギア軍將キドル!
オリオン家が將!このランドが討ち取ったりぃぃぃーー!!!」
槍を高々と上げ、いつもは紳士的なランドが吼える。
その後すぐポルネシア側から歓聲が出る。
ウオオオオオォォォーーーーー!!!!
カンカンカンカン!!
それと同時に聞こえる甲高い鐘の音。
俺の知る限りこの音はポルネシア側ではない。
だとするならば狀況から言ってバドラギア側の撤退の音だろう。
だが、その背後を突く形でバルドラがバドラギアの騎兵に突撃を敢行している。
いつの間に敵將討ったんだ……。
まあ余裕そうだったからそれ程驚かないけど。
バドラギアの騎兵は逃げられない。
前と後ろで挾まれてしまったからだ。
周りのバドラギアの兵は騎兵を置いてサッサと撤退を開始している。
敵將を失った彼らが孤立無援の狀態で孤軍闘するのかと思ったが、向かってきた騎兵の數は俺が思ったよりはるかになかった。
囲まれる側から囲う側になったポルネシア軍に瞬く間に鎮圧され、突っ込んできた兵の殆どが捕虜になった。
ポルネシア•バドラギアの初戦。
ポルネシアの兵の殆どは農民兵である。
だが、それはバドラギアにも言える事で軍というのはその殆どが農民などから徴兵される一般兵が殆どだ。
即ち、兵単の強さは雙方で殆ど変わらない。
故に、レインの支援魔法で三倍になった力で繰り出される槍の一撃を盾で防げず、三倍になった速さでくポルネシア兵に翻弄され、三倍になった防力を突破し急所を突けたバドラギア兵は殆どいなかった。
更に部位を欠損しない限り、この戦では再起不能と思われるダメージを負った者が暫くすると戦線に復帰する。
結果地面に転がる死。
そのの九割以上がバドラギア兵の者であった。
ーー撤退するバドラギアーー
あり得ない……。
これ以上無いタイミングだった筈だ。
最高のタイミングで投したギドルがまさかあんなあっさり討ち取られるとは思わなかった。
「クソッ!あの豚!俺の名譽を汚しやがって!
使えねぇ野郎だ」
撤退し安全な場所に避難したグリドはそう呟いた。
「クソクソクソ!俺の作戦は完璧だった筈だ。
なのに……なのに……」
この上無いほどあっさりと敗北した。
「おい!此処に偵のクソどもを呼べ!!」
近くの者にそうぶ。
(どれもこれもあの無能共のせいだ!)
そして連れてこられた偵達は震えていた。
何を言われるのか、何故呼ばれたのかが分かっているからだ。
「おい……」
グリドは人生で一番では無いかと思われるほど低い聲を出しながら聞いた。
「「ヒィィーー!!」」
「お前ら、ポルネシア軍の殆どは寄せ集めの農民兵とか言ってなかったか?」
偵は震えながらカクカクと頷く。
その態度にイラついて怒鳴る。
「あれの何処が農民兵なんだ!?
何処からどう見ても鋭軍並だっただろうが!!いや、ヘタすればそれ以上だ!!
貴様ら無能共は農民兵と鋭兵の違いすら分からないのか?」
激昂して怒鳴るグリドに対し、偵達は震えながら、
「わ、私達が集めたじ、報では、か、彼らの殆どは農民兵でした。
それは間違いありません!」
と斷言する。
彼等とて、數年、數十年にも及ぶ偵としてのキャリアがある。
彼自も含め、ポルネシア兵の殆どが農民兵である事は確認した。
だが、激昂したグリドにはそんな事は関係ない。
「あ?!
実際が違ってたら意味がねーだろうが!!!」
そう言って持っていた剣でその偵を真っ二つに切る。
そしてその後すぐ兵を呼び、
「この無能共の首を刎ねよ!」
と命令し連れて行かせる。
偵達が命乞いをする聲が聞こえる。
それを無視して思案にる。
正直言って舐めていた部分はあった。
前回はプリタリアを森にい込み、見事深手を負わせたところまでは良かったのだが、ポルネシアの將軍の所為で追っ手を撒かれてしまった。
その教訓のつもりで平原に兵を配置したのだ。
しかも、実は別働隊數萬がポルネシアとリュミオンの道に既に待機していた。
今度は逃さないつもりで前後で挾み撃ちにする予定だったのだ。
今はもう帰還命令を出しこちらに向かっているのだが。
「クソッ!初めて見たがまさかあそこまで萬能の能力だったとは!」
グリドは苦々しげに呟く。
自分を下したオリオンの寶の名を。
オリオンの継承スキル。
“十萬軍”の名を。
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